はじまりの日に生まれたもの




「ねえ、志波くん?」
「なんだ……」
「今日、どうしてわたしを誘ってくれたの?」
「…………さあ」
「ええっ!? さあって……」
「……なんでそんなこと、知りてぇんだ?」
「ん? だって、志波くん、他にも仲良しさんいるでしょ?」
「仲良し、さん……?」
「うん。ハリーとかクリスくんとか。あ、二人とも用事があったとか?」
「いや……あいつらには声かけてねぇ」
「そうなんだ。じゃあ、やっぱり、なんでわたしなの?」

初詣の帰り道、横を歩くコイツがしつこく聞いてくるのは
オレをからかおうとかそういんじゃなく
純粋に疑問に思った事を言ってるだけなんだろうが
オレにもその答えはよく分からない。

今朝、数枚来ていた年賀状の中にコイツの名前を見つけたからか?
いや、それだったらさっき名前の出た奴等からのもあったはずだ。

ヒマだ――そう思った時にフッと浮かんだのがコイツの顔だった。
一緒に出かけると時間が経つのがあっという間で退屈したことが無い。
そして単なるヒマ潰しだけでなく、良いトレーニングをした時のように気持ちが充実する。

一旦浮かんだら頭の中から離れなくなっちまって
気付いたら携帯を握りしめていた。
普段、人込みなんて進んで行ったりしねぇのに
今日の行き先は初詣しか思いつかなかった。

「おまえの顔が、一番に浮かんだ」
「えっ!? わたしの、顔!?」

思い至ったことを素直に口にした。
それだけなのに、何故か動揺している。
本当に先が読めないヤツだ。

「ククッ……」
「あー! からかったの?」
「いや、ホントのことだ」
「え? あの、そ、そう……」

マジメな顔して答えてやったら
今度は顔を赤くして照れている。
コロコロ変わる表情は厭きることがない。
面白いヤツ。

しかし、コイツはどうなんだろうか?
オレと一緒は退屈しないんだろうか?

「おまえは?」
「え?」
「おまえの方こそ、その……仲良しさん、沢山いるだろ。そいつらと行かなくて良かったのか?」
「ああ、うん。今日は家でノンビリしようと思ってたから」
「……悪い、邪魔したな、オレは」
「ち、違うよ!」

オレの腕をつかんで見上げるコイツの目が
あまりにも必死で思わず立ち止まった。

「ノンビリしようと思ってたけど、
 志波くんが誘ってくれて今日すごく楽しかったから、
 だから、どうして誘ってくれたのか聞いてみたかったの。
 本当に楽しかったの」

このまま反応せずに放っておいたら
零れ落ちるんじゃねぇかって位大きな目で見つめられ、
なんだかわからないが喉の奥がグッとつまる。

次にオレがしたことは、
これまた何故そんなことをしたのかわからねぇが、
目の前のコイツの頭をポンポンと撫でること。
そして自分にも言い聞かせるように――

「落ち着け……わかったから」
「本当に?」
「ああ……」
「よかったぁ……」

息を長く吐き出しながら腕にコツッと頭をぶつけられた。
いつも上から見下ろしているが、これは――

(近い……)

距離を意識した途端に血が下から上に流れ始めた。
頭がぶつかっているところから熱が広がっていく。
なんだ? これは?

「お、おい……」
「あ、ご、ごめんね」
「……いいから、あっち向け」
「う、うん」

パッと離れていく小さく柔らかな感触に
ホッとしながらも、何というか……なんなんだ?
本当にわからねぇ。
わからないが……

「帰るぞ」
「うん」

――嫌な感じはしない……。

自分の中に今まで知らなかった何かが生まれたような気分だ。
その『何か』がなんなのかは分からないが、
コイツといればいつか分かるようになる……そんな予感がする。

新しい年は始まったばかり。
まだまだ、これから、だな。







(あとがき)
高1 友好ぐらい 初詣の帰り道のお話でした。
「変なやつ」とか「不思議なやつ」とか「わからねぇ」とか思ってるうちに
目が離せなくなっていくんですよ、きっとヽ(^o^)丿
そこから「好きだ」と自覚するのはどんなタイミングなんでしょうね?
(2010.01.01ブログ掲載)



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