[omake.初めての]


(お洒落なレストランルートが選ばれました)





「お誕生日おめでとうございます。乾杯」



カチンとワイングラスを軽く合わせる。
こんなお洒落なところで
男の人と食事をするのは初めて。



「ありがとう。今から大人の時間だね」

「はい。このお店本当に素敵です」



若王子先生の誕生日。
誕生日だってことを知らなくて
プレゼントを用意していなかったから
食事をご馳走することになって
来たのがここ。

学生時代から居酒屋しか行ったことなくて
良い所を知らなかったから
お店を選んでくれたのは若王子先生。

びっくりするような値段ではなく
でも少し大人の雰囲気を味わえるようなお店。





「好き」って告げてしまった。
「迷惑じゃない」って言ってくれたけど
「好き」って答えてくれたわけじゃない。

怒らせてしまったことを許してもらって
前みたいな良い雰囲気には戻れたけれど…。

期待して待ってていいのか
それともずっとこのままなのか
それだけでも教えて欲しい。









「美味しかったですね、ご馳走様。でも本当に良かったの?」

「はい、誕生日プレゼントですから」



ビールや日本酒とは違う
ワインの温かい感じの酔いが心地良くて
なんだかぽやーっとしてしまう。

そんなに飲んでいないのに
ワインなんて飲みなれていないから?

それとも若王子先生に酔っちゃったのかなぁ?
食事している間ずーっと見つめられているみたいで
恥ずかしくってずーっと顔が赤かったような気がする。



「それじゃ帰りましょうか?タクシーに乗る?それともブラブラ歩く?」



本当はもっと一緒にいたかったから
ブラブラ歩きたかったんだけど
若王子先生の意見を優先させたくてこう答えた。



「私はどちらでも。若王子先生は?」



若王子先生も私と同じ気持ちでいてくれたら良いなって
そんな風に期待していたから
同じ答えを選んでくれると思ったのに………



「じゃあ、タクシーに乗りましょう」

「え、あ、はい………」



私、バカ。
期待しすぎ。
先生は許してくれただけで
別に両思いになったわけじゃない。

一緒に車に乗って
私のマンションの場所を運転手さんに告げて
シートに深くもたれかかった先生。
私が先に降りて
先生とはそこでバイバイか………。
寂しいな。









家まではあっという間。
タクシーの扉が開いてしまった。
私はここで降りなきゃいけない。



「今日は楽しかったです。また一緒に食事してくださいね。じゃ、失礼します」



言ってから
車を見送るために
少しだけ離れて立ってみた。

扉が閉まる。
もっと一緒にいたかったのに。



若王子先生がコッチを見てくれたら
「また明日学校で」って言おうと思ったのに
何か運転手さんと話をしている。
自分の家の場所を説明しているのかな………

と思っていたら
また扉が開いた。



「若王子先生?」



タクシーから降りてきて私と向き合う先生。
先生の後ろでタクシーの扉が閉まり行ってしまった。



「あの、タクシー、行っちゃいましたよ?」

「うん、いいんだ」

「え?」

「君の部屋に行っていい?」

「ええ?!」



飲みなおそうって事かな?
酔っちゃったからお茶?
どっちでもいいけど
もっと一緒にいたいと思っていたから
「いいですよ」
と即答しちゃった。





だけど、部屋に通したら
昼間みたいにフワリと抱きしめられて
私はオタオタしてしまった。



「大人の時間の続きです」

「あ、あの若王子先生酔ってるんじゃ………」

「しーっ………」



そんな目で覗き込まれたらドキドキしちゃう。

若王子先生の右手が私の頬に触れた。
華奢に見える若王子先生だけれど
その手はやっぱり男の人の手。

大きくて
ちょっとだけ冷たくて。

ワインで火照っていた
頬を包んでくれた手が気持ちよくて
顔を摺り寄せてみた。



「猫みたいです」



目の前に影が落ちてきて
手のひらと同じように
やっぱり少しだけ冷たい感触が
鼻に触れた。
それから唇に。



一度
二度
三度






ついばむようなキスが何度も繰り返される。
私の温度はドンドン上がって
頭の中がクラクラしてきた。
顔もさっきより赤くなってると思う。

頬を包んでいた手が
耳の横をすり抜けてうなじにまわる。
思わずピクッとなったら
キスしながら若王子先生が笑ったような気がした。

何回されたか分からないキスの後、
今度は強く抱きしめられた。



「若王子先生、ずるい………」

「どうして?」

「だって先生の気持ち教えてもらってない」

「言わないと分からない?」

「ずるいです」

「大人だからずるいんです」

「ちゃんと教えてください」



またキス。



「分からない?」

「わ、わかりません」



キス。



「これでも?」

「もうっ………」



フフッと笑うだけで何も言ってくれない。
私を困らせて楽しんでる。
若王子先生の答えが私と同じだとしても
やっぱり言葉にして欲しい。
この甘い時間が本物だって確認したい。



少しだけ体を離して
下から見上げるようにして
きれいな緑色の目をしっかり覗き込んで。



「若王子先生、教えて?」

「………好きですよ」



またギュッと抱きしめられた。



「はぁ………言っちゃいました。もっと君を困らせて楽しみたかったのに」

「もう1回言って?」

「好きです」

「もう1回」

「好きだ………君は?」

「内緒です」

「ずるいです」

「フフフ、大人ですから」

「ハハハ」

「好き。大好きです!」



キス。
今度はもっと深く長く溶けるぐらい………

初めての大人の時間。









「なんでタクシーに乗ったんですか?」
「それはもちろん早く二人っきりになりたかったからに決まってます」
「若王子先生のエッチ」
「大人ですから」
「大人ってずるいんですね」
「君だって大人でしょ」
「そうですけど、じゃ、若王子先生がずるいんだ」
「やや!心外です!君だって嘘で僕を騙した。ずるいじゃないですか」
「あーそれを持ち出すんですか?沢山あやまったのに」
「じゃあ、それは置いといて、君だってエッチじゃないですか」
「そ、そんなこと、ありません」
「じゃ、もう1回確認してみる?」
「えええ?!わ、わーーー」





(終)







1〜5まで読み終わって
中途半端だなぁ
って思ったそこのあなた。
これで少しは満足していただけましたかー?!



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