誰もいない教室で |
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「では皆さん、また明日。部活の人は頑張って下さい!」 「若ちゃん、さようなら!」 「バイバーイ、また明日!」 「はぁ………………」 今日も話できなかった。 目を合わせる事すらできなかった。 日曜日に一緒に出掛けて、 嬉しさのあまりバカな事言って、 志波を怒らせて。 志波は一人で先に帰ってしまって すぐに電話くれて謝ってくれたけど 悪いのは絶対私で………。 月曜日から気まずい空気がずっと流れてる。 (部活一緒に行こう?) (終わったら一緒に帰ろう!) そんな一言を月曜日からずーっと言えずに抱え込んでいる。 志波の席は窓側の一番後ろ。 私の席は廊下側の一番後ろ。 もうすぐ私の後ろを通って教室から出てってしまう。 今日こそ話しかけないと………。 机の上の鞄を握ってジッと待つ。 窓側からこっちに向かってくる足音。 ギュッと鞄を掴む。 話しかけないと……… 話……… そのまま廊下へ出て遠ざかる足音を聞きながら、 椅子から立ち上がる事も振り返る事も出来ず、 ただ鞄を握り締めて動けなかった。 情けない。 意気地無し。 根性無し。 (もうみんな帰っちゃった) (私も部活行かなきゃ) でも今行ったら部室の前で顔合わせちゃうかもしれない。 野球部がグランドに出るまで待とうかな………。 窓側の一番後ろ。 ちょっとだけ、座っていい? ここからならグランドがよく見える。 机の主を思いながらその表面をなでてみる。 好きって自覚してからデートに誘えるまで3ヶ月以上かかったっけ。 志波はデートとは思ってないかもしれないけど。 初めて二人で出掛けた時はすごく楽しくて、 また一緒に行ってもいいって言われたから、 また誘って………。 こんなに気まずくなっちゃったのは初めて。 前みたいに顔見て普通に喋って笑いあいたい。 好きなのにつらいよ。 「あ………」 「え?」 今思ってた人が入口のところに立ってる。 部活行ったんじゃなかったの? ああっ、私、志波の席に座ってたんだっけ! どかなきゃ! ガタガタと慌てて立ち上がって 窓際に張り付いて 「ご、ごめん。あの、ちょっと外見てて………忘れ物?」 「ああ………」 机の中からプリントを1枚引っ張り出して、 何も言わずにまた背中を向けて、 教室の出口へと歩いて行ってしまう志波。 やっぱり怒ってるんだ。 私とは話したくないんだ。 (うっ………) ダメ、今泣いたら、聞こえちゃう……… 「ちっ………」 ほら、怒ってる。 出口の前で立ち止まっちゃった。 「………なにしてんだ、オレはっ………」 志波が何かつぶやいた。 よく聞こえないけど何か怒ってる。 くるっと振り向いた志波はやっぱり怖い顔………じゃない? 困ったような傷ついたような子供のような顔。 「悪かった………」 「え?」 「電話で謝ったぐらいじゃダメだって分かってた」 「謝るって………」 「おまえを置いて先に帰るなんて、オレは男じゃねぇ………悪かった」 「だってあれは私が」 「待て、言うな」 「でも」 「謝るキッカケつかめなくて………けど、気まずいのはもう耐えられねぇんだ」 志波はバカだ。 私の方が悪くて 志波が怒るのが当然なのに なんでそんなに優しいの? 「わ、私のほ…こそ………ごめん…さい………」 「おまえはなにも気にするなって電話で言ったろ?」 「でもっ………怒ってるって思ってた………うぅっ………」 「もう泣くな………な?」 戻ってきてくれた。 私に話しかけてくれる声が好き。 私を閉じ込めてくれる腕が好き。 優しく頭をなでてくれる手が好き。 私を見てくれる目が好き。 大好き。 「顔、見せろ」 「泣いて変だからダメ」 「3日もまともに見てない」 「今はダメ」 「今見たい」 わがまま言う志波が子供みたいになっててカワイイ。 涙引っ込んた。 クスクス笑ったら今度は拗ねた。 「なに笑ってる………」 「だってなんか子供みたい」 「こっち見ろ」 「やーだ」 「………っ」 反抗してたらあごをつかまれて顔を上げさせられちゃった。 「やっと見れた………」 「やだって言ったのに………」 ああ、でも、私も志波の顔ちゃんと見るの久し振り。 やっぱり好きだなぁ、志波のこと。 仲直りできて良かった。 ホント良かった。 嬉しくって、また涙出ちゃいそう……… 志波もホッとしたような顔してる。 でも泣きそうな私を見てまた困った顔。 その顔が近づいてきて……… 「いいか?」 答える間も与えてくれないくせに聞くなんてずるい。 私の唇に志波の唇が触れて 少しだけ押し付けられるような感触のあと すぐに離れていった。 って! び、びっくりした! ここ学校! ここ教室! 誰かに見られたら………! キョロキョロと周りを慌てて見てしまった。 「クッ………誰もいない、だろ?」 「う、うん、でも………」 「じゃあ、次は誰もいないところで、な」 「え?」 「今度の日曜日……空いてるか?」 「うん」 「家に来ないか?」 「ええ?!」 「そんな身構えるなって。何も取って食うわけじゃない」 「ホントに?………なら、行く」 「多分な」 「えええ?!」 「ククッ………冗談だ」 わけが分からない。 どこから本当でどこから冗談なんだか………。 でも、またデートの約束できた。 これで週末までまた元気に過ごせる。 「やべぇ………部活、始まってる………」 「ああ!ホントだ!うちもだ!」 「急ぐぞ!」 「うん!」 さっき志波が一人で出て行った教室。 今度は二人でダッシュで出て行く。 二人で。 一緒に。 (あとがき) 11,111打ありがとうございます! 憧れるファーストキスのシチュエーションランキングをお題にしちゃいました。 ちなみに6位から10位は以下のとおり。 6.車の中で 7.自分・相手の部屋で 8.公園のベンチで 9.海で夕陽を見ながら 10.学校の帰り道で 女性・男性によっても順位が違うみたいです。 えっと、志波と主人公のキスがファーストキスかどうかは未設定。 ご想像にお任せ〜ということで。 「取って食うくせに」という突っ込みは拍手メッセージにて受け付けますよ〜。 目次へ戻る Photo:So-ra様 |