姫と兵士 -5.再会-



あれから2年が過ぎ、今日3月2日は約束の日……



……なんだけど、その前に、一つ大事な行事がある。
騎士見習いだった者達へ、正式な騎士としての称号を叙任する日。
私も18歳になったので、今日はその式典で彼らにマントを与える役をもらったのデス。

お父様やお母様は「ちゃんと出来る?」と心配顔だけど、私だっていつまでもこどもじゃない。
ちゃんと成長してるし、今日は絶対頑張るって決めたんだもん。



だって、王座の階下に並ぶ新しい騎士たちの一番端にシバがいるから。



クロキの件を片付けてもらった後、シバとシバのお友達は騎士見習いに復帰した。
「戻るつもりは無い」って言ってたからどうするのか心配だったんだけど、あまり迷うことなく戻る事を決めてたってハルから聞いた。
ハルは庭師の方が向いてるからって復帰しなかったんだけど、おかげで私のお庭もいつもきれいな花でいっぱいだし、お花の世話をしているときに、シバの話を沢山聞くことができた。



復帰してから、訓練してるシバの様子をコッソリ覗きに行ったりしてたけど、こうやってちゃんと見ることは出来なかったからなんだか胸がジーンとしちゃう。



「姫」

「……」

「姫!」

「はいっ?」

「マントの授与です。階段を下りて下さい」

「は、はい!」



いけない、いけない。
ちゃんと役目を果たさないと。
落ち着いてお姫様らしく優雅に振舞わなきゃ。

階段は慎重に一段ずつ、ドレスの裾を踏まないように……。

無事に下りたら「ほー」ってお父様やお付の者達の安堵の溜息が聞こえるけと、なんか失礼しちゃう。
私だってちゃんとした場所ではちゃんとできるんですー!
マントを渡すのだってお姫様らしくちゃーんとできてるでしょ?



最後はシバ。
ああ、こんなに近くでシバを見るのはあの日以来だなぁ。
胸がいっぱいで苦しくなってきた。

ゆっくり歩きながらシバに近付く。

跪いて下を向いたままのシバ。
シバの顔、ちゃんと見たいな。
あ、でも、シバの頭が見えるってすごいかも。
あの時はずっと下のほうから見てただけだったもんね。



ツンッ



「ニャッ?!」



せ、せっかくここまで素敵に来たのにっ……!!
ちょっとシバに見とれてたらっ……!!
……ドレスの裾、踏んだぁぁぁ!!
にゃー!転ぶーーーー!!!!!やーーーーーー!!!!!



ポスッ



もうダメだと思って目を瞑ってあきらめていたら、何か大きなものにぶつかった。
あ、ぶつかったんじゃなくて、誰かが転ばないように受け止めてくれたんだ。
はぁ……助かった。



「あ、あの、ありがとう」



お礼を言ったらもう大丈夫だと思ったのか、その人はスッと私の前に跪いた。



「いえ。失礼しました」

「あ……」



シバ……。
助けてもらっちゃった。
でも、なんだか余所余所しい。
今、シバにとって私はアカリ姫で、あの日のアカリじゃないのだから仕方ないんだけど、でも、未だに気付いてくれないのがちょっと悔しかったから、



「あなたに騎士としての称号の証であるこのマントを授けます」



お決まりの文句を言ってマントをかけてあげる時、



「約束覚えてる?」



って小声で言ってみた。



「っ?!」



ふふ、反応あり。
どうして私が約束の話をするか分からないって顔してる。

ビックリしてこっち見たシバの顔。
ずっと会いたかった人の顔。

また後で会えるよねってニッコリ笑って私は元いた場所へ戻った。











2年前、シバに会った時に着ていたドレスを引っ張りだして着替えた。
昨日までの雨が嘘みたいに今日はよく晴れている。
お庭のお花さん達も嬉しそう。

シバは小さな私との約束を果たしてくれるかな?
扉の中にいるのが小さなアカリじゃなくて、18歳の私だって分かったらきっとビックリするよね。



「アカリ……?」

「シバ!」



来てくれた。
ちゃんと。
会いたくて会いたくてたまらなかった人が今そこにいる。
早くそばに行きたくて私は駆け出した。



ツンッ



「ニャッ?!」



いやああああ!
つ、つ、躓いた!
着替えたドレスの裾は踏まない長さのはずなのに、なんでえぇぇぇっ!



ポスン



「大丈夫か?」

「ふみゃあ……ありがとう」



ああ、またシバに助けられちゃった。
たった一日の間に2回も……ううう、恥ずかしい。
18歳になってちょっと素敵になった私で感動的な再会がしたい、なんて夢見てたのに、これじゃドジな子のまんまだよ……。



「姫……クッ……」

「ちょっとぉ、そんなに笑わないでください!」



シバは声こそ殺して出さないように頑張ってるけど、でも体を支えてくれてる腕とかがプルプル震えて絶対心の中で爆笑してる。
でも、さっき式典で感じた余所余所しさが無くて、笑われてるっていうのになんだか自分も可笑しくなってきちゃった。



「……コレ」

「あ!持っててくれてたんだ。私も、ほら」



笑いが収まった頃、シバが差し出してくれたのは、あの時のイヤリング。
私もその片割れを見せたら、シバはああ、うん、とか頷いてた。



「あんまり驚かないんだね?」

「ん……いや、これでもかなり焦ってるし緊張してる」



そう言って、シバは支えてた私を一人で立たせて自分は跪いた。



「シバ?」

「あの時、オレが言ったこと、どうか忘れてください」

「え?」



忘れろって、何を?
シバの言ったこと……って私に恋してるとか好きって言ってたこと?
どうして……?
あ……そっか……そうだよね……。



「……2年も前の話だもんね……シバの気持ちはもう……」

「姫……?」

「でも、私は、ずっと変わらなかったのにっ……うっ……」

「あ……な、泣くな!そうじゃないんだ」



ぺタッと座り込んでポロポロ泣き出してしまった私の頭を「違うんだ」と言いながらそっと撫でてくれる。
あの時と同じ大きくて温かくて安心できる手。
その手の温もりに少し落ち着いて、目の前の志波を見て「何が違うの?」と聞いてみた。



「あの時は、あなたを姫だと思わず気持ちを打ち明けてしまった。だけど、それじゃ、あなたにちゃんと伝えたことにならない、だろ?」

「あ……」

「だから、あの時、オレが言ったことは一旦忘れてくれないか?」

「えっと……はい」



優しい目で見つめられてポワーッとなってしてしまう。
両手をシバの手に包まれてその温もりにさっきまでの悲しい想像はどっかに飛んでいってしまった。



「姫……オレはあなたと別れてから日に日に小さなアカリが本当に姫だったんじゃねぇかって思うようになった。……どうしてか分からないけど、姫を思い出すとアカリに重なり、アカリを思い出すと姫の笑顔が見えるような気がした」

「私の笑顔……?」

「確かめたくてあの扉の前に何度も行った。……けど、オレはまだ姫を守るための騎士にもなってなかったし、アカリと約束した日にもなってなかった。だからあそこを開ける事ができなかった」

「うん」

「姫とアカリをもう一度守りたいって気持ちが強くなって、もう一度騎士になろうと思えた。あの時小さなアカリに出会っていなかったら、オレは騎士になることをあきらめていた。ありがとう」

「私は、何も……」

「姫…………………好きだ」

「シバ……」



や、やだ。
嬉しいのに涙があふれてきちゃった。
止まらない。



「私も……私も、好き!」



言いながらシバに飛びついてキスしちゃった。
跪いてたシバは後ろによろけて尻餅ついちゃったけど、私をしっかりと抱きとめてくれた。
私がキュッと抱きつく腕に力を入れたら、シバもギュッと抱きしめてくれた。



「シバ、ずっと私を守ってね」

「ああ、ずっと傍にいる…………姫」

「ん?」



呼ばれて上を向いたら今度はシバがキスしてくれた。
ふんわりした優しいキスは、これから来る暖かい季節のお日様の味がした。





(おわり)







(あとがき)
2年経ってもそのままなのがアカリ姫のいい所。
変わんなくていい、おまえはそのままで。
ってシバも言ってるよね。

3月2日は卒業式で告白エンディング。
これでクリアできたかなぁ?

身分の違いは?なんて疑問はこの際ほっときましょう。
きっとどうにかなっちゃうんです。
だってこれはおとぎ話だから。



(2009.3.2)





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