あと少し



面白かった、二重マル!あー、もう一回観てぇ……
いつDVDになるかなぁ……いや、公開してる間にもう一回来るか?



エンドロールをチェックしつつ映画の内容を思い出す。
ゲームであんだけ人気出てるやつだったし、
正直、映画化なんてどうなんだぁ?とか思ってたんだよ。
でも、来てみて正解だった。



けど、もう一回来るとしたら、次は、一人で、だよなぁ……



隣の席を見下ろせば、そこには静かな寝息を立てている後輩。



オレと一日遊ぶために、
昨日も遅くまで勉強頑張ったのかね……

そんで、その結果が、コレだ。

受験勉強も大変になる時期だもんな。
夏までが勝負、その頃にはほぼ決まるっつーからなぁ。

それなのに、
夏の大会までは部活続けたいとか
アンネリーのバイトは社会勉強になるから辞めませんとか
頑張り屋なところは認めるんだけどさ……

うさぎとクマが一緒に住んでるような目になってたり
ふとした瞬間に疲れたような溜息を吐いてたりすると
無茶してんじゃないかと心配になるんだよ、オレは。



分かってる、つもりだ。
無茶させたくねぇってんなら
コイツの貴重な休日、オレが誘わなけりゃ良いんだって。



けどな……



オレがもたないんだわ。
おまえの顔見てないとさ。

離れてると、
どうしてんのかなーとか、
もしかしたら同級生の男と……とか、
胸ン中がモヤモヤとくすぶる。
少しずつ焦げてって、いつか真っ黒になるんじゃねぇか?



いやいや……



余裕無さすぎだろ、オレ。
自分のわがままで無茶させちまうのはダメだろー。
もう少しオトナであれ、真咲元春!











「すみませんでしたっ!!!」

「はははー、もういいって」



眠気覚ましにと
夕暮れの臨海公園へ移動して
ベンチに並んで座る。

海から吹く風が気持ちイイ。

こうやっていつも一緒に並んで座れたら、なんてな。
そんな思いは、もうちょっと、我慢だ。
そう、受験が終わってコイツが卒業するまでは……。



「……映画、面白かったですか?」

「ああ、もう一回観たいぐらい面白かったぞ」

「うー……じゃあ、来週リベンジ!お願いしますっ!!」

「はぁ?コラー、何言ってんだ。受験生が毎週遊んでちゃダメだろー」

「ちゃんと勉強してるから大丈夫ですー」

「夜中に勉強して、寝不足で、まーた寝ちまうだろ」

「今日は、たまたまなんですってば……ちょっとボーっとしちゃって……」



たまたま、ね。
言い訳しても疲れたような顔を見れば分かるっての。
まったく、そんな意地はってまで映画見たいのかねぇ、コイツは。



ん?でも待てよ。



確かに疲れたって顔とはちと違う。
目なんかトロンとしてホントにボーっとしてるな。
具合、悪かったのか?



「おまえ、いつもより顔赤い。熱でもあるんじゃねーか?」

「いえ、そんなことは……」



そんなこと無いはずと言い終わる前に
アイツの額に右手をあててみた。
うん、熱は感じない。
でも風邪ひいた時の顔に見えたんだよな、さっき。



「んー、デコじゃ分かんねーな……ほっぺと首、触るぞ」

「は、はい……!」



触ったときにビクッと目を瞑ったコイツを見て我に返った。
と思っても、今更手を引っ込めるのは余計にヘンだよな。
あー、よし、ここは、サラッと流すぞ。



「やっぱ熱いような……脈も速いし、今日はもう帰―――」

「そ、それはっ……真咲先輩が……!」



うっ……



うまく流せたと思ったのに
そんな返事ですか?

いつもボケてるくせに
今日に限ってその反応かよ?

やばい。
ひっじょーにやばい。



「あー…………」



…………ダメだ。
フォロー不可能。



夕暮れの海辺の公園。
ベンチに並んで座る二人。
頬に手を添えるオレ。
真っ赤になって目瞑ってドキドキしてるコイツ。
そうなっちまったのは、たぶんオレのせいで……



どうするんだよー、真咲元春!!!



それにしても、ほっぺ、やわらけー。



いやいや、やめとけって。



他んとこもやわらけーのかなぁ?



だから、ダメだって。



あー……あと少し…………


















グーーー

「きゃっ!」

「ぶっ……」

「!!うー……笑わないで下さーい!」

「ははは!腹の虫がそんだけ元気なら大丈夫そうだなー」



惜しかった…………
けど、助かったー……ハァ……。



「じゃ、飯、食いに行くか」

「先輩、あの、ごめんなさい」

「な、なに謝ってんだ?オレは、別に、何も……」

「でも……」

「あー……続きは、おまえが卒業してから、だな……って何言ってんだ、オレは」

「続き……?」

「あ!あー、それより!来週、リベンジな!」

「え?あ、はい!」



そうだよ。
無茶してねぇかどうかはオレが気をつけてればいいことだ。
疲れてるなって思ったらノンビリできるとこに行けばいい。
森林公園で昼寝、とかな。

だから、これからもオレはおまえを誘うぞ。
さっきみたいな事が他の男とあったら大変だしな。
なにより会わないとオレが落ち着かない。
もう少しだけオレのわがままきいてくれ。



「ただし無理はすんなよ。寝不足になって体調崩したりしたら罰ゲームだからな」

「えー!罰ゲーム?」

「そうデス。お返事は?」

「う……はい」

「よし、二重マル!」



クシャリと頭をなでれば
こどもみたいな笑顔に戻る。

さっきみたいな顔も見たいけど
それはまたいつか。



おまえとの距離も



おまえを待つ時間も



あと少し。











(あとがき)
芋さま、22222Hitありがとうございました!
リクエストは「真咲のちょっと報われる小話」。

あ、れ???

む、報われたのか、これ?

あああ、リクエストもらっておきながら
こんな風なのしか出来なくて本当にごめんなさい!

芋さま、本当にいつもいつも応援ありがとうございます!
これからもよろしくお願い致します!

(2009.5.5)

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