03. 11/16(日) 5日前
(いい天気だな………)
ベッドに転がりながら窓の外を見上げる。
ここんとこ日曜日といえば誘ったり誘われたりして二人でどこかに出かけてたもんだから、当然今日も一緒にどこかへ行くもんだと思ってた。
(ひまだ………)
『ご、ごめん………明日はちょっと………
………あの、買い物に行きたくって………
ホント、ごめん………』
嬉しそうな声の「行きたい!」が当たり前のように返ってくると思ってたから「ごめん」という返事にかなり動揺した。
それと、その返事の歯切れの悪さに色々と疑っちまった。
本当はどこへ行くんだ?
誰と会うんだ?
そんな風に。
行先と一人だということを聞いて安心したが、オレが一緒に行くのはどうしてもまずいらしい。
もしかしたらオレの誕生日プレゼントを選びに行くのかもしれねぇな。
『誕生日、志波の欲しいものあげてもいいよ』
はそう言ったが、「やっぱり無理」でプレゼントもモノにしようと思ってんのかもしれねぇ。
残念だがそれも仕方ない。
いつか自然にオレを受け入れてくれるまで耐えろといつも自分に言い聞かせてきた。
今までだってそれでなんとかしてきたんだから、同じようにやればいい。
(はぁ………)
それにしても、買物、夕方までかかるのか?
確かにオレもプレゼント選んだ時は散々悩んで最後はいつも行ってるスポーツショップで閉店時間ギリギリまで粘った。
あん時は土曜日で部活もあったから選び始めた時間も遅かったはず。
は朝から夕方まで悩むつもりなのか?
もしかしたらやっぱり違うんじゃねぇか?
一人でいる時間が長ければ長いほどまたモヤモヤとした気持ちがわいてくる。
(部活、顔出すか………)
ガバッと起き上がってブルブルッと頭を振った。
モヤモヤを振り払いたかった。
こういう時は何も考えずに体を動かすにかぎる。
日曜に顔を出すのは久し振りだ。
後輩達相手に千本ノックでもしてやろう。
グランドで思う存分バットを振ってよかった。
頭がスッキリした。
がオレに嘘を吐くわけがない。
よく考えれば分かることだ。
(確かショッピングモール行くって言ってたよな………)
今からショッピングモールへ寄れば丁度いい時間かもしれない。
お茶でも飲んでアイツの荷物を持って家まで送ってやろう。
電話、しとくか?
いや、見つからなかったらすればいい。
との電話やメールは嫌いじゃないが、顔を見て話せるのならそれが一番いい。
頭がガンガンする。
ショッピングモールの中庭でを見つけた。
そこまではよかった。
どういうことだ?
これは?
なんで針谷が一緒にいるんだ?
ベンチに並んで座り、やけに楽しそうに話している二人。
針谷がただの友達だというのは知っている。
そう、相手がどうのという話じゃない。
「一人で」と言っただろ?
嘘、だったのか?
頭に血がのぼって耳の奥がつまるような感覚。
歩くペースを緩めて一歩ずつアイツらに近づいた。
「今日買ったやつ見る?」
「ばっ、誰がそんなの見るかっつーの!」
「痛っ!ぶたないでよ!」
「が変なモン見せようとするからだろーが!」
「アハハ!針谷照れてる!かわいい〜!」
「てめぇ!」
「終わったのか?」
「「志波?!」」
「買い物は終わったのか?」
「あ、うん、終わった………けど、なんでここに?」
「じゃあ帰るぞ」
「え?」
の右腕をつかんで立ち上がらせる。
「ちょっと!痛いよ!」というの抗議の言葉にも
「オイ!志波?!」という針谷の呼びかけにも答えずに歩き出した。
「痛い………」
無言だったアイツがポロッとこぼした言葉にハッと我に返って力いっぱい握ってた腕を放した。
「悪ぃ………」
もうの家の近くの公園の前まで来ていた。
ずっと強く掴んでたからかなり痛むのだろう。
掴まれてたところをさすっている。
そういえば荷物も持ってやらなかった。
今更か?
「貸せ、荷物、持ってやる」
「いいの!これは自分で持つから!」
慌てて後ろへ荷物をまわす仕草に頭の中で何かが切れた。
針谷には見せようとしてただろ………。
「楽しかったのか?買い物は………」
皮肉な口調になっちまう。
イライラが抑えられない。
「………楽しかったよ、すっっっごく」
返ってくる言葉も刺々しい。
「よかったな………」
「うん、よかったよ、ホント」
「悪かったな。邪魔して………」
イラつく。
こんなんじゃダメだと頭の片隅で思う自分もいるのに口が勝手に動いちまう。
これ以上一緒にいたら何を言っちまうか分からない。
「………今日は帰る。家まで送ってやらなくて悪ぃ」
に背を向け歩き出そうとした。
「志波のバカッ!」
「は?………オレのどこが?」
「勝手に勘違いしてイライラしてるからバカなの!」
「勘違い?」
「針谷はあそこではるひの買い物待ってたんだよ!」
「どういうことだ?」
「二人に偶然会ったの。はるひに頼まれて待ってただけなの」
「は?」
「は?じゃないよ!もう………」
「あ………」
「私は一人で行くって言ったでしょ。志波に嘘なんて吐かないもん………」
そうか………オレの勘違い、か。
一気に強張っていた体から力が抜けてきた。
頭にのぼってた血がサーッとおりてきて少しずつスッキリしていく。
あ、でも………。
「………じゃあ、その荷物は?
針谷には見せようとしてたのにオレから隠した」
「針谷をからかっただけで、針谷なんかに見せたりしないもん」
「でもオレにも見せられないんだろ?」
「だ、だって、これは………」
「これは?」
「誕生日に見せるやつだから………」
「は?」
誕生日に『見せる』?
プレゼントなら『あげる』だろ?
なんなんだ、いったい?
「だから………その………み、耳、貸して」
「ん?ああ………」
少しかがんで耳を差し出した。
の口がオレの耳のそばに寄ってくる。
もう少しでくっつきそうだ。
唇がかすかに動く感触。
「………新しい下着なの」
「………っ!」
掠れるぐらい小さな声で囁いたその言葉。
みるみるうちに自分が赤面するのがわかる。
そんな顔を見られたくなくての頭をオレの胸に押し付けた。
「内緒にしておこうと思ったのに………」
「ハァ………」
………まいった。
これ以上オレを寝不足にさせる気か?
「志波………も一回耳貸して?」
「なんだ?」
真っ赤になった顔は見せないようにもう一度かがむ。
ふたたびオレの耳元に寄せられるおまえの口。
「楽しみにしててね………」
チュッ
「………っ!!!」
囁かれた内容と、耳にかかる息と、言い終わったあとで耳に触れた唇。
まいった。
完全にやられた。
たまらなくなって抱きしめようとしたらスルリと逃げられた。
「きょ、今日はもう帰る!バイバイ!」
「あ、おい?!」
ダッシュで家へ向かって走っていくの後姿を呆然と見送る。
なんでアイツはいつもこうなんだ?
突然ドキッとすることを言ったりやったりして、そのたびにオレはいつもオロオロする。
ギリギリの台詞はオレだけが言ってたつもりだったのに今じゃ振り回されっぱなしだ。
今日だってせっかく誤解が解けたのに帰っちまうなんて………。
物足りなさに脱力する。
それにしても………。
今日のの『買物』の内容を思い出して一人でまた赤面する。
どんな色でどんな形で………考え出すときりがねぇ。
今朝は色々考えて耐えようと決心したのに、いいのか?
だとしたら………早く欲しい。今すぐにでも。
こんな調子でオレは誕生日まで持つんだろうか?
寝不足が続くことはもう間違いない。
もちろん今夜も眠れない。
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