み―見惚れてしまう 「目が放せない」



青い青い空に吸い込まれていく白い白い小さなボール。
スタンドの皆はその行方を目で追っているけれど、
私はそのボールが放たれた所から走り出す人に見入ってた。
その人から目を放すことが出来ない。
もうずっと前から。

学校にいるときも気が付けば志波の姿を探している。
その姿を見つけて、そして、ちょっと離れたところから観察するのが楽しかった。
あまり表情の変わらない人だけど、
眠そうだとか、
不機嫌そうだとか、
違いが分かってくるとすごく楽しい。
友達と話しているときにちょっと笑ったり、
何を思い出しているのかふっと優しい表情になったり、
そんな顔を見れるのがとっても楽しかった。

一緒に遊びに行くことが多くなって、近くで志波を見れるようになったら、もっと嬉しくなった。
色々なことが分かって、それが嬉しくてもっと知りたいと思うようになった。
下から見上げたときに見えるあごのラインにドギマギしたり、
隣に座ったときに意外とまつげが長いことに気が付いたり、
「目つきは悪いな」って自分で言っていたその瞳が実は優しい色をしてるんだって発見したり。

あんまりじっくり見てたら
「………そんなに見てもおごらないぞ、ジュース」
って言われて………フフッ………今思えばあれは照れ隠しだよね。
最近ではストレートに
「………見るな、照れる」
って言うもんね。

でも、目が放せないんだから仕方ないでしょ?
もっともっと知りたいんだよ、私。



「おめでとう!」

「サンキュ」

「今日のホームラン、気持ちよかった!」

「ああ、あれはオレも気分よかったな」

「思いっきり振り切るスイングに痺れちゃった」

「痺れた………?」

「志波って野球やってるときはホントにカッコイイよね」

「野球やってるとき………って、なあ」

「なあに?」

「野球してるとき、だけか?」

「ん?フフッ………」



笑ってないで教えろって言われても絶対教えない。
だって私ばっかり志波に見惚れてるなんて不公平だもん。
カッコイイ志波をずっと見ていたいなんてもったいないから絶対教えないんだ。











オレを「カッコイイ」と言ってクスクス笑ってるコイツを見下ろす。
「そう言ってるおまえの方が」
カワイイと言いかけて言葉を飲み込む。

いつからだったか、
もうずっと前からだったか、
コイツを見ていると心臓が跳ねて言葉が続かなくなる。

こうやって横を歩きながら見下ろすだけなのに、目が放せない。
オレをからかってよほど楽しいのか、
それとも言ってから照れてるのか、
それは分からないし下を向いちまったから表情は見えないが、
耳や頬が赤く色付いているのが分かる。

笑って震えてる肩、
俯いたときに見える白いうなじ、
柔らかそうな髪、
ずっと見ていると思わず手を伸ばして触れたくなっちまう。
けど、今はまだ見てるだけにしとかないと………その先を抑えられる自信が無い。



「志波?」



突然こっちを見て、オレの目の奥まで覗き込むように瞳を向ける。
前は照れてごまかしたりしていたもんだが、今はもったいなくて目を逸らすことができない。
長いまつげ、色付いた頬、柔らかそうな唇、顎の下の白い首筋。
触れたい………触れたときのおまえを見てみたい。
でも、今は、まだ………。



「前、見てねぇと転ぶぞ?」

「志波もね」

「オレはそんなにドジじゃない」

「私だって!」

「ハァ………どうだか」

「大丈夫だもん」

「ククッ………ほら、手」

「うん」

「転ばないように握っててやる」



今は、まだ、手を握るだけ。
その小さな手が痛くないように、
だけどオレの体温が伝わるぐらいにしっかりと。



おまえがオレを見上げる。
オレはおまえを見下ろす。
こうやって手を繋いで歩く道がどこまでも続いていればいいのにな。












(あとがき)
お互い好きなだけ見つめてればいい。
そんなお話のつもりで書き始めたのに、何故か志波くんはすぐに「触りたい」とか言うんです。
勝手なヤツです。
困ったヤツです。
青春高校球児だからしかたないか。






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Photo:おしゃれ探偵