王様ゲーム☆



「オレ様が王様だ!」

花見で大勢で集まってすること
って言ったらやっぱこれだよな。



「オマエら、王様をうやまえよ〜!
 ひざまずくのだ!ハハハ」

「あー、もう針谷うるさい!
 なんでもいいから早く命令出してよ。
 進まないじゃん」

「うっせーよ!みゆき!
 今考えてんだっつーの!
 おとなしく待ってやがれ!」

いちいち突っ込むなっつーの。
だいたい女のくせにせっかちなんだよ。

ブツブツ言ってたら
ギンッとみゆきににらまれた。
クッソー、おぼえてろ。



「えーと、んじゃ、3番と5番のヤツ、今から1週間、オレ様をハリー様と呼べ。」

「「いやだ」」

って即答かよ?!
っつかみゆきと志波か。
コイツらマジでムカつく。



「ポリシーに反するからいやだ。
 友達は苗字か名前を呼び捨て。
 あだ名は無し」

「なんだそりゃ?」

「でも、まあ、ゲームだし、
 百歩譲って名前で呼んであげるよ。
 コウノシン。
 様は無し」

「はぁ?」

「コウノシンコウノシン…うーん、長くて面倒だなあ。コウでいいか」

「オマエ…」

「コウコウコウ…
 慣れるまで呼び続けないとなぁ…
 コウコウコウ…コウコウコウ…コケッコッコウ!
 あれ?ぴったり!!」

「ふざけんなっ!」

「はるひ〜、コウって呼んで大丈夫?」

「って無視かよっ!!」

「うち?うちは別にかまへんけど…」



そう言った西本の視線の先。
んー?
ははーん、志波のヤロウ、分かりやす過ぎだっつーの。
おもしれー!

いっちょからかってやるか。



「おい、みゆき」
「なーに?コウ」
「なあ、みゆき」
「だからなに?コウ」



ハハハ!志波のあの顔!!
こめかみピクピクしてやがんの!!

うおっ!
志波のヤツ、オレがニヤニヤ笑ってるのに気付いたな。
やんのかぁ?!


「…ハリー様」

「うっ…!志波、こえーよ、それ」

「ハリー様ハリー様ハリー様…」

「ストップ!ストーーーーップ!!」

「王様の命令なんだろ?」

「さっきのは無しだ。みゆきが従わねぇからな。
 今次のを考えるから待ってろ!」



みゆきと志波か…



よーし。
こいつらがぜってぇ出来ないことにしてやる!
んで罰金没収だ!

「よし。決まったぜ」

「なによ?」
「なんだ」

「今から−」

「「今から」」

「卒業まで−」

「「卒業まで?」」

「お互いを名前で呼べ!!」

「ええ?!」
「なっ…!!」



ハハハ!焦ってる焦ってる!



「なんだよ、みゆき!
 オレ様を名前で呼べるんだからヨユーだろーが?!」

「えーっと、それとこれとはなんていうか…」



「志波ぁ!人が名前呼んでんのが気に食わないんなら、
 てめぇも呼べばいいだろうが?」

「…っ!」



ざまーみろ!



「王様の命令にそむいたら罰金だかんな!ハハハ!」







「ムリな方に100円」
「て、瑛くん!やめなよ!」
「うちもムリな方に100円」
「私もムリな方に100円」
「はるひちゃんに結花ちゃんまで…じゃあ私も」
「どっちだよ?」
「瑛くんたちと同じで」

「ボクもボクも〜ムリやと思う〜。はい100円」
「なんだい、あんた達…まあ澤木はともかく志波がムリだろうね。100円」
「うふふ竜子ったら厳しいんだから。でもそうよね。はい100円」

「君たち、賭け事なんてして良いと思っているのか?」
「そうです。氷上君の言うとおりです!」
「あら、ちょびちゃん、決められないの?」
「千代美です。決められないんじゃありません」
「そう。じゃあ、どっちだと思う?」
「それはもちろんムリ…ってその手には乗りませんよ!」
「はいはい。ちょびちゃんもムリな方に100円ね」
「水島さん!うー…仕方ありません。千代美ですけど」
「小野田君…、僕だけ参加しないというのは民主主義に反するから仕方あるまい。ムリな方に100円だ」

「全員ムリな方に賭けたら賭けになんねーだろっ!」
「じゃあハリーは呼べる方に賭けるんや?」
「んなわけあるかっ!ムリに決まってんだろ!!ほらよ100円!」



やいのやいのと盛り上がっている背後で
みゆきがユラーッと立ち上がった。



「ちょっとみんな…」

「わぁっ!いきなり後に立つなっ!ビックリすんだろーが!」

「私、負けないっっっ」

両手で握りこぶしを作って
胸の前でムンッと気合ポーズ…
ってどんだけ負けず嫌いだよっ。




「私と志波が名前で呼べたら、それ、私たちが総取りでいいんだよね?」

「うふふ、良いわよね?みんな」

「密ちゃん、絶対ムリだって思ってるのね…」

「呼ぶ、絶対、呼ぶ」

「みゆきちゃん、がんばれ〜」

「ばかクリス、応援したらダメだろう?」

「瑛クン、ばかって言う方がばかなんやで?」

「外野!うるさい!」

「「はいっ、すみません!」」



やべぇ、みゆきがマジになってる…
いや、まあ、ぜってぇ志波がムリだから大丈夫か。



「か…」

「「「お?」」」

「か…」

「「「おお?」」」

「…かつみ!!」
「…っ!!」

「「「おおおー!!!」」

パチパチパチパチ

「すごい!みゆき呼びよった!でも志波やんびびっとるで」

「志波クンも負けるなー!」

「ばかクリス、応援するなって言ってるだろ!」



「勝己!あんなに言われて腹立たないの?」

「澤木…」

「違う!み…みゆ…ゴニョゴニョ…
 うー…負けるの悔しくないの!」

「別に、これで負けても…」

「うー………
 そうだ!勝己!
 あれ総取りしたら二人でケーキ食べに行けるよ!」

「…二人でケーキ」

「そうだよ、ケーキ。アナスタシアの新作!」

「新作………」



「ふー…」

「おー志波クンが気合いれとるぅ」

「頑張れ、勝己!」

ゴクリ
全員の目が志波に集中。

「…」

全員が固唾を呑んで静かに見守る。
口が動いてるみてぇだが…聞こえねぇ。

「…」

全然聞こえねぇ。
金魚みてぇに口パクパクしてんのが笑える。

その時みゆきが動いた。
志波の前にひざまずき
志波の手を両手で握って
「勝己、がんばって、ね」とか
お願いポーズをしやがった。

それを正面から受け止めた志波のヤツは
一気に気合が入ってついに…



「みゆき………」

「「「わあああぁぁぁぁ!!!!」」」

「呼んだ!志波やんが!」
「志波クン、ナイス!」
「あーもーバカが増えた」
「瑛くんってば…。みゆきちゃんおめでとう!」
「早速真咲先輩に報告しないと」
「志波君の勇気ある行動には感服した」
「本当に素敵でした」
「見直したよ、志波」
「うふふ、みゆきちゃん、良かったわねぇ」



だーっ!マジで呼ぶとは思わなかった。
くっそー!



「おい!とりあえず賭けはオマエらの勝ちかもしんねぇけどな、
 一度でも苗字に戻ったらそれ全部返してもらうからな!
 分かったか!」

「大丈夫だよ。
 私はもう慣れちゃったし。
 ね、勝己」

「ああ…みゆき………」

「志波、オマエ『おい』とか『オマエ』とか言って
 名前呼ばなくなったらそれでも返してもらうからな!」

「しつっこいあぁ、コウは!
 あ、針谷のままでいいんだっけ?
 それとも新鮮だからコウにしとく?」

「ハリーだっつーの!」

「やだよー」





まさか志波がここまでやるとは…。
オレも少し見習っ…じゃねー!

マジでコイツらいつか負かしてやる。
近いうちにニガコクでもやるか。
それまでにみゆきの苦手もチェックしねぇとな。

オレ様が負けていいはずがねぇっ!!!
次はぜってぇオレが勝つ!!





今日のところは耳まで真っ赤な志波に免じてお開きにしてやるよっ!










(あとがき)
名前で呼んでみたかった。
名前で呼んで欲しかった。
そしたらこんなキッカケがあったら
ワイワイ楽しいかなぁと思って
こんな話になってしまいました。
(2008.8.16拍手掲載)




お花見の時期にあわせて
SS部屋へ再録してみました。
(2009.03.21)






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Photo:おしゃれ探偵