まさゆめ
「手、貸せ」 「え? 手? なんで?」 「いいから、貸せ」 「えっと……はい」 なんなんだろう? このシチュエーションは? わたし、今、志波と向かい合って手を握られている。 なんでこんな事になったんだっけ? 「小さいな、おまえの手」 「志波の手が大きいんだと思うけど……」 「小さくて、かわいい」 「へ?!」 な? え? 志波、今、何言った? いつも言わないようなこと、 なんか口走ったような気がする。 ああ、気がするだけで、気のせい? そら耳??? 「ほっぺ、赤いぞ」 「え? だって、それは……っ!!」 こ、これは……何が起こっているのかなーーー??? 志波の手、握られているのとは反対の手、 その大きな手が私の頬に触れている。 ちょっとこそばゆくて、 触れられているところが妙に熱くなって、 余計に赤くなってしまうんですが??? 「やわらけぇ……」 「うへあっ!」 「ククッ……なんて声だしてんだ」 つねられているのではないけれど、 ふにっと頬をつままれて 思わず出た声は我ながらおかしいとは思う。 けど、 それを面白がるという感じではなく 優しい顔で微笑んでいる志波の方が 絶対おかしいと思う! 他の人が見ても、絶対おかしいと思うはず! 「なあ」 「な、なにかな?」 「抱きしめてもいいか?」 「はい?」 「抱きしめてもいいか?」 「はい?」 同じことを二度聞かれたような気がする。 私も同じように二度聞き返したような気がする。 もう頭がフワフワして何がなんだかわからない。 「抱きしめても――」 「な、なんで? どうして?」 「オレたちはなんだ?」 「なんだって……友達、だよね?」 そう、そのはず。 私は志波のことが気になって どうしようもない感情を持て余して 一緒にいるときも、いないときも、 ずっとずっと考えてしまうくらいだけれど、 そのことを志波に伝えたことはない。 志波が私のことをどう思っているかなんて聞けないし。 だから、今は、同級生の友達ってこと。 うん。そのはず。 「友達なら……」 「なら?」 「ハグぐらいするだろう?」 「へ? そ、それは、確かに、そうかもしれないけど……」 「だったら、いいな」 「え? ひえあおうぇえええ!!」 やっぱりおかしい! 絶対今日の志波はヘンだ! ヘン! ヘンすぎる! なにがどうしてこうなった?! なんで私は志波に抱きしめられているの? うう…… ああ、でも…… なんだかとってもあったかい。 腕の中にすっぽりとおさまっていると、 ものすごく安心できるような気がする。 心臓は破裂するぐらいにドキドキして、 息も苦しくって、 顔も真っ赤だと思うけど。 「澤木」 呼ばれて顔を上に向けたら、 こっちを見ている志波の視線にぶつかる。 わ、すっごい見られている。 真剣な眼差しがちょっとこわくて、 目をそらすか、とじるかして、逃げたい。 でもなぜかできなくて、 見つめ返していたら 志波の顔が近付いてきて…… こ、これって、もしかして…… キ、キ、キ…… 「……すーーー!!!」 あ、あれ? ここは、どこかな? 布団の中だ。自分の部屋の。 「あ……夢、ね。そりゃそうだ。あははー。はぁ……」 朝からなんという夢を…… あれって自分の願望なのかな。 なんか、私、恥ずかしい…… 「おっはよー! はーるひっ!」 「ああ、おはよ。みゆき、朝からテンション高いなあ」 「そう? そんなことないと思うよー!」 そんなことあるんです。 まともでいられない。 なんか気を抜くと今朝の夢を思い出しちゃって…… そんなこんなで、今日はテンパっています。 「ああああ……」 「な、なんや? どうしたん?」 「……なんでもない」 「大丈夫なん?」 「うん、なんとか」 「そお? あ、志波やん! おはよう!」 「おはよ……」 「☆※△▼!!!」 だあああ……声聞いただけでおかしくなりそう! 志波と目を合わせられない! いや、目どころか、姿もまともに見ることができない! 「みゆき、ほんま、ちょっとおかしいで?」 「……調子、悪いのか?」 「いや、えっと、違……私、先、行く!!」 「え? あ、みゆきーーー???」 わーん! 無理だ。 逃げ出してしまった。 おかしいと思われてもしかたないけど、 でも無理だもん! 教室でもなんか視線を感じるけど そっちを向くこともできない。 でも、気になってチラッとそっちを向くと ああああ、やっぱりこっちを見ているー! む、無理っ! あわてて顔をそらす。 というのを何度繰り返したか。 そうこうして、 何度目かの休み時間に とうとう志波がこっちにやってきた。 うわーん、逃げたい。 でも、今から席を立ったら、あからさますぎるし。 ああああ、どうしたら…… 「おい、澤木」 「し、志波? な、何、かなー?」 「大丈夫なのか?」 「だいじょぶだよ、とくに、なにも、ないよ」 「……変だろ」 「そんなことないだいじょぶだいじょぶ」 「……オレには話せないことなのか?」 「え? それは……そう、話せない」 「っ……」 「志波にだけは絶対言えない……」 「そうか……わかった」 言えるわけがない!!! ああ、でも、あんなに心配してくれてたのに。 私、すっごく嫌なヤツになってたよね。 もしかして、もしかすると、 いや、もしかしなくても、 これって嫌われちゃう? それは困る! どどど、どうしよーーー…… 結局何も良い考えが浮かばないまま放課後になってしまった。 だって、やっぱりまともに見られないし、 それにあの後志波も私の方を見なくなってしまった。 なんか、もう、ダメな方へダメな方へとコロコロコロコロ…… これじゃ、ホントにダメだ! 話しかけなければ…… 「し……志波!」 「ああ、なんだ」 「よかったら、一緒に帰らない、かなーと思って」 「……話したくねぇんじゃなかったか?」 「え? そうじゃなくて、なんていうか、あー、なんて言ったらいいのーーー?」 「まあ、いいか……いいぞ」 「ホント? じゃ、行こう」 「ああ」 と、とりあえず、これでいつもみたいに喋れば。 あれ? 一緒に帰るときって、いつも何話してたっけ? わからない……どうしよう? ああっ、沈黙がこわいよぉ…… とかなんとか言っている間に、 もう自分ちの近くの公園だ。 このまま何も喋らないでバイバイとか 気まずすぎるよねぇ。 「あの、志波?」 「……なんだ」 「ちょっと、寄り道する時間、ある?」 「……ああ」 よし! オッケー! 何を話すかはともかく時間はゲット。 とりあえず公園の中で少しでも話をしよう。 あー……でも、ホントどうしたらいいの? あーもう考えるの面倒だし、正直に話しちゃう? ぜ、全部は無理でも、今日の態度の理由くらいにはなるかも。 そうだ、そうしよう。 「あのね、今日、志波に話せなかったのはね……」 「ああ……別に、言いたくねぇなら言わなくても――」 「違うの! 言いたくないんじゃなくて、言いにくいというか……」 「……」 「実は今朝見た夢をね、思い出しちゃうと志波とうまく話せないという状態で……」 「……夢?」 「そう、夢」 「……どんな夢だ? 夢の中でオレはおまえに嫌われるようなことをしたのか?」 「違う違う! むしろ逆というかなんというか……」 「だったら、教えろ」 「それは無理、です」 「なんでだ?」 「なんでって言われてもぉ……」 うあー、頭を抱えて悩んでいる私。 それを覗きこむ志波。 ああ、また見られている。 そんなに見られるとまた夢の内容が復活しちゃうー! 「なあ……」 「へ?!」 手! 手! 手にぎられたー!!! 「ひどいことしたんじゃねぇなら、教えてくれ。その、夢の話」 「そ、それは……」 今、まさに、志波がしていることだよー! と、言えばいいんだろうか。 あうう…… 「おまえ……」 「はい?」 「赤いぞ……やっぱり調子悪いんじゃねぇか?」 「うへあっ?!」 「ククッ……」 ほっぺ! ほっぺ! さわられたー!!! なにこれ? デジャヴュ?! 触られているところが、夢の中より熱い。 心臓がバクバク言ってる。 無理無理無理! 「わわっ!」 「澤木っ……!」 「ひゃっ!!」 逃げようと後ろに下がったら 何かに躓いて転びそうになった。 しりもち確実だと思ったのに、 志波が握っていた手を引っ張りあげてくれて 今、私は、志波に抱きとめられている。 なんなの、これ? あの夢は正夢だったの? ってことは、その次は、キ…… まさかそれは無いよねー? ないないないない! でも、本当に正夢だったら? どどど、どうしよう? なんかわけがわからなくて、もう涙出てきた…… ぽんぽん 頭に優しくされた合図に 上を向いてみたら あの夢と同じように 私を見つめる二つの目。 もうダメだ。 心臓は破裂寸前。 顔も熱いし、志波に触れている部分が全部熱い。 顔を背けられないし、目をとじることもできない。 でも、その先は夢と違った。 志波の真剣な表情がフッと崩れたんだ。 「悪ぃ、困らせた……だが」 「?」 「そんな顔してると、もっと困らせてみたくなる」 「ええ?」 「冗談……じゃねぇって言ったら、どうする?」 「あああ、あの、えっと……」 「まあ……それは、またいつかにするか」 パッと解放されて、とにかく深呼吸。 心臓のバクバクが少しおさまったら、 頭の中もちょっと考える余裕が出てきた。 要するに今のは志波にからかわれたんだよね? 「むぅ……からかうなんて、ひどいよ」 「からかったつもりはねぇが……まあ、今日の仕返しだな」 「だから、それは夢のせいで……」 「だから、どんな夢だったんだ?」 「言えないもん」 「そうか……避けられてたんじゃねぇなら、まあ、いい」 「避けてない! ホントに! ただ、普通になるのにしばらくかかるかも」 「……なら、毎日仕返しか」 「ええっ?! あの、すぐに! 明日から普通になるから!!」 いや、もう、なんていうか、夢のことよりも、 今さっきのことを思い出して、 余計にグルグルしちゃいそうなんだけどっ! こんなのが続いたら私の心臓はもたないよ。 あ、明日から、無理やりでも普通にしないと…… (End) (あとがき) 志波くん、ハッピーバースデー! 誕生日とはなんの関係もないテキストになってしまいましたが、 久しぶりだったり、ただただ志波くんとあまあまにしてみたかったのです。 本当にそれだけ。で、気づいたらこんなことに…… まあ、つまりは、志波くん大好きだよー! ということです。 (2012.11.21) (ウィンドウを閉じてお戻りください) |