01. 11/14(金) 7日前




好きって言って
好きって言われて
初めてのあなたの誕生日。

だからとびっきり喜んでもらえるものをあげたい。

何がいい?

スポーツタオルだったらいつも持っててもらえる?
でも消耗品だよね、いつか捨てることになるものはやだな。

あ、目覚まし時計は?
確か志波の部屋にあった時計は曲がってた。
でも動いているものをわざわざ捨ててまで新しいのにできないか。
物は大切にしないと。

ケーキは?
おなかに入ったらなくなっちゃうし。

置物やぬいぐるみもなんとなくガラじゃなさそうだし。

ストラップは修学旅行でもらったお揃いがあるし。

いつも制服の下に着ているアンダーシャツは?
一番近くに感じてもらえるかもしれないけど………なんか違う。



だ…だめだ………。



私の足りない脳みそにはすぐに限界が来てしまった。







「というわけで、志波、何か欲しいものない?」

「………おまえ、そういうのはもっと悩め」

「だって、欲しいものあげた方がいいじゃん?」

「ハァ………」

「ね、何が欲しい?」

「おまえがくれるものならなんでも………」

「何か一つぐらいあるでしょ?欲しいもの」

「………ある。けど、言わねぇ………」

「えー!何、何、何ー?!」

「少しぐらい悩め、おまえは」

「うーーーー」



教えてくれてもイイのに。
ケチ!







『というわけで、何だと思います?教えて下さいよー、先輩!』

『………』

『もしもし?あれ?真咲先輩、聞こえてます?もしもーし!』

………おまえ、ホント少しは悩め』

『悩みましたよー!志波が送ってくれたあと2時間は悩みました』

『あのなぁ………』

『だって、いくら考えてもわからないんだもん!』

『あーあ、勝己もかわいそうに………』

『なんでかわいそうなんですか?誕生日プレゼントあげたいって言ってるだけなのに』

『欲しいものねぇ………心当たりはなくもない』

『え?ホント?教えてくださーい!』

『言ってもいいか?後悔しないかー?』

『プレゼントごときで後悔しないでしょ?』

『いいんだな』

『なんでそんな気合必要なんですか?いいに決まってます』

『じゃ、ゆーぞ。いいな?
 あのなぁ、高校3年生の健康な男子が誕生日に欲しいものはな−−−』





呆けた状態で真咲先輩との電話をきった。

や、やっぱ聞かなければよかった、かも………。
だって、それは、ちょっと、早いっていうか………。
あーでも男子の18歳って確か結婚できる年齢で………
………いやいやいやいや、待て、私。
結婚できる年齢だからってなに?

だだだだって、
好き同士だけど、
キ…キスだってまだ数回しかしてないのに、
いきなりそれはムリでしょ。
ないないないないない。

そういえば、はるひと一緒に見た雑誌に
体験談が色々書いてあったなぁ………

「彼が優しかったから平気でした」
「一つになってとっても幸せだった」
「最初は痛くて涙がでちゃいました。でも幸せ」
「好き同志なら当然の流れ」

………興味が無い、といえばそれは嘘で、
雑誌や漫画なんかには色々と書いてあるわけで、
情報は色々とあるわけで、
好きな人とならって、思ったりもする。

そりゃ、いつか誰かとはするんだろうけど………。
でも、今?
今なの??
そうなの???

ん?
誰かって誰?
志波、だよね?
その時もちゃんと志波と一緒にいる?
大丈夫だよね?

あれ?
も、もしかして、別れちゃうって事もあるの?
そんなの想像できないけど
でも、もしそんな事があったら
私、私、わ………





『わーん!!!』

『………耳、いてぇ』

『うわーん!!!』

『………おまえ、今、どこにいるんだ?』

『志波んちの前、グスン…うううぅ………』

『はぁ?何時だと思ってんだ?そこにいろ、すぐ行くから』



ここだと目立つから歩くぞ、って手を引っ張ってもらって
夜中の森林公園まで散歩してしまった。



「で、なんで泣いてんだ?」

「わーん!志波と別れたくない!」

「はぁ?いつオレが別れるって言った?」

「言わない。でも、もしも、いつか、いなくなっちゃったらって思ったら、私、わた……わーん!」

「ハァ………勝手にヘンな将来考えるな」

「だ、だって………」

「まったく………」

「うぅ、ひっく………」

「………ほら」



いつもみたいに優しく腕の中に閉じ込められて
私は志波の胸にほっぺを摺り寄せる。



トクントクントクン



いつもちょっとだけ速い志波の心臓の音。
安心する。



「大丈夫だ、オレたちは別れたりしない」

「うん」



頭をなでてくれる大きな手。
温かくて気持ちいい。

前を開けた上着の中に入れてくれるから
すごく温かい。
ずーっと離れたくない。



「ねえ、志波?」

「なんだ?」

「誕生日、志波の欲しいものあげてもいいよ」



頭をなでていた手がピタリと止まって
心臓の音が速くなってきた。
それがなんだかおかしくって



「ふふ………クスクスクス」



笑ってしまった。



「じょ、冗談か?」

「冗談じゃないよ?クフフフ」

「………じゃあ、何がおかしいんだ」



あ、ちょっと拗ねちゃった。
どんな顔してるのか見たくなって
志波の胸に頬をつけたまま上を見上げたら
志波も私を見下ろしていて
困ったような情け無い目をしていた。

それがまたおかしくなっちゃって

「フフッ」

って笑っちゃった。

「おまえは………」

あ、ちょっと目が本気で怒ってるかもって思った瞬間、
黒い影が目の前に下りてきた。

「ん………」

いつもの触るだけのようなキスとは違う
押し付けられるような志波の唇。

少し離れたかと思うと
角度を変えて
また。

「んんん………」

押し付ける力に負けて口を開けたら
そこから志波の舌が入ってきた。

「!!!」

ビックリして
でも噛んじゃまずいって思って
口を閉じるわけにもいかず
ただされるまま
しがみついてた。

志波の舌が動くたびに
水音が静かな公園に響いてるみたいで
すごく恥ずかしい。

「ん……はぁ………」

唇と唇が少しだけ触れるぐらいの距離まで離れて
終わり?と思ってホッとしてたら

も舌出せ」

って言われてまたキス。
えええええ!ってビックリしたのも忘れるぐらい
すぐに頭の中がボンヤリしてきちゃう。
志波の熱で口の中がトロトロに溶けてきたみたい。
その熱に誘われてちょっとだけ私も差し出してみた。

その瞬間絡み取られて
上も下も右も左も
先も奥も
熱いものになぞられる。

「ん………」

くすぐったい………のとは違う?

さっきまで頭をなでていてくれた手はうなじに
もう一方の手は背中を行ったり来たり。
うなじも背中もゾワゾワする。

いつもならくすぐったくて身をよじって大笑いするぐらいなのに、今日は、違う。
なに、これ?

「ふわ………はぁ………」

勝手に体がピクンって動いちゃう。
くすぐったいのに似てるのに違う。
あ、なんか、ジワって………
やだ。
どうしよう。
はずかしい!!!



「や、やだ!」



グイイイッと思いっきり志波を押して
といっても腕の中からは逃げられないんだけど
とにかく唇だけ逃げた。

志波の顔、見れない。
っていうか、私の顔見ないで。
そう思って下を向いた。
口の周りヌルヌルするし。
いつの間にか涙出てるし。



、こっち向け」

「だめ」

「顔、見たい」

「やだ」



頬に手を添えて無理やり上を向かせられてしまって
仕方なく志波の顔を見たら
ちょっとホッとしたように笑ってる。



「良かった」

「な、なにが?」

「やだって言うから嫌われたかと思って焦った」

「嫌いじゃないけど、やだ………」

「どうして?」



そんなの答えられない!
っていうか、志波、もしかして、答え分かってて
それなのに私に言わせようとしてない?
いじわるそうな目になってるよ?



「言ってみろ」

「やだ」

「当ててやろうか?」



やっぱりいじわるだ!
いじわる!
そう思って体をよじって
志波の腕から逃げ出そうとしたのに
また顔を寄せてきた志波は
今度は私の涙を舐め取って
それからほっぺにキスして
耳のすぐ横でこう言った。



「感じたのか?」



その声に私はまたピクンとなってしまって
もう、なんか、体がフワフワしてしまって
どうしようもなく恥ずかしくて………



「かわいい」



ピクン



やーだー!もー!!!
耳元で囁かないで!
私がこんなに恥ずかしいのに
なんで志波はこんな事言うのー?!
ひどい!
もう、やだー!

グーでドンドン志波の胸を殴って
必死で逃げようとしたら
今度はギューって抱きしめられた。



「悪い、やりすぎた………」

「ううう、いじわる………」

「誕生日の予行練習だ」

「あ………」

「冗談………あんまりムリすんな」



冗談って………
どれが?
どこから?
ムリすんなって、いらないってこと?



「でも欲しいんでしょ?」

「ハァ………人が我慢してる時に………」

「今日は、その、突然で恥ずかしかったけど、た、誕生日はがんばるから」

「がんばる………ククッ」

「ちょっ、何がおかしいのよー!」

「おまえらしい………ハハハ!」

「むー!!!」

「ハハ………悪ぃ、でもムリすんな。オレもがんばるから」

「志波は何をがんばるの?」

「我慢」

「はい?」

「あんまり持ちそうもねぇけどな………」



そして、さっきとは違う優しい触れるだけのキスをくれた後、
志波は家まで私を送ってくれた。
いつもみたいに手をつないで。



誕生日、ホントにがんばるから、私。
ムリするなって言ってくれたけど
でもやっぱり志波が欲しいものをあげたい。

誕生日まで、あと1週間。
1週間で心の準備をしておかないと。
だって、あの、感じが………もっとすごいことになるんでしょ?
自分がどうなっちゃうか分からなくてそれが怖いんだけど………
でも、ちょっと、気持ちよかったのもホントで………

だ、大丈夫!
体力には自信ある!
ファイト!オー!