つ―ツンツン 「降参」



「これって寝癖?」



いきなり後頭部を撫でられて息が止まるぐらい心臓が爆発した。
考え事をしてたから、急に伸ばされた手に気が付かなかった。
大体オレより30cmも低いやつの手がオレの頭に触るなんて想像もしてなかった。
本当に不意打ちだった。

その時オレが考えてた事、それは他ならぬおまえのことなんだけどな。
今日遊びに行った先で話したこと、見せてくれた笑顔、昼間のことだけを思い返してた。
そうしてねぇと、オレの腕にぶら下がってるおまえをヘンに意識しちまうから。

いつもは手を繋ぐぐらいだったのに、今日、初めて腕を組んだ。
オレも相当体温上がってるはずなのに、おまえの温もりが流れ込んでくるみたいだ。
やわらかそうな髪からはなんとなく甘くて優しいにおいがする。
いつもより相当近い距離にいるおまえを意識するなという方が無理だ。



ビビったオレが予想以上におかしかったのかクスクス笑いがおさまらないおまえ。
笑い過ぎて歩く足取りがおぼつかなくてオレの腕にしがみつく力が増す。



「まったくおまえは………」



笑い過ぎだと言ってやっても、オレが本気で怒ってないのが分かるからだろう、笑い続けてる。
ギュッとしがみつかれて、おまえの体の柔らかさにドキッとする。
笑うたびに頭や肩が震えて柔らかい感触が左腕に伝わる。
オレは自分を抑えるのに必死だというのに………。



「えいっ!」



今度は頬をつつかれる。



「ほっぺ、赤いよ?」



何度も触ってくるからその手を掴まえた。
もう我慢できない。
抑えられない。
組んでいた腕も解いてもう片方の手で掴まえた。
立ち止まって両手の自由を奪って正面から向き合う。



「志波?」

「言っただろ?冗談じゃ済まなくなるって」

「う、うん………あの、私」

「少し黙れ………」

「………」



お互い目を逸らさずに向き合って………こっからどうするか考えてなかった。
ここでおまえが目を瞑ったりしたら迷うことなく行動するのに、目を瞑ろうとしないおまえ。

そのまま顔だけ近付けてった。
それでも、おまえは絶対オレから視線を外さない。
どうしてこんな時まで意地っ張りなんだ?



コツン。



おでこをぶつけても目だけはそのまま見開いてオレをジッと見ている。
本当に、まったく………。



「まいった………」



やっぱり無理だ。
どう考えたってオレの方が分が悪い。
………降参だ。
もう諦めるから、好きなだけオレをつついてくれ。









(あとがき)
「抑えられねぇ」発言を初めて聞いたとき「抑えないでいいよ、どうぞ」とゲームに話しかけていたのは私です。
今回の作品では「抑えられない」と言いながらあえて抑えさせてみました。
忍耐だよ、志波!






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Photo:おしゃれ探偵