スマイルひとつ
「サエテルは3年になってますます王子スマイルに磨きがかかったなぁ」 屋上の騒がしい一角を見つめがら、はるひちゃんは「は〜」と感心したような溜息を吐いた。 わたしも同じ方を見て頷く。 「確かに、そうかもしれないね」 「な。屋上ランチの予約待ちも大変らしいで」 「ふうん」 「ふうんて……ええの?」 「え? なにが?」 「あかりはほんま大らかっちゅうか、心が広いっちゅうか……」 「えー? そうかなぁ……」 お弁当を食べながら瑛くんの方をもう一度ちらっと見てみる。 学校でいつも見せる爽やか笑顔は、太陽の下だとその素敵度はさらにアップ。 キラキラした笑顔を近くで見ているあの子たちはどんな気持ちなんだろう? わたしが近くで見る瑛くんはどっちかといえばムスッとしてる方が多いもんなぁ……。 あ、あと、偉そうにふふーんって笑うこともよくある。 二人でいる時は、一緒にはしゃいで大笑いしたり、急に優しく笑ってくれる時もある、けど…… 「――疲れへんのかねえ?」 「え?」 「なんや、聞いてなかったん? サエテル、あんなずーっと笑ってんのも疲れるやろうなって」 「ああ、そうだよねぇ……」 問題を起こさないようにって、学校での瑛くんは1年生の頃から優等生だった。 それがもう2年以上も続いてたから、ちょっと忘れてた。 ああいうのはきっと慣れることなんてできないもんね。 本当は物凄く大変なんだろうな……。 「お疲れさま」 「ん……これ片付けるからちょっと待ってろ。送るから」 「うん、でも……」 閉店後の珊瑚礁の片付けは、瑛くんと二人でやっている。 もう3年目なんだなぁ、ここでのバイトも。 マスターには色んなことを任されるようになった。 「でも? なに?」 「あのね、わたしなら一人で大丈夫だよ?」 「は? それ、どういう意味だよ」 「瑛くん疲れてるかなぁって思って。えっと、ちょっとでも休めるといいかな、なんて」 「はぁ……なんだよ、そういう意味か」 カウンターの中での片付けを終えた瑛くんがエプロンを外しながらホールに出てくる。 ちょっとムッとした顔してるけど、わたし別に怒らせるようなこと言ったつもりないのに。 瑛くんの不機嫌フラグはどこで立つのかいまだによく分からない時がある。 わたし何かしちゃったっけ? とぼんやり考えていたら……やられた。 「うう……またチョップされた……」 「おまえが紛らわしいこと言うからだ」 「別に紛らわしくないもん。疲れてるなら休んだ方がいいんだもん」 「俺がいつ疲れたって言ったんだよ?」 「はるひちゃんが教えてくれたんだよ。ずっと笑ってると疲れるだろうねって」 「西本がねぇ……」 瑛くんはふーんと言いながらカウンターテーブルにもたれかかる。 「こっち来いよ」と人差し指でわたしの立つ位置を示す態度は相変わらずの上から目線。 なんでお説教されなきゃいけないんだろうと思いつつ、こういう雰囲気の時に反抗するとチョップの数が増えるから大人しく近付いた。 ふぅ……何を言われるんだろう? うつむいたまま瑛くんの白いシャツを見ていたらふと昼休みのことを思い出した。 (今日の女の子たち、沢山触ってたよなぁ……) ……気付いたら手を伸ばしてた。 きゅっ。 珊瑚礁の制服の白いシャツ。 さっきまで片付けしてた瑛くんの腕まくりしてるあたりを軽くつかむ。 (あと、肩とか背中とかいろんな子に触られてたっけ……) ぺたり。 半歩近付いて肩の少し下あたりに触れてみた。 わたしよりちょっとだけ高い体温をシャツ越しに感じる。 「あのさ……なにしてるの? いいけど……」 「え? あ!」 瑛くんの顔を見上げたら、ちょっと赤くなってムスッとしていた。 えっと……これは、ちょっと、こっちも照れてしまうかも……。 「なあ……」 「うん?」 「あのさ、俺が疲れてるって言ったら、おまえは何かしてくれるの?」 「え……っと、わたしにできることなら」 「そっか……じゃあ、もうちょっとこっち」 「う、うん」 半歩前に出たら、もうあと何センチかで瑛くんにぶつかりそうなぐらい。 コーヒーの香り? 良い匂いがフワッと周りに広がる――というか包まれてる感じ? うう……ドキドキしてきた……。 「えっと、それからどうすればいいの?」 「こうして、このまま……」 いつもはチョップに使われる手は今はわたしの頭の上。 ゆっくりゆっくりわたしの髪を撫でる。 撫でられるのは気持ちいいけど、なんだか恥ずかしくて顔から火が出そうだよぉ……。 でも、これで――本当に?――瑛くんの疲れが取れるなら、じっとしてるしかない。 ぎゅーっと拳を握りしめて、身体に力入れて、目を瞑って、耐えよう。耐えるんだ。 「ぷっ……おまえ、なんでそんな力入ってんの?」 わたしの様子に気付いた瑛くんが小さく吹いた。 途端にナデナデの手が速くなる。 ごしごしごしごし…… しかも今度は両手で。 わしわしわしわし…… 「アハハ!」 「なんで笑ってるのー?!」 「おまえ、やっぱいいな! カピバラは癒される! アハハ!」 「もうっ! 髪の毛がぐしゃぐしゃになっちゃったよ……」 「悪い」 謝りながらもおかしそうに笑ってる瑛くんを見ちゃったらそれ以上怒れなくなっちゃった。 だって……。 昼間他の子たちに見せていた笑顔とは全然違うんだもん。 本当に楽しそうで、自然で。 何より。 瑛くんの瞳の中にいたのは、わたしだけだったから。 悪い悪いと笑いながら髪の毛を直してくれる瑛くんを下から見上げ、わたしも心からのスマイルを返す。 「…………」 あ……瑛くん、固まっちゃった。 ほっぺが赤くなってる。 「ふふっ!」 「っ……!」 今度はスッと温度が下がった。 ああ、まずい! 笑いすぎたからチョップされる! 覚悟を決めてギュっと目を瞑って身構えた。 それなのに一瞬だけ。ギュウッと包みこまれたような……? 「え?」 ビックリして目を開けて瑛くんを見上げたら―― 「…………痛い」 「いきなり色仕掛けとかするおまえが悪い」 「してないもん!」 「いーや、してた」 「もう!」 やっぱり楽しいな、瑛くんと二人でいる時間。 ……チョップは痛いけど。 学校じゃ見られない本当の瑛くんがここにいるんだと思う。 瑛くんも楽しいって思ってくれてるのかな? 笑ったり怒ったりして余計疲れたりしていないかな? そんなことは無い……よね? 瑛くんの気持ちが見えるといいのにって斜め下から覗きこんでみた。 「ああ……、もう……。今日はもう色仕掛け禁止!」 ふいっと視線をそらされてしまった。 でも、すぐまたこっちを見てくれて「まあ……いいけど」と呟きながら……笑ってくれた。 今日一番のスマイル。 瑛くん。 その笑顔は ずっとずっと わたしだけに ちょうだいね。 (あとがき) だいぶ遅れてしまいましたが・・・ ハッピーバースデー瑛! GS2から入った私にとって王子といえば瑛です。 王子らしくない王子の部分が大好きです。 瑛らしさ全開でデイジーやハリーと繰り広げられるやり取りが大好きです。 20歳のキミはどんな風になっているのでしょうね? 今度じっくり想像してみますね。 …って! 中身は誕生日テキストではありませんでしたー! すみません! TeruTan10企画投稿作品 Site name : Say my name. Say more. Site address : http://sayco.hanabie.com/ Site owner : Say-co (2010.07.23) |