冬服 -1-
(どうしたもんか…………) 思わず顔を覆っちまいたくなるようなこの光景を ずっと見ていたいような気もする。 だが、照れくさくて仕方ない。 誰が見てるというわけでもないんだが……。 (なんでこんなこと……こいつは……?) 「おい、志波。おまえ、上着どうした?」 「あ…………忘れた」 「教室か?」 「たぶん……とってくる」 放課後、部室の前で野球部のダチに言われて気付いた。 昨日まで必要なかったもの。 10月になったからといって、急に寒くなるわけじゃねぇ。 教室では暑いから当然のように脱いで椅子にかけておいた。 確か…… 帰りのホームルームの後、 鞄をロッカーから取り出して、 それから…… ああ……そのまま外に出ちまったんだ。 あん時、廊下にアイツがいて、 その姿を追って行って…… 「おい……どこ行くんだ?」 「職員室だよ。今日、日直だったでしょ。みんなの提出物持ってくの」 「そうか」 「志波は? 出した?」 「あー…………忘れた」 「そっか。また明日持ってきなよ? じゃ、わたし、行ってくるね」 「ああ……じゃあ」 そんなちょっとした会話でも胸ん中にポッと火がついちまう。 廊下をかけていく後姿をしばらく見送ってからオレは反対側へと歩き出した。 自然に頬が緩んでしまうのを誰にも見られたくなくて下を向きながら。 「あ…………?」 上着を取りに教室に戻ったとき、オレは入口で足を止めた。 確かに椅子の背にかけてあったはずのそれは、今、机にかかっている。 いや……あれは………… 状況を確かめるためにゆっくりと静かに近寄った。 近付くにつれて聞こえてくる規則的なリズムの息の音。 僅かに上下している上着……。 オレの席には オレの机に突っ伏して オレの上着を頭からかぶって 眠っちまっているアイツがいた。 (なにやってんだ、まったく…………) とりあえず、隣に座って、片肘をついて、頬を乗せて……その寝姿に見入る。 かぶっている上着の襟元から少しだけ見える寝顔。 それがあまりにも幸せそうで、フッと笑っちまった。 「ん……志波…………」 起きちまったか? と思ったが、また寝息をたてはじめた。 だとすると、今のは寝言か? 夢ん中にオレがいるのか…………? 「あったかぁい…………」 (っ!!!!…………馬鹿、照れるだろ…………) 「ふふっ…………」 (ハァ…………) いったいどんな夢を見てるんだか……。 顔を覆いながら夢の中を想像してみる…… 夢の中でおまえをあっためてるのはオレの上着なのか? それとも…………オレ、か? 夢なんかで見なくても オレが 現実で … … なんて言えるわきゃねぇが…… 今すぐ起こして 夢の内容を 聞くか それとも このまま このくすぐったい状況に 浸ってるか (どうしたもんか…………) (あとがき) 衣替えの季節に勢いで書いたSSでした。 衣替えで、上着萌え。 しかもすごく大きいやつ。 (2009.10.03拍手掲載) SSの目次へ |