大切な日常




「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

最後のお客さんを特上のスマイルで送り出す瑛くん。
だけどクルリと振り向いたその顔は物凄く――

「ねえ、瑛くん? 部長ヅラになってるよ?」
「……は!? なってない」
「なってるよ。ほら、ここ、皺になってる」

そう言って瑛くんの眉間に手を伸ばした。
指先がちょっとだけ触れた――その瞬間、瑛くんがキュッと目を瞑る。

「!! ちょっ……、待て待て待て」
「あ、元に戻った。よかったね!」
「ああ、そうだな。よかったよかった……って、分かってない、おまえは絶対分かってない。俺がどんな――」

後半の呟きは聞こえなかったけど、瑛くんの顔、さっきより柔らかくなった。
だから、わたしもホッとして笑うことができる。

――ねえ、瑛くんは、知らないよね?

わたしにとってこの時間がとても大切な時間だってこと。
胸の中がきゅんとして、自然にほっぺが緩んじゃう。

「ニヤニヤしてないで、さっさと片付けろ」
「はーい」

にっこり笑って返事したのに、プイッと顔をそむけられた。
そんな瑛くんには聞こえないように、いつもみたいに唇だけ動かす。

いつか言えたらいいな。
言えないかもしれないけど……



(だ・い・す・き)


















(あとがき)
ハッピーバースデー瑛!
…って! 今年も中身は誕生日テキストではありませんでしたー!
しかも慌てて発掘した超短いテキストでした。すみません・・・
こういう何気ない日常が幸せ。
何年かしたら忘れちゃうような些細なことも大切な一コマになるように、
これからもちょっとでも書き続けていきたいと思います。

(2011.07.19)



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