姫と兵士 -1.出会い-



私、アカリ、16歳はウィング王国のお姫様。

お父様とお母様はそろそろ結婚相手を選びなさいと仰るけれど、私はもっとお友達と遊びたいし、おしゃれだって楽しみたい。
大体、そんな相手、身近にはいないし、隣国の王子様の所へ嫁ぐなんてもっと考えられない。
ハバタキ国のケイ王子とか、コーラル国のテル王子とかは、友達の間でも人気があるけど、人気があるからって結婚相手に相応しいかどうかは違うと思う。

そもそも見ず知らずの人との結婚なんて考えただけでもぞっとするよ。
その辺りは大恋愛で結婚されたお父様とお母様も解っていただいているみたいで、無理強いはしてこない。
でもそれが逆にプレッシャーにもなったりして……ちゃんと考えないとダメなのかな?

それにしても、恋とか愛ってなんだろう?
好き、愛してる、ずっと一緒にいたい、結婚したいって思う気持ち、そういうの私にもいつか来るんだろうか?



「えっと……こりぇから、どうちよう?」



私、アカリ、16歳は、現在森の中を歩いている。
早くお城に戻らなきゃ、お父様とお母様が心配しちゃう。



「やっぱい、あのキノコがまじゅかったのかなぁ……。
 じぇったいあやちかったもん、あのクルクルあたまのおんなのひと。
 あたちのことデイジとかよんで……」



なんだかさっきより道が細くなってるような……。
でも、確か、お城はコッチの方角だったし。
ちゃんと道に沿って歩いていれば大丈夫……だよね?



「おい」

「きゃー!」



突然かけられた低い声。
怒ってる?
脅されてる?
なんか、アヤシイ人?



「だ、だ、だ、だれでちゅかっ?!」

「オレはシバというもので、この国の兵士だ。……おまえ、ここで何してる?」

「あ、あたちはおうちにかえゆとこよ」

「家?……この奥に家はねぇぞ?」

「ふぇ?で、で、で、でも、おしろはこっちでちょ?」

「城?……ああ、城下町に住んでんのか?だったら逆だ」

「ええっ?!ほ、ほんと?!」

「ああ……おまえ、何歳だ?親と一緒じゃねぇのか?……迷子、か?」

「あたちをしらないなんて、ほんとにこのくにのへいし?あたちはアカリひめ、16ちゃいよ」

「は?…………どうみても5歳ぐらいだろ。この国のアカリ姫だったら確かに16歳だが……」

「だからー、あたちがアカリひめなの!」

「ふぅ……まあ、いいか。家まで送ってやる。ほら、来い」

「むぅっ!えらそうにちないで!けらいのくしぇに!!」

「はいはい……さ、行くぞ、ほら、歩け」

「うう……わかったよぉーだ……そーいうシバはなんしゃいなの?20しゃいくらい?」

「オレは16だ」

「ええっ?!あたちとおなじ?とちうえかとおもった」

「よく言われる。というか、同じって……」



森の中で出会った兵士、シバ。
とっても無愛想でとっても大きくて見た目ちょっと怖い。
まあ、兵士なんだから怖いぐらいが丁度良いのかもしれない。
でも、私の事を知らないだなんて、本当に失礼しちゃう!
……と言っても、こんなこどもの状態の私がアカリ姫だって気付く人はどこにもいないか。



「それにしても、おまえ……」

「おまえじゃないもんっ!」

「あー……アカリ、なんで一人で森ン中歩いてたんだ?」

「えっと、おさんぽして、おはなをちゅんで、おしろにかえろうとしただけだよ?」

「城と森は一本道だろ?戻るだけなのに、なんであんな森の奥に……クッ」

「え?」

「ハハッ……すげぇ方向音痴……ククッ」



わぁ、さっきまで表情無いなぁって思ってたのに、思いっきり笑ってる。
なに、笑い上戸?



「ちょっと、しちゅれいでしょ!れでぃのことわらうなんて!!」

「悪ぃ……でも、とまんねぇ……クッ……ハハハ!」

「もうっ!ひ、ひとりでかえゆ!」

「おい、バカ!そっちじゃない!……まったくほっとけないヤツだな、おまえ」

「おまえじゃないってゆったでちょ!」

「はいはい。アカリ、ほら、手」

「きゃー!いきないれでぃのてをさわるなんて、ぶれいもの!」

「は?……ったく、いい加減にしろ。また迷子になってもいいのか?

「うう……あ、あたちのてをさわれるなんてこーえーなことなんだからね!」

「はいはい。ほら、手」

「うう……よろちくおねがいちまちゅ」



なんなの、もうっ!
ホントに失礼しちゃう。
兵士のくせに偉そうな態度。
こども扱いして手まで繋いじゃって!!

……でも、あんな顔して笑うんだ、シバって。
もう1回見たいかも。
それに大きな手。
ちょっとお父様に似てるけど、お父様よりもあったかくって、大きくて、すっぽり包まれて、安心。

ポワン

あれ?
何の音?
何、これ?
???



「どうした?」

「へ?べ、べちゅになんでもない。しょれより、あるくのはやすぎ!」

「はいはい。これぐらいでいかがですか?お姫様?」

「もっとゆっくり!」

「ふぅ……めんどくせぇな……おんぶでもしてやろうか?」

「はぁ?!……なんかこどもだとおもってばかにしてゆでちょ?」

「……ククッ」

「ほらぁ!またわらった!もうっ!!」

「あー……わかったわかった。黙ってるから、そんなに怒るな」



その後はあまり喋ることなくただ手を繋いで歩いてるだけだったんだけど、なんだか不思議な感じがした。
今までに経験したことの無い感覚。
言葉ではうまく言い表せないんだけど。
黙って傍にいるだけなのに、安心?……とは違うような気がする。
うーん……わかんないや。





(つづく……たぶん)







(あとがき)
2月は「Bitter & Sweet月間」。
バレンタインは過ぎたのに志波くんを書いていませんでした。
(いえ、手ブロでなんか下手な漫画は描いたんですが)

そんな時、aika様の楽しいブログを見て「やってみるかー!」と思って
書き始めたのが今回のコレです。
ええ、もう、ベタな展開になるのは目に見えています。
姫に振り回されるシバ。
別の意味で振り回していますが、こんなんはどうでしょうね?



(2009.2.21)





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