姫と兵士 -2.ある日、森の中-



「あしがいちゃい……」

「もう少しで町だ。だから、がんばれ」

「あしがいちゃい!あしがいちゃい!あしがいーちゃーいー!」

「っ……」

「わーん!もうあるけないーーーー!」

「ふぅ……だから、おんぶしてやるって言ってんだろ?」

「やだ!そんなこどもみたいなの、はずかしいもん!」

「こどもだろ……仕方ねぇ、ここらで休憩するか」

「わーい!」



あー良かった。
体がちっちゃくなっちゃったせいなのか、一緒にちっちゃくなった靴が合わないのか、とにかく足が痛い。
切り株に座って休憩タイム。
ホントもう一歩だって歩けない。

それにしても、シバが見つけてくれたこの切り株、座り心地が良いな。
さっきシバが小川から汲んで来てくれた水は冷たくて美味しい。



「足、見せてみろ」

「きゃー!どれすをまくるなんてシバのえっちー!」

「なっ!…………薬草を貼るだけだ!」

「え?……あ……ありがとございまちゅ……」



薬草、冷たい。
でも疲れてた足がスーッと楽になっていく。
兵士だからって戦うだけじゃなくってそんな知識もあるんだ。
……シバって意外と優しいとこもあるんだ。



「どうだ?」

「うん、えっと、きもちいい」

「そうか。楽になるまで休憩しような」

「うん……あの、シバっていちゅももりでおしごとしてるの?」

「ああ、町の外を見回るのがオレの仕事だからな」

「ふぅん……たいへんそーだね」

「まあ、森ン中は何が出てくるかわかんねぇから、危険はある」

「しょーなの?」

「ああ……ほら、そこに蛇が」

「ええええっ!!!やーこわいいいいい!!!」

「おっと……」



蛇怖い。蛇怖い〜〜〜。
あうあう……思わずシバに飛びついちゃったよ。



「ククッ……」

「え?」

「冗談」

「えーっ?!シバのいじわゆ!!」

「元気、出てきたみたいだな」



ポカポカぶっても私が小さいから効力無くてシバはニヤニヤ笑ってる。
あー、なんだかすごく悔しい。



「おまえ、ホント見てて飽きないな」

「お、おまえじゃないもん!」

「ああ、そうだったな……アカリ?」

「は、はい?!」



何?
ジッと見られてる。
さっきの冗談言ってたときの顔と違う真剣な眼。



「じっとしてろ……熊だ」

「むぅ……またじょうだんでちょ?」

「いや、本物……大丈夫、オレが必ず守ってやるからな」



ポンポンって頭に手を置くなんて、またこども扱いされた……。

私から離れたシバは熊の方へ……って、ちょ、ちょっと待って?!
シバが兵士だからって、熊にはかなわないでしょ?
必ず守るって、自分が盾になるって事?
そんなのダメだし、ヤダっ!



「シ、シバ!」

「しーっ!静かにしてろ」



うう……なんで、あんなに余裕なの?
熊だよ?熊。

だけど、シバは私の心配なんかお構い無しに熊に近付いて、なんか小声で囁いてる。
そんな、熊に話しかけたって効果あるわけないのに。

でも……あれ?

さっきまで唸り声をあげてた熊がおとなしくなった?
なんだか、シバの話をちゃんと聞いてるみたい。
え?
なんで?
あ……森の奥に帰っていく。
えーっ???



「ふぅ……もう大丈夫だ……って、アカリ、なに泣いてんだっ?」

「だって、ふ……ふぇぇぇ」

「熊が怖かったのか?よしよし」

「ち……ちがっ……ううう……」



違う。
熊が怖かったんじゃない。
シバが熊に……って思って怖かった。
だけど無事だったから気が緩んだんだ。

よしよしって、撫でてくれる手があったかい。
さっき繋いだときもそうだったけど、なんでシバの手は安心できるんだろう?



「涙、止まったか?」

「うん……シバって、くまちゃんとおはなしできゆの?」

「いや……どうだろうな?」

「でも、いま……」

「ああ……ウサギとか鳥とかに寄って来られる事はよくあるんだが、帰れって言い聞かせて成功したのは初めてだな」

「ええっ?!」



シバって、シバって…………なんか不思議。
無愛想で大きくて怖そうな人だなあって思ってたのに、実は笑い上戸で、優しいとこもあって、冗談も言ったりして、そして動物に好かれている?
こんな人、本当に、初めてだ。





(つづく……たぶん)







(あとがき)
シバといえば動物。
森の中といえば熊さん。



(2009.2.22)





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