その先にあるもの



「楽しかったですねー!遊園地!」
「おお、お化け屋敷のおまえの慌てっぷりがなぁ!」
「そ!それは、先輩がわざと脅かすからじゃないですか!」
「はははー、そうだっけかあ?」
「そうですよ!」



「もう!」って言いながらオレの肩を小突くのは
アンネリーのバイト仲間で
オレの3こ下の後輩で
勝己の同級生で
それから………
なんなんだ?
この関係を一言で表すと?

年が離れてるから『友達』じゃねぇよなぁ。
『知り合い』ってんじゃよそよそしすぎる。
『恋人』………って呼べるほど、はっきりした関係でもねぇんだよなぁ………。



「お嬢さーん、お兄さんは一応運転中なんですが?」
「あ、そうですよね。すみません!」
「そうそう、喋ってもいいけど、運転妨害はしないでくださいねえ」
「はーい!」



はばたき山にある遊園地からの帰りはカーブの多い道が続く。
横にいるコイツが眠くならねぇかと思いチラッと見たら
すげえ真剣な顔でこっちを見ていた。
慌ててしっかり前を向くが………
なんか左の頬に視線が刺さるんですが?



「なあなあ、オレの顔になにかついてるのか?」
「いえ、先輩が眠くならないように見張ってるんです」
「見張ってるって………おまえ、じゃあ、オレが眠そうになったらどうするつもりだったんだ?」
「え?あー!………それは考えてなかった。つねる、とか?」
「なんだそりゃ?ははは!」



オレの考えもつかない行動や言動。
そういうのが年の差のせいなのか
それともコイツだからなのか全く分からないが
おかげで眠くなってなんかいられないんだな、これが。

というか、まだ「見張ってる」んですかねぇ?コイツは?
すげぇ視線を感じて気になるんだよ。



「集中!集中!」
「あ、先輩、もしかして眠くなってきたんですか?」
「違うけどな。ちょっと気合をな」
「ふーん………ふぁ………」
「ははーん、さては自分が眠いのか?」
「う………違うもん」
「いいから、気ぃつかわなくって。少しシート倒して寝てろ?」
「でも………」
「ムリすんな、今日は疲れたんだろ?」
「うん………じゃ、ちょっとだけ。先輩眠くなったら起こしてくださいよ?」
「分かった分かった」



シートを倒して目を瞑るおまえ。
オレの横で安心しきって眠ってくれるってこと、
前は頼られてるって嬉しくなったもんだが
最近、素直に喜べねぇんだよなあ。
なんつーか、少しは男として意識して欲しいというか………



あっという間に寝息なんか立てられちまうと
情けなくなってくるんだよなぁ、自分が。
オレはおまえのお兄ちゃんじゃないんだぞー!



寝息に合わせて上下する膨らみが横目に見えちまうから
またもや集中できなくなってきた。
いかんいかん!
脇見運転事故の元!
がんばれ、真咲元春!







街中に戻ってきたら渋滞に巻き込まれた。
さっきからノロノロ進んでは止まりの繰り返し。
止まる度にスースーと寝息の聞こえる助手席を見下ろす。

可愛い寝顔しやがって。
力が抜けて閉じきっていない唇とか
すっとした顎から喉もとのラインとか
さっきからずーっと上下してる胸とか
ヤバイよなぁ………。



おっと、前、進んでんな。
あー、いかんいかん。







ボーっと前を見てたときに
クイクイっと肘の辺りを突然引っ張られたから
思いっきりビクッとなったじゃないか。
あー心臓に悪い………



「お………起きたのか、もっと寝ててもいいんだぞ?」
「んん………だいじょぶ………です」



少し寝ぼけた声がカワイイんだよなぁ。
シートを起こして
「んーーー」とか言いながら伸びをするのを
また横目で見ちまって………反らされた体の一部分が………
って、オレ!しっかりしろ!



「たくさん寝ちゃってごめんなさい」
「いいよ、気にしないで」
「渋滞、ですね」
「ん、帰んの遅くなっちまってごめんな」
「少しぐらい大丈夫です。もう子供じゃないんだから」
「お子様だろー、おまえは?」
「違います!もうセブンティーンなんです!」
「はいはい、ムキになるところが、なぁ?」
「もーっ!」
「おわっ!」



だから運転中にたたくなっつーの!
あー、まあ、今は渋滞で停まってるからいいけどなぁ………

んで、なんですか、キミは?
また見張ってるんですか?
あー、視線が刺さる………



「あ、そうだ!コーヒーキャンディーなめますか?」
「ん、ああ、もらう」
「じゃ、ちょっと待ってくださいね」
「おお」



家から用意してきてくれたのか。
気が利くじゃん。
飴玉を一粒出して………って、おい?



「はい!先輩、あーん!」
「はぁ?!」
「運転してて手離せないでしょ?だから!あーん!」



待て待て。
落ち着け、オレ。
これはいつものコイツのなーんも考えてねぇ行動だ。
だからこっちもなーんも考えずに対応すればいい。



「とけてベタベタしてきちゃいましたよー!早く!あーん!」



さっきから色々たまってるんですよ、オレは?
無邪気すぎるのもどうかと思うわけだ。
少し危機感持ってもらわねぇとなあ。



「仕方ねぇなあ………はい、あー」



観念したように返事して口を開けたら
飴が前に差し出された。

それをアイツの指ごとパクリと食べる。
んで、とけて指に突いた甘い部分をペロリと舐めてやった。



「きゃっ!」



慌てて手を引っ込めるおまえ。
少しは思い知ったか?



「とけたっつってたから舐めてやったのに、きゃーとはなんだ」
「だだだだって!!!」
「こんなんで焦るなんてお子様だなー、おまえは、やっぱり」
「ちょっとビックリしただけだもん。子供扱いしないでください!」
「はいはい。さ、渋滞も抜けたし、おうちまで急ぎましょうかね」

ぷりぷり怒りながらじとーっと睨んだり、
「子供じゃないの!」とか言いながら頭に軽くチョップしてきたり
「聞いてるんですか?」って腕を引っ張ってきたり
「ねえってば!」とか言いながら髪をつつかれたり
コイツは無意識でオレに触ってくる。

………これは、いつものこと。
今までは「はいはい」と受け流してきたが
オレにだって限界ってもんがある。



子供じゃないだって?



「なあ………ちょっと………おい………あーもうっ」



おまえだってオレを男として見てねぇだろ?



「………いい加減にしろっ!」



つい、大声で怒鳴っちまった………。







正直『しまった』と思ったが
オレもそろそろ限界だったし
車が流れ始めたから運転に気をとられて
コイツがどういう反応してたか確認しなかったんだ。



信号で停まった時、
視線を感じてチラリと横を見たら
やっぱりこっちを見てた………んだけど、
さっきの『見張ってる』ってんじゃなくて
………うわっ、泣いてる?



ヤバイ………。
さっきの怒鳴ったやつか。
あー………泣かせるつもりじゃなかったのに。



慌てて駐車できるところを探して
やっと車を停められたのは
コイツん家の近くにある
森林公園の駐車場。



「悪かった、怒鳴ったりして」



アイツの頭にいつものように手を乗せて
ポフポフと優しくたたいてやる。



「………先輩はいっつも私を子供扱いする」
「そんなこと気にしてたのか」
「そんなことじゃないもん!」
「んじゃ、どうして欲しいんだ?」
「そ、それは………」



そんなの先輩が分かってくださいって
おまえなぁ………



「私って女の子として魅力ないですか?」



バカヤロ………そんなわけあるか。



「先輩………」



そんな目で見られたら………



マジで止められなくなりそうって言ったことあるよな?
いいのか?

左手で頬に流れる涙をそっとぬぐってやったら
その手に顔を擦り付けて目を閉じた。

その仕草でオレの中で何かがはじけちまった。

助手席側に体を反転させて
後頭部と腰を抱き寄せ
がむしゃらに口付けた。

何度も何度も。



「ふ………はぁ、せんぱい………」



カワイイ声を出されて
もっと欲しくなって
開いた唇から舌を差し込む。

初めての深いキスに
ビクッと体を震わせる。
そんな反応が嬉しくて
もっと色々したくなっちまう。

差し入れた舌でアイツの舌を捕まえて絡ませて。
口から漏れる水音と二人の声だけが車の中で響くから
余計に熱があがっちまう。



「ん………んん……」



苦しそうな音がもれる口から離れて見下ろしてみれば
潤んだ目がオレを見上げていた。



「せんぱい………好き………」



あー………もうダメだ。
おまえが悪いんだぞ?
分かってんのか?



「オレも、好きだ」

「せんぱい………」

「おまえ今日帰り遅くなって大丈夫か?
 ………じゃなくて、遅くなるからな」

「え?」

「オレんち行くぞ」

「それって………」

「拒否権なし。ここじゃヤだろ?」

「あの、えっと、どうしよう………」

「オレはここでもいいけど」

「そ、それは、ダメッ!」

「じゃ行くぞ」



もう一度食べるようにキスをしてから車を出した。
横でオロオロ焦ってるみたいだけど、もう遅い。



ほら、その先を曲がればもうすぐオレの家。











(あとがき)
芋様、11111Hitありがとうございました。
リクエストにおこたえして、真咲先輩大接近モードの先をイメージして書きました。

こんなんで良いのでしょうか?
大丈夫なのでしょうか?

ツンツンやりすぎたら、その先にはこんな事があるんですよ、きっと。
一回プチンとなったら止まらないだろうなぁって思うんですよ、先輩は。
優しい先輩っぽく途中でやめようと思ったんですけどね、
途中でやめられるほど大人じゃないですよね。
そうですよねぇ?
(と無理やり同意を求めてみる)





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Photo : おしゃれ探偵