[2.海] |
カッコイイ。 それに優しそう。 それから大人の雰囲気。 それが第一印象。 あれ? それが第二印象……… 大学卒業してすぐに副担任になってしまって 「副」とはいえ、クラスを持つという責任感で 結構押しつぶされそうだった。 入学したての1年生や 受験を控えた3年生に比べたら 2年生は楽だよ、と言われたけれど 初日は本当にドキドキしてどうしようもなかった。 だけど………、だけどね! 担任の先生を紹介してもらって (頑張ろう) って思ったの。 本当に。 すごく不純な動機だけど 若王子先生に良く見られたいなと思って 毎日毎日頑張ってみた。 副担任としての仕事ももちろんだけど 服装とか お化粧とか おしゃべりとか 動作とか 本当に久し振りに気合を入れて頑張ったの。 学生の時の同級生には感じなかった何かを 若王子先生に感じて それがなんだか分からないけれど 羽ヶ崎学園で頑張ってみようって そう思える力になることは確かで ここに就職できたことを 初めて神様に感謝した。 最初に「あれ?」って思ったのは H.R.で配る通信を職員室に忘れてきた時。 私も気をつけてれば良かったんだけど 「ややー、先生忘れちゃいました」 とか言ってヘラヘラ〜ってしたのよね。 で、「あれ?」って。 そんなチョコチョコっとした ポカミスが結構多いんだなぁって思ったのは 始業式から1週間ぐらい経った頃。 でもね、 (副担任として私がフォローしないと!) って頑張ることにした。 そう、私は悟った。 カッコイイだけの王子様はいないって。 「良く見られたい」という思いに 「後で面倒なのはやだ」っていう思いも少し加わったけど 私、頑張った。 頑張ってる。 だってね、気になる事には変わりない。 黙っていればやっぱりカッコイイ。 あ、話していても楽しいことは楽しい。 なんというか調子を合わせやすいというか。 最近、若王子先生をフォローするしっかり者 っていう役回りが生徒の間にも浸透してきたみたい。 ちょっとオトボケなところとか 飲み会で私より先に寝ちゃうのは 愛嬌って事で無理やりスルーしておこう。 大学の同級生に 「あんたより酒が強い人なんてぜったいいないから!」 って言われたことあるけど 別に私そんなに強くない! と思う………。 4月末に行う課外授業のために その前の週の日曜日は 若王子先生と下見へ行くことになった。 海沿いの煉瓦道を歩いたり 遊覧船に乗ったり ベイサイドブリッジの展望台で景色を眺めたり。 (これってデートっぽい?!) なんてちょっとウキウキしていたのは私だけなのかな? 若王子先生はいつもと同じニコニコ顔だけど それは生徒に対する時の笑顔と全く同じでちょっとガッカリ。 私は生徒と同じレベルなのでしょうか? 「素敵な眺めですね。夜景もきれいなんだろうなぁ」 「海がキラキラしてきれいですね。夏の海も楽しそうですね」 「煉瓦道って異国情緒ありますね。映画に出てきそう。映画はお好きですか?」 次につながりそうな話題を色々ふってみるんだけど いつものトボケた口調で上手く受け流されて 不完全燃焼………。 そのうち、若王子先生のヘラヘラ笑った顔が だんだん憎らしくなってきて、 この人が真剣になった時の顔が見たいと思い始めた。 穏やかな海の その水面の下には どんな世界が広がっているの? 真剣に怒る顔 心から笑う顔 悩んでいる顔 泣いている顔 本心を見てみたい。 どうしたら見られるんだろう? いたずら心がムクムクと湧いてくる。 「そろそろ帰りましょうか?時任先生」 夕食に誘ってもくれない……… 本気で嘘吐いていいですか? 「若王子先生………、実は相談があるんです」 「はいはい、どうしました?」 「それが………、最近、誰かにつけられているような気がして」 「え…?」 ドキン。 急に声のトーンが変わった。 なんで? 「あ、私の気のせい、っていうか、勘違いかもしれないんですけど………」 「時任先生」 「はい」 「今日は僕があなたを送ります」 「はい」 「それと、そうですね………明日から学校の帰りも送ります」 「え?でも若王子先生は部活が………」 「あなたも一緒に部活に参加してください」 「あの、でも、勘違いかもしれないですし………」 「勘違いじゃなかったら?とにかく僕のいう事を聞くように。分かりましたね?」 「あ…はい………」 「それから休日は出来るだけ一人で出かけないように」 「ええっ?!」 「どうしても外出したい場合は僕がついていきます」 なんで? そりゃ、私だけどね、真剣な顔が見たいって思ったのは。 でもストーカーみたいなよくありがちな話で 声のトーンや表情まで変わると思わなかった。 なんで??? ど、どうしよう……… ちょっといたずらしたかっただけなのに、 嘘ですって言い出せなくなっちゃった。 「さっ!じゃあ帰りましょう!」 あ、あれぇ? 元に戻った。 でも送ってくれるのは本当なんだ。 今のトーン、冗談だったのかなぁ?? でも、次の日から、 若王子先生は言った事を実行に移したの。 本当に保護者のようにずーっと一緒についてくるようになった。 そばにいる時間が長くなったけれど その海の底に何があるかは まだ見えない。 |
時ちゃん(主人公?)視点です。 そうなんです、この時ちゃんは第一印象でハートピンクになるのです。 ま、その後の「あれ?」は当然なのでしょうが…。 まだ続きます。頑張れ!若ちゃん! メニューに戻るにはウィンドウを閉じてくださいね。 |