満天の星空の下で |
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毎年はばたき山で行われる陸上部の夏合宿。 今年も幾つかの部活が一緒の宿舎で合宿している。 野球部も。 野球グランドと陸上グランドは合宿所から歩いてそれぞれ5分。 別々の場所にあるので学校のように練習風景を覗くことはできない。 でも同じ宿舎に泊まっていると ご飯の時間なんかにその姿を見ることはできる。 それぞれの部活のスケジュールがあるから 姿を見るだけで話はできないんだけど。 でも姿を見れるだけで嬉しくなる私って結構可愛いよね。 合宿の最終日、今日も良い天気で暑かった。 標高が高くて紫外線がきついのか この合宿でいつもより日焼けしてしまった。 日焼けした肌が火照ってしまって 今夜はなかなか寝付けなくて コッソリ裏口から抜け出した。 今日は顧問の先生も皆も疲れてるはず。 ぐっすり寝てるだろうから ちょっとぐらい大丈夫だよね? 氷上に聞いた話を思い出したっていうのもあるんだ。 ペルセウス座流星群。 8月13日がピークらしいけれど 前後数日でも星が流れるのが見えるって言ってた。 特にはばたき山なら周りが暗くてよく見えるって。 合宿所の裏手にある小高い丘。 真っ暗だったけれど懐中電灯片手に登ってみた。 火照った体に山の上のヒンヤリした空気が気持ちいい。 遊歩道になっている細い道を進む。 その終点は周りに木立の無いひらけた場所。 そこまで行って座って空を見上げる。 市内では見られないたくさんの星達。 そういえば、氷上が言ってたな。 星座観察するには寝転がるのが一番って。 確かにずっと上を向いてるのは疲れるし 寝ッ転がってみた。 「きれい………」 プラネタリウムみたいに丸い空が全部見える。 天の川って煙が流れてるみたい。 星がきらめくってこういう事なんだ。 星座は詳しくないけれど 夏の大三角形っていうのは知ってる。 それからカシオペアと北極星。 理科で習ったよなあ、昔。 「あ!流れた!」 寝ッ転がって5分も経っていないのに流れ星発見! 「すごーい!」 願い事とか言っちゃう? 確か流れきる前に3回言えば叶うんだよね。 でも「流れた!」って発見してから 消えちゃうまでは結構時間が短くて なかなか3回は言えない。 うーん、もっと短くしないとだめなのかな? しばらくそうやって流れ星探しと 願い事に気をとられてて 近づいてくる足音に気付くのが遅れた。 (やばいっ!見回り?!) ガバッと起き上がって座って身構えてみるものの逃げ場は無い。 合宿所からは一本道だったし、 これ以上奥は行けないし……… オロオロしてたら結局その人の懐中電灯に照らされて 追い詰められた犯人状態の私。 「おまえ………」 「ごごごごめんなさい!すぐ戻ります!なかなか寝付けなくて!!!」 って、ちょっと待って、今の声って……… 「あ、あれ?もしかして志波?」 「ああ」 「はぁぁぁぁ………焦ったぁ、見回りの先生かと思ったよ………」 「おまえ、一人か?」 「うん、一人」 「こんな時間に………何してた?」 「星見てたの。志波は?」 「………散歩」 「散歩?」 「ああ。星、おもしろいのか?」 「うん。氷上に教えてもらったんだけどね、流れ星が見えるんだよ」 「へぇ………」 「あのね、こうやって寝ッ転がるとすごいんだよ!」 「っ………」 何息つまらせてるんだろう?変なの。 それにさっきからなんか不機嫌だし。 別に志波に怒られる事はしてないもん、私。 「あ、ほらほら!また流れた!」 「本当だ………」 「志波も寝ッ転がってみなよ。すごいから」 「………じゃあ」 渋々寝転がる志波。 何をためらってるのか知らないけど これを見逃す手は無いと思う。 滅多に見られるもんじゃない。 天然のプラネタリウムに 流星群のおまけつき。 「………すごいな」 「でしょー!」 その後はしばらく喋らずに ただ並んで寝転がって星を見てた。 星を見ていたんだけど あまりにも静かだから 自分の心臓の音が聞こえてきた。 志波に聞こえちゃうんじゃないかな? ドキドキしすぎて胸がだんだん苦しくなってきた。 志波が寝ている右側だけが熱くなってきた。 そっと横を見たら 志波もちょうどこっちを見たのか 星明りの中で目が合った。 「そろそろ戻るか」 「え?」 なんで? 志波は飽きちゃった? 星なんてつまらない? 私ともっと一緒にいたいって思わないの? 二人っきりでドキドキしてたのは私だけなの? 「私、まだいる。志波は先に帰っていいよ」 ロマンチックだなーって このままずっと一緒に居たいなーって 私一人だけでドキドキしてたなんて なんだかずるい! 現実的に考えれば 今は合宿中で コッソリ抜け出してきているわけで 無理だって分かるけど いきなり言われた言葉が「戻るか」って それじゃ悲しくなるよ。 「フーッ………オレがどれだけ………」 志波のため息とよく聞こえないつぶやきはもう無視! 絶対一緒に帰らない!! 上半身を起こして私を見下ろす志波。 暗いからその表情までは見えないけど きっとあきれてるんだろう。 だって志波が私の気持ちを分かってくれないのが悪いんだもん。 志波の方を見ないで星空だけジッと見てた。 だけど星は急に黒い影に覆われて見えなくなって。 その影は志波で。 「これ以上ここにいるってんなら、オレにも考えがある」 どんどん志波の顔が近づいてくる。 って………え?えええっ?! 「やっちょっ待っ………んんっ!」 焦って出かけた言葉は志波の唇にふさがれちゃった。 少しだけ離れてはまた降りてくるキス。 どうしていいか分からなくて 動くことも出来なくて 唇も目もギュッと閉じて ジッとしてた。 志波の大きな熱い手が 髪や頬、顎、うなじを通ると 触れられた部分が熱くなっていく。 どれ位の時間そうしていたのか分からない。 すごく短い時間だったのかもしれない。 志波は最後に私の唇をペロッと舐めて離れていった。 「オレの考えの続き、聞きたいか?」 私に覆いかぶさった体勢のまま 私の反応を確かめるように覗き込んでいる志波。 星明りだけしかない闇の中なのに 志波の目は青く光っているように見えて ………ちょっと、怖い。 「………き、聞かなくていい、デス」 「そうか、そりゃ残念だ」 フッと笑って体を起こした時に見えた表情は いつもの冗談を言ってる志波に戻っていた。 ちょっとホッとしちゃった。 「戻るぞ」 「考えって何?」って聞いてたらどうなっちゃったんだろ? なんとなく想像してみるけど、 外だし、そこまではいくらなんでも、ええっと……… 「ほら、手」 「え?」 「暗いから、危ないだろ?」 「うん、ありがと」 寝つけなくてここに来たのに 私、今晩寝れるのかな? 頭の中が沸騰しちゃってる。 (あとがき) 11,111打ありがとうございます! お礼企画第3弾です。 合宿所のある場所を考えて、 昔N県に合宿に行った事を思い出しました。 そこは小さなスキー場のふもとに宿舎がありました。 夜中に皆でスキー場の中腹まで歩いて登り、 流れ星を1時間位眺めたことがあるんです。 ずーっと見てても飽きなかった。 そんな場所をイメージしてみました。 志波の考えの続きはって? 聞いてみたいですか? 目次へ戻る Photo:GraphicShop起源様 |