か―かなわない 「負けてもいい」



いつでも本気のアイツ。
いい勝負はやってて楽しい。
遊びなのに負けると本気で悔しがり不機嫌モード全開。
負けることが多いくせに「次こそは」とまた挑んでくる。

前に喜ぶ顔が見たくてわざと負けたことがあった。
ばれないようにギリギリを装ったのにすっかりばれて大変だった。
妙なとこだけ鋭いんだ、アイツは。

ん?どう大変だったかって?
ああ………そのあと「志波とはもう絶対勝負しない」と遊びに誘われなくなったんだ。



そのあとアイツは他の友達と遊びに行くようになった。
遊びに行ったあとは、誰それと行った、勝った、負けた、と楽しそうに報告してきた。
「佐伯は勝負がかかると本気になってくれる」「先輩はボーリングうますぎて勝負にならなかった」「針谷は負けるとムキになって面白い」
そんな報告を聞いて………オレは胸に何かつっかえたような感覚を覚えた。

なぜそんなことをオレにわざわざ言う必要がある?
オレには関係ねぇ話だろ?
他の奴らと楽しめてよかったな。
イライラした。

それからオレは、次第に焦るようになった。
「もうオレはアイツと遊びに行くことはないのか?」と。
誘われなくなっちまった原因を作った事を後悔した。
だが、自分から誘うことはできない。
「絶対勝負しない」と拒絶されたのに、誘ってまた同じことを言われるのが怖かった。



オレは気が付いた。



負けず嫌いのアイツ。
勝つと「最高!」と満面の笑みを見せてくれる。
その笑顔が見たかったんだ。
ただその笑顔が。










そして今日、オレは久し振りにアイツと勝負している。



先週、突然誘われた。
正直もうダメかと思ってたから驚いた。
「他の人と勝負してもなんか燃えない。張り合いが無いというかなんというか………」
だそうだ。
「なんでだろうね???」
とクエスチョンマークをいっぱい飛ばしてたが、そんなのオレの方が知りてぇ。



「やった!勝った!」

「良かったな…………」

「いい勝負だったね!」

「だな」

「………志波、なんで負けたのに嬉しそうなの?」

「そうか?」

「そうだよ。もっと悔しがってよ」

「無理だ」



仕方ねぇだろ。
今、オレは、おまえの最高の笑顔が久し振りに見れて嬉しいんだから。
負けても悔しがるなんてできるはずがねぇ。



「えーっ!なんで?!なんか勝った気がしないじゃん」

「おまえ………リスみたいだな」

「はあ?」

「ほっぺ、よく膨らむな、そんなに」

「むぅっ、そんなことないもん!」

「ほら、また………ククッ」



あ、これ以上からかうとまた誘われなくなっちまうか?



今日、また一つ気が付いたことがある。



笑顔が見たいだけ、と思ってたのも本当だった。
けど、それだけじゃなかった。
こんな膨れっ面も、勝負してる時の真剣な顔も、眠そうにぼんやりしてる顔も………どれもいい。
コイツと一緒にいられるということ、それが一番大事だったんだ。



「もうっ………。でも、楽しかった。今日志波と遊んで」

「そうか………。なら、よかった」

「うん。やっぱり他の人とは違うんだよねぇ」

「違う?なにが?」

「うーん、よく分かんないんだけど………なんて言ったらいいのかな、こういうの?」

「オレに聞くな」

「んー、とにかく………そう!志波と一緒にいるのが一番楽しいってことだ!」

「っ………!!」

「だから、また一緒に遊びに行ってくれる?」



本当におまえにはかなわない。
おまえにならオレは負けっぱなしでいい。
だから、もっと、オレと一緒にいてくれないか?










(あとがき)
好き以上になったらデートで勝負に負けても嬉しそうにしてそうだよなぁ、志波くんは。
そんな風にデイジーを見つめる志波くんの優しい目に見つめてもらいたい!







戻る





Photo:おしゃれ探偵