姫と兵士 -3.兵士と騎士-



「シバー、まだおしろにちゅかないのー?」

「あと少し、だな。……それにしても、来る時は足痛くならなかったのか?」

「だからー、しゃっきまでおっきかったからへーきだったんだもん!」

「またそれか……」

「むぅっ!どーちてしんじてくれないのっ?!」



私がこどもに見えるからなの?
こどもの戯言だって思ってるの?
シバってば私の話を全然信じてくれない。
森に来た時は本当に16歳の私だったのに……。

絶対、あの怪しい女の人からもらったキノコのせいだ。
きっとあのキノコには何かの魔法がかけられてたんだ。
早くお城に帰って神父様に元の姿に戻してもらおう。
そうすればシバだって信じてくれる。

でも、本当は……そんなの見せなくても、今の私の言葉を信じて欲しい。
シバに信じてもらえないっていう事実が、なんだかとても悲しい。



「休憩、するか?」

「ふぇっ?」

「笑わなくなった。疲れてんだろ?」

「えっと、ちがうけど……ちょっとしゅわってシバとおはなしちたい」

「話?……まあ、いいか」



出会ってからずっと気になってた事がある。
それを聞いてみたいって気持ちも本当なんだけど、もう少しシバと一緒にいたいって思った。
どうしてそんな風に思うのか分からないけれど、離れたくないっていうか、顔を見ていたいっていうか、声を聞いていたいっていうか、手を繋いだままでいたいっていうか…………。



「あのね、どーちてけんをみっちゅもってゆの?」

「ああ、これか……オレのと友のと兄貴分ので3本」

「おともだちとおにいちゃん?」

「ククッ……なんか、おまえにはなんでも話しちまうな。不思議なヤツ」

「おちえて!どーちてほかのひとのけんをもってゆの?」

「ああ……1年前まで、オレは城の中で騎士見習いをしてたんだ」

「ないと?どーちていまはおしょとにいゆの??」

「ふぅ……まあ、アカリになら話してもいいか……。あのな、その頃、別の隊にクロキってのがいたんだが、そいつがオレの隊の友達にくだらない言いがかりをつけてきて、そのまま喧嘩になっちまったんだ」

「それから?」

「その喧嘩を止めようとした時、オレはクロキに怪我をさせちまった……」

「それってシバはわゆくないんでちょ?」



フッとシバは微笑んでるけど、無理に笑ってるようで、すごく悲しそうで、すごくすごく辛そう。
どうして?
その話の中の悪者はあきらかにクロキって人だよね。
どうしてシバがそんな顔しなきゃいけないのか分からない。



「クロキは人脈があったんだろうな。クロキに怪我をさせたオレと喧嘩の相手だったオレの友は騎士見習いから城の外の兵士へ降格したんだ」

「しょんなの、おかしい……」

「友は田舎に帰ると言ってオレにこの剣を残していった」

「じゃあ、もうひとちゅは?」

「同じ隊にいたオレの兄貴分のハルってヤツ……すごくお節介なヤツなんだが、オレが降格した事をきっかけに『そんな理不尽な決定を下すような組織にはいられねぇ』とかなんとか言って、自分から騎士になるのをやめたんだ。で、ハルから預かったのがこっちの剣」

「ハル……って、にわしのハル?」

「知ってんのか?」

「うん。いちゅもおはなのなまえおしえてくえゆ。おにーちゃんみたいなひと」

「へぇ……」



お節介なヤツって言っておきながら、私がハルの事を知っているといったらちょっと嬉しそうな顔になったシバ。
シバも本当はハルの事を慕ってるんだね。
兄貴分って言ってたし。
私も嬉しい。
だってなんかシバと何かを共有できたようで。

あ……っと、それどころじゃない。
さっきシバが言ってたクロキって騎士見習い……今は騎士になってしまってるのかしら?……お父様に言ってきちんと素行を調査してもらわないと。
表の顔だけ良くって騎士ぶっているなんて絶対に許せない。



「あのね、シバ。あたち、おとうちゃまにゆって、そのクロキってひとをしかってもらうね。あと、シバがないとにもどれるようにたのんであげるね」

「アカリの父君はそんな権力があるお方なのか?」

「だーかーらー、ちゃっきからゆってゆけど、あたちはアカリひめなんだよ。だからおとうちゃまはおーさまなの。しょんなはなしはすぐにかいけちゅしてくれゆからね」

「ククッ……サンキュー。嘘だとしても嬉しい」

「うそじゃないもん!」

「分かった分かった」



まただ。
また、よしよしって頭を撫でてくるシバ。
その手は心地良いけど、でもそんなにこども扱いしないで欲しい。
気持ち良いのに、胸が苦しい。



「それにな、オレは騎士に戻るつもりは無いんだ」

「え?どーちて?」

「オレのせいで騎士になることができなかった友がいる。オレのせいで騎士にならなかった兄貴分がいる。オレも騎士には戻らない。それが、あいつらへの贖罪なんだ」

「シバ……」

「おまえが辛そうな顔すること無い……そんな顔させんなら、こんな話、しなきゃ良かったな」



思いっきり首をブンブン振った。
そんなことない。
話してくれて嬉しかった。
シバの力になりたい。
いっぱい言いたい事があるのに上手く言葉にできない。



「あ、そういや、アカリ?」

「なーに?」

「おまえ贖罪って言葉知ってるか?難しかったか?」

「むっ……ば、ばかにちないで!それぐらいしってゆもん!」

「そうか。おまえ歳に似合わず賢いな。オレの話もみんな理解してるみたいだ」

「うう……ニヤニヤして、なんかバカにしてゆでしょ!もうっ!!」

「ククッ……元気、出たな。さ、日が落ちる前に帰るぞ」



シバが私に気を使ってくれるのが分かるから、私が辛そうな顔しちゃダメなんだ。
一番辛い思いをしたのはシバなんだから。
でも、私だってシバのそんな辛い顔は見たくない。
もうすぐお別れなのに私には何もできないんだろうか?





(つづく……たぶん)







(あとがき)
はい、出ました、三刀流!
あ、3本持ってるだけなんですけどね。
……えーっと、なんでしたっけ?
あ、そうそうあとがきですね。

兵士とか騎士とか降格とか城の外とか中とかで何か違うのかとか、さっぱり分かりません。
時代考証なんか全くしていませんし、いったいどこの国だってのも考えていません。
だからその辺りにお詳しい方、本当にすみません。
先に謝っておきます。

べったべたな設定で申し訳ないので、今日はおまけに絵をつけてしまいます。



制服をアレンジ!
あ、アカリのリボンを描き忘れた……。
しょーっく!!


(2009.2.23)





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