a misty dream |
ごめんね… ごめんね… 暗い… 深い海の底から聞こえてくるような不思議な音とおまえの声 ごめんね… 泣いてるのか? どうして? 俺がいるだろ? 俺が… ああ、俺、人魚みたいに声が出てないのか 人魚はおまえなのに そうだ これは夢 思い通りにならない夢 そんな夢を最近たくさん見るんだ 今日もまた… おまえには笑ってて欲しい だから、声、出さないと… 「泣…くなよ…」 暗い… 目、開けても さめないかな、夢? おまえの姿を見たい さめるのが嫌だから ゆっくり ゆっくり 瞼を持ち上げる ああ、ここは… 海の中じゃなくて、 霞の中だったのか 俺が寝てるのは 雲のベッド? フワフワしてる 俺を覗き込みながら泣いてるおまえ 近いはずなのにぼやけてる 霞のせい? 「て…る?」 「もう…泣くな…」 「ごめんね…」 両手を伸ばして おまえの頬を包み 真珠の粒みたいに ポロポロこぼれてた 涙を指先でぬぐう そう これは、俺の願望 おまえに優しくしたい 照れずに 周りを気にせずに 本当はとびっきりの優しさを おまえにあげたいんだ それから いつだって こんな風におまえに触りたいと思ってた おまえはよく俺に触ってくるけど 本当は俺だって 自分からたくさん触れたい って思っていたんだ 夢なのに 頬のやわらかさとか 涙の温かさとか 感じられるんだな 不思議だ おまえの 頬 耳 首筋 唇 …すべすべで やわらかい 初めて知った 「てる…」 困ったような瞳で俺を見るおまえ 可愛い キスしたい おまえを抱き寄せて口付ける 「あ………」 びっくりして強張ったおまえの体 やわらかくてあたたかなおまえの唇 ふんわり漂ってくる甘いカフェオレの香り 俺の指で サラサラの髪を梳いたり うなじを撫でたり 耳をかすめたり 「…んっ!」 そして 何度も角度を変えて口付ける 何度も 何度も 「んん…………」 やわらかい このまま おまえを 俺のものにしてしまいたい 唇を離して おまえをジッと見つめる おまえの顔 まるで満開の桜のように 霞の向こう側で ピンク色に光っている 「だめ………もうこれ以上は…」 思い通りにならない夢 俺の夢なのに 「もう行くね…」 どこへ? 俺を置いていくのか? 「さよなら…」 行かないでくれ!!! 「また会えるから」 遠ざかる気配 一人残された俺 なんで俺の身体は動けないんだ? なんで起き上がれないんだ? 思い通りにならない夢 自分の体が 雲のベッドに 深く 深く 沈んでいく ああ、これでこの夢は終わったのか、 と、濃くなっていく霞の中で 俺は意識をなくしていった ジリリリリリリリリ……………… 「朝…?」 頭いて 昨日の夢が強烈だったから? 今までに感じたことの無いぐらい 今朝の頭痛はひどかった 「瑛、起きたのか?」 「ああ、じいちゃん、おはよう」 「おはよう。朝食、食べれるか?」 「あー、ううん、なんか食欲無い、ムカムカする」 頭痛はするし ムカつくし 風邪でもひいたか? 「まあ、ケーキをあれだけ奢られたら胸やけもするだろうなあ それに…」 ああ、じいちゃんの声が頭にガンガン響く そう、昨日は俺の誕生日だった 学校でも手作りクッキーやら マフィンやら色々もらって 店では女性客から 沢山ケーキを奢ってもらった 手をつけないわけにもいかず、 律儀に一口ずつは食べていたけど それだけでこんなに気持ち悪くなったっけ? 去年はそんなでもなかったのに 「昨日、お嬢さんが謝ってたぞ」 「え?」 昨日見た夢を思い出す ごめんね… じいちゃんが知ってるはずないよな? 「様子を見ててもらったのに、 しばらくしたら 慌てて降りてきたな。 何かあったのか?」 「え?様子って?」 「なんだ、おまえ、覚えてないのかやっぱり」 「何を?」 そういえば、俺、店終わったあとどうしたんだっけ? なんか、片付けとかした記憶が無い…? 「昨日、お嬢さんがおまえにレモンジュースを渡しただろ?」 「…あー、喉渇いたって言ったら、持ってきたな、あいつ」 「あれな、お客さんに出すように作ったダイキリだったんだ」 「え?」 「それを一気飲みして おまえ、バタンキューで大変でな」 「え…」 「なんとかベッドまで歩かせた後、 心配だったからお嬢さんに様子を見てもらってたんだ」 「覚えてない…」 「お嬢さん、自分がお酒を渡したから、 って言ってかなり落ち込んでなぁ…」 「…」 「それなのに、突然帰ってしまわれたから… 何かあったんじゃないのか?」 「あ!」 「やっぱり何かあったのか?」 「あー、いや、俺、覚えてない…」 それじゃ、 もしかして、 あれは… …夢じゃなかったのか?! やばい まじか? ああー、そういえば、 夢なのに 感触とか 温度とか 香りとか あったもんなぁ… 唇… やわらかくて ふわふわで 気持ちよかったな… じゃなくって!! どうしたらいいんだ?俺!! あ…そういえば 今日は日曜日… 海、行こうって約束してたよな うわぁ… どんな顔して会えばいいんだよ とりあえず謝るか? それとも覚えてないふり? いやいやいやいや 男としてそれは無いだろう 夢だと思ってました、って正直に言うか? いや…それじゃなさけなさすぎだろ きちんと言うか…? 昨日のことは酔った勢いとかじゃなくて… 「おまえのこと、好きだから」 |
ごめんなさいー! 未成年なのにお酒飲ましてしまったー! 事故です、仕方ないのです。 すべて主人公ちゃんのドジのせいなのです。 ウィンドウを閉じて戻ってください。 |