夜景を眺めながら |
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冬休みに入って最初の日曜日。 ショッピングモールに誘われた。 オレも冬の服を買い足したかったからちょうどいいと思った。 お袋がたまに勝手に買ってくる服もそれなりに着れるが フード付きの真っ白の上着なんて、 少しずれているような気がする。 まあオレにセンスがあるかというと 多分それはノーで 結局こうして着ているわけだが………。 女の服の流行りなんてよく分からないが 自分好みの服を着て隣を歩くアイツを想像したら 選ぶのも楽しくなると思った。 だが来てみて「しまった」と思った。 年末のショッピングモールの人の多さは普段の比じゃない。 さっきからアイツが色んなヤツにぶつかられている。 そのたんびにぶつかった相手をにらんで謝らせて……… 「志波、顔、怖いよ?」 「………生まれつきだ」 「にらまれた人たちすごくこわがってたよ?」 「ぶつかるヤツが悪い」 「ぶつかられるぐらい大丈夫だから、ね」 「大丈夫じゃない」 「なんで?私が大丈夫だって言ってるのに」 全然大丈夫じゃない。 特に野郎がぶつかってきた時。 どんな形だろうとコイツに触れるのが許せない。 「もう買い物はいいだろう。帰ろう」 「え!やだよ、まだ帰る時間じゃないもん」 「じゃ、とにかくここを出よう」 これ以上この人ごみの中にいたらオレの怒りは爆発するぞ。 「やだ」 「家に帰りたくないならどっか公園でもよればいい」 「やだ。ここがいいの」 「どうして」 「どうしてでも」 コイツの頑固な部分を曲げるのは難しいと知ってる。 だがこの状況でそれはないだろうと言いたくもなる。 オレはおまえの事を考えて言ってるてのに。 なんで分からねぇんだ。 「どうしてもここがいいのか」 「うん」 「じゃあ勝手にしろ。オレは帰る」 「え?!」 志波!と背後で呼ぶ声を振り払ってズンズン歩いた。 アイツといると気持ちに余裕が無くなる。 とてつもなくハイになったり こうしてイライラが止まらなくなったり。 どうしてこうなっちまうんだ。 結局はすぐに後悔して心配するオレがいる。 あそこに一人で残してきて大丈夫だろうか? ナンパとかされていないか? 泣いてねぇか………? (クソッ) あれぐらいのわがままを受け止めてやれない自分に腹が立つ。 オレが守ればいいだけじゃねぇか。 もうショッピングモールの出口だ。 戻るか? どうする………? 「あ………」 「お!よお!勝己!」 「元春………」 面倒なヤツにあっちまった。 いちいちおせっかいなヤツ。 何か突っ込まれる前に退散しねぇと……… 「買物かぁ?一人で?」 「………おまえこそ」 「おれはこれから待ち合わせだ。あ、もしかして、勝己も同じか?」 「今から?もう暗くなるぞ」 「なんだー、違うのか?」 「何が違うんだ?」 「おまえ、ホントに知らねぇのか?」 もと来た道をなるべく急いで戻る。 人が多くて思うように進めねぇ。 元春に教えてもらったこと。 そんなのオレが知ってる方がおかしいだろ。 (頼む、まだいてくれ) なんで直接言わねぇんだ。 言ってくれたらあんな風に怒ったりしなかった。 (いない………そりゃそうか) もう帰っちまったか……… いや、アイツのことだ。 意地になって絶対いるはずだ。 一人でも。 (そうだ、携帯) 繰り返されるだけの呼び出し音。 (ちっ………出ねぇ) 時間がせまってる。 多分そこにいるであろう場所へ移動しながら 何度も発信ボタンを押し続けた。 その場所にたどり着いてもう一度発信ボタンを押す。 (頼む、出てくれ!) 『もしもし』 『ハァ………やっと出たな。今どこだ?』 『なんでいるの?』 『オレが見えるのか?どこだ?』 『………』 周りを見回すがこう人が多いといくらオレでも見つけるのは無理だ。 小さいアイツはどこに埋もれてる? オレが見えてるって事は、オレからも見えるはず。 どこだ? どこにいる? 『さっきはオレが悪かった。だから出てきてくれ』 『………』 『オレが見えるんだろ?どこだ?』 『………』 カウントダウンのアナウンスが聞こえてきた。 『時間になっちまうぞ?一緒に見るんだろ?』 『………置いてかれた』 『悪かった、ホントに』 『………こわかった』 『悪ぃ、いくらでもあやまる、だから』 ツーツーツー……… ダメ…か……… あんな所で一人にしちまったんだ。 怒って当然だよな……… 「10!9!8!」 こんなの一人で見ても……… アイツは思ってたんだろうな。 一緒に見たいって。 「7!6!5!」 ポスン 背中に感じる小さな感触。 「志波のバカ………」 「悪かった、本当に………」 「4!3!2!1!0!!!」 薄暗かった周りが夢みたいに明るくなる。 星空に投げ出されたような感覚。 ギャラリーからの感嘆の声や拍手。 背中にいたアイツを前に回して 今度はオレが後から抱きしめる。 「きれいだね」 「だな」 「一緒に見たかったの」 「ああ」 「それなのに行っちゃうんだもん」 悪かったともう一度伝えて抱きしめた手に力をこめた。 何も言わないおまえの横顔を後から覗き込む。 許してくれたのか? 「そんなに見たら恥ずかしいよ?」 覗き込んでたオレの方へおまえが顔を向けたから。 光を浴びたその顔が少し微笑んでいたから。 だからその唇にそっと触れてみた。 はばたきショッピングモールでは12月24日から年末までの期間、 イルミネーションシャワーイベントを開催中。 17時半の点灯時には毎日カウントダウンも行っております。 幻想的な光のシャワーをあなたの大切な人とお楽しみください。 (あとがき) 11,111打ありがとうございます! お礼企画第2弾です。 季節外れですみません。 恋人と一緒に見るイルミネーション、ステキですよねぇ。 目次へ戻る Photo:Aqua様 |