「あ!志波、はっけ〜ん!」



どっかの親衛隊のモノマネか?
いつもより高い声が耳に響くが
それすらも心地良いと感じてしまう。

その声を聞いていられるなら
貴重な昼寝の時間を
削っても惜しくはない。



Trick or Treat!



声の主を見るために左目だけ薄く開けてみたら
ちょうど植え込みをまたいでこっちに来るところだった。



「よっ、と………」



(白………)



我ながらグッドタイミング………
………じゃなくて、見えちまったのがばれたら
後でなにを言われるか分からないから慌てて目を瞑った。



「おーい、志波ー。ホントは寝てないでしょ?」

「………」

「口の端っこ上がってるし、ほっぺが赤いよ」

「………嘘つくな」

「ほら!やっぱり起きてた!」



ハァ………さっきのが顔に出てたのかと思って若干焦った。
昼寝を邪魔されて不機嫌………というフリをしながら
体を起こして胡坐をかいて座る。

子犬のように「来てくれて嬉しいワン!」と
心の中では飛びついているんだけどな。



「なんだ?」

「ん?うふふー………」



いつも突拍子もないことでオレを楽しませてくれるコイツ。
今日はどんな事を考えているのやら………。



「ねえねえ、Trick or Treat!って言ってみて」

「なんだ………それ?」

「えーっ?!知らないの?ハロウィンだよ?」

「ハロウィン………」

「ホントに知らないの?あのね、ハロウィンっていうのはね−−−」



懸命にハロウィンについて説明を始めたコイツ。
全然意味が分からないから眠気が復活してきた。



「−−−お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞって意味で−−−」



眠い………。



「−−−かぼちゃをくりぬいて中にろうそく入れて−−−」



ここで寝たら確実に突っ込まれるな。
なんとか耐えねぇと………。



「−−−ね、分かった?」

「………あ?ああ」



本当は全く頭の中に残っていねぇ。
一つだけ気になった単語以外は。



「じゃ、言ってみて。Trick or Treat!はい、どーぞ!」

「トリック、オア、トリート」

「よく出来ました!はい、お菓子ですよー!」



用意していたチュッパチャプスを嬉しそうに差し出すおまえ。
それがやりたかったってわけか。



「サンキュ」



飴を受け取り包み紙を剥いて口に放り込む。
棒が邪魔だな、と思いながら、
ガリガリ噛み砕いてすぐに全部食べちまった。



オレは頭に残ってた一つの単語を思い出す。



(いたずら………だったよな)



「………トリック、オア、トリート」



トリックがいたずらって意味なのか?
それともトリートか?
まあ、どっちでもいいか。



「え?もう無いよ、飴。もっと欲しかった?」

「無いんだな、飴」

「うん、無いよ」

「じゃ、いたずら、だな」

「え?」

「どんなヤツにする?」

「だめ!さっき飴あげたもん!」

「もう無い」

「ずるーい!」

「くすぐる、とか………?」

「ムリムリムリ!死ぬ!くすぐり禁止!」

「じゃあ………」

「な、なに?顔、近いよ?」

「早く目瞑れ」

「え、や、あの、ええっ?!」



慌てた様子がたまらなく面白い。



「ほら、瞑れ」

「だだだ、ダメダメダメ!」



両手でオレの口を塞いで押しのけてきた。
オレの口にはコイツの手のひらが密着。
このままも悪くないが………



ペロッ



「ヒャーーーーー!!!!!」

「ククッ………」

「バ、バカー!なにすんの?」

「いたずら、していいんだろ?」



手を舐めただけでその反応。
面白すぎだろ。



「トリックオアトリート」

「やだ!もうだめ!絶対だめ!」

「10月31日が終わるまで、まだあと11時間ぐらいあるぞ?」

「ええっ?!ずっとやるつもり?」

「1回限りってルールは無ぇんだろ?」

「え、それは、そうだけど………で、でもっ!」



キーンコーンカーンコーン



「あ、ほら!昼休み終わりだよ?教室戻らなきゃ!」

「ああ、残念だな」

「あは、あはは」

「じゃあ、続きは帰りにな」

「へ?」
「一緒に帰れるだろ?」

「あ、うん、帰れる、けど」

「お菓子よりも甘いもの、頼むな」



一瞬で赤くなるアイツがおかしくてもっと困らせたくなる。

ハロウィン………なかなか楽しいイベントだったんだな。

帰りまでに色々考えとくか。








(あとがき)
志波は「とりっくおあとりーと」の魔法を覚えた
かしこさが3アップした(ちゃらら〜ん)

………ってな感じです。

(2008.10.28)




(↓掲載当時のあとがき)
もう完全に志波が怪しい人になってます。

某a様に
「ときめき状態の志波さんの場合、
 ハロウィンを逆手に取って知らないフリをしつつも
 何やらイカガワシイ行動に出ようとするのは間違いありません。
 ・・・・・・・さぁ、書いて!Say-coさま!!」
なんて命令されてしまったので書いちゃいましたよ!

イカガワシイ行動といよりイカガワシイ人になっちゃったよー!
責任とって、a様!!




(2008.10.13 拍手掲載)



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