「真咲先輩、お疲れ様でした!」
「おう!お疲れ!」


閉店後、ハロウィン用のディスプレイを片付け終えて、
肩を揉みつつ首をグルグルまわしていたら
元気な後輩の声が聞こえてきた。



Trick or Treat!




今日の片付けは遅くなりそうだから
先に帰っていいぞと言ったのに
「有沢さんだって残るんですから私も残ります!」
と張り切っていた後輩。

「有沢が残るから、ねぇ………
 じゃ、オレは先に上がろうかな?」

と意地悪っぽく言ってやったら

「えっ?!あの、その………
 先輩、ホントに帰っちゃうんですか?」

と困った顔で見上げてきた。



顔を赤くして目なんかウルっとさせてホント可愛い後輩だ。

こーいう顔させてるのが
他の誰でもなく
オレだってことに
口許が緩んじまう。

やり過ぎると怒って口きいてくれなくなるから
ほどほどにしないとな。

「はははー!冗談だ!
 送ってやるからサッサと片付けちまおうな」

ほっとした顔で「はい!」といい返事が来たから
いつものように「二重マル!」と
頭をクシャっとしてやった。







「かぼちゃさん達を片付けたら
 お店の中、少し寂しくなっちゃいましたね」
「ん?ああ、そうだなぁ」
「ですよねぇ」

助手席にコイツが乗っているということが自然で、
いないほうが不自然と思ったりする今日この頃。
帰りの車の中での何気ない会話も自然で気分いい。
最初に送っていった時は
かなり緊張してたもんなぁ、コイツ。

「あ、先輩、なに思い出し笑いしてるんですか?」
「うぉーっと、あんま見てんなよ。運転中です。気が散ります」
「あー、ごまかした!
 なんか言えないような事考えてたんですね?」
「違うって!ほんと、まじで、勘弁して」
「ふーん、じゃあ今度思い出し笑いした時は
 ちゃんと教えてもらいますからね」
「はいはい、分かりました」
「返事は一回!」
「へーい」

クスクス笑う声が心地良くて自然と心が軽くなる。
一日の一番最後にコイツと一緒にいられるってことが
とてつもなくハッピーだ。







「はい、到着〜」

車を停めるのはコイツんちの近くの公園脇。
家の前に停めるとご近所のご迷惑になるからとオレなりに考えた。
ここから家の前まで歩いて送っていく。
ほんの数分の距離だけどそれも大切な時間。

「あ、ちょっと待ってください」
「ん?どうした?」

エンジン切って車から降りようとしたら
呼び止められたんでドアを閉めなおす。

「先輩、今日はこの後、家に帰るだけですか?」
「おう、そうだけど、どうかしたか?」
「ふふ」
「なーに笑ってんだ?」
「先輩、Trick or Treat!」
「はぁ???」
「だって今日はハロウィンだもーん!Trick or Treat!」

何を楽しそうに笑ってるかと思ったら。
いったいどんな悪戯をしてくれてるのかねぇ?
それも楽しみだけど
そんなにワクワクされちまうと
意地悪したくなっちまうんだよなぁ。

「ああ!そっかそっか、ちょっと待ってくれよー」
「え?」
「あったあった、はい、あ・め!」
「あ………」

パーカーのポケットに突っ込んでおいた飴玉を
コロンと小さな掌に乗せてやったら
すんげぇ驚いた顔してた。

「はははー!なんでオレが飴なんか持ってんだって顔してんな?」
「う……」
「これなぁ、櫻井除けのおまじない。
 アイツなにかっつーとオレにちょっかい出してくるからさ。
 特に今日みたいな日は用心のためになー」
「そう、ですか………」

うわっ!チョー残念ってか?
かなりガックリしてんなあ。

「なあ、飴が無かったら何しようと思ってたんだ?」
「もう忘れました」
「教えろよ」
「いいじゃないですか、もう」

プリプリ拗ねてんのもカワイイなあ……
って言ってる場合じゃないな。
ご機嫌斜めなお姫さん、
そろそろどうにかしないと
マジで口きいてもらえなくなりそうだ。

「ああっ!もう飴無くなっちまったなぁ!」
「?」
「もう一回言われたらヤバイなぁ。どうすっかなあ?」
「先輩……」
「あー、困った困った」
「ふふっ……先輩ったら。
 もう、しょうがないなあ……
 Trick or Treat!」
「えーっと……大変だぁ!お菓子が無い!
 だけど悪戯は勘弁してくれ〜」

わざとらしく言ってんのがおかしかったのか
クスクス笑い続けてる。

「じゃあ悪戯ですよ、いいですか?」
「ダメです」
「先輩に拒否権はありませーん」
「さいですか」
「それじゃ手を後ろで組んでくださーい」
「なんで?」
「邪魔されないように」
「へいへい」

では、とか言いながら両手をこっちにのばしてきた。
なあにされんのかねぇってじ〜っと見てたら

「そんなに見てたらやりにくい」

と言われた。

見てたらやりにくいこと……
……って!オレ何考えてんだよ!
とか心の中で一人ツッコミしてたら
両手で頭をつかまれた。
顔近いな……。
そんな近くでカワイイ顔されたら
オレはどうしたらいいんでしょうか??

「先輩?目瞑って?」

マジですか?
コイツから?
いや嬉しいんだけどさ。
なんつーか、こーいうのは男が女にするもんだよな?
あーでも、逆もありか?

言われるままに目を瞑ってあれやこれや考えてた。

おでこがコツンと当たる感触。
お互いの息遣いを感じられるぐらいの距離。
顔が熱くなってきた。
マジでヤバイって。
ゴクリと自分の喉がなった……ような気がした。





クスッ





え?笑われた?
と思った途端、

「ワシャワシャ〜!」

という効果音付きで
オレの髪をグシャグシャにかき混ぜてきやがった。

「お!おい!やめろ!」
「やった!大成功!」

クスクスと笑い転げる後輩。

「な、なんてことしてんだ!おまえは!」
「ふふっ!だって先輩の髪おろしてみたかったんだも〜ん!」
「ああー、めちゃくちゃじゃねぇか」
「だから最初に『帰るだけ?』って聞いたじゃないですか」
「う、確かに………」

「ふふ……ねえ、先輩、ちょっと期待した?」
「バ……バカやろ、そんなのするわけ無ぇだろ」
「そんなのってなにー?先輩やらしー!」
「や、やらしーって………おまえ……
 あんまり好き勝手やってるとオレも黙っちゃいねぇぞ?」
「え?」
「Trick or Treat!」
「えと、あの、はい、飴デス」
「それはさっきオレがやった飴だから無効デス」
「ええ?!」

オロオロしてるコイツのほっぺにそっと触れる。
真剣な眼差しでジッと見つめてたら
それに反応しておとなしくなって見つめ返してくれた。
両手で頬を包んでオレの顔を近づけていく。
近づけていったら目を閉じてくれた。
閉じた瞼がフルフルと震えてて
これからする悪戯がもったいないような気もした。





ムニッ





「いひゃい!」
「ははは!成功成功!!」
「にゃにひゅるんでひゅひゃー?!」
「ははは!」

あー腹痛ぇ。
ホント楽しい。

「おまえ、期待しただろ?」
「知りません!」
「悪戯のお返しはどうだった?」
「そんなもの要りません!」
「悪い悪い、つい、楽しくなっちまった」

ポフポフ頭をなでてやっても

「もう帰る!」

とお怒りモードは静まらないらしい。
機嫌を損ねたまま帰られたらたまらないな。

頭の上に置いてあった手を後にまわして
素早く引き寄せて唇を重ねた。

「機嫌直せ、な?」
「………先輩ズルイ」
「そうか?」
「来年はもっとすごい悪戯考えてきますからね!
 覚悟しといてくださいね!」

来年ねぇ………深く考えないで言ってるんだろうけど
まあ自然にそう思ってくれるのは嬉しいことだ。
こうやって楽しく来年も再来年も
いろんなイベントを二人で迎えられたら
オレはずっとハッピーでいられる。
おまえも同じ気持ちでいてくれよ?








(あとがき)
ハロウィン第二弾、真咲先輩でした。
えっと、これ、真咲先輩になってますかねぇ?
なんだか先輩なんだか子供なんだか
意地悪でガキんちょで
それでいて
………アヤシイ人になってませんか?

とりあえず先輩にも幸せになってほしいと
そう思って書き上げてみましたよ。

(2008.10.28)







目次へ戻る