二人の思い出の場所で |
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「ここ、初めておまえを見た場所だ」 「へぇ」 このヤル気の無い返事。 また何か怒ってるのか? 「フゥ………今度はなんだ?」 「別に。何も。」 何かあるからそんなに不機嫌なんだろう? 「おまえが足つって転んだのもこの辺だったな」 「………あの時はどうも」 9月半ばの日曜、 「森林公園を散歩しよう」とアイツを誘った。 並んで散歩して、 芝生で休憩して、 のんびり過ごして、 そんな穏やかな日曜を過ごしたいと思った。 それなのに、なんなんだ? この険悪なオーラは? 「並木道で毛虫から逃げた時はすごかったな」 「………」 「行ってみるか?」 「絶対行かない」 いつもなら膨れっ面になるのに そう冷徹に返されると冗談も言えない。 「むくれるな」 「むくれてない」 「フゥ………少し休憩するか」 「………」 芝生広場に並んで座っても コイツはオレの方は見ずに草をむしってる。 「何を怒ってるんだ?言ってくれなきゃわかんねぇ」 「………自分で勝手にイライラしてるだけだから」 「言ってくれたら力になれるかもしれねぇだろ?」 「………ムリだと思う」 「なんで?」 「………だって」 「言ってみろ」 アイツの頭に手を乗せて できるだけ優しく声をかけてみる。 「志波が野球部に復帰してがんばってるのは嬉しいんだけど………」 「けど?」 「2学期になってから手紙とか色々もらってるでしょ?」 「あ………」 確かに2学期になってから知らないヤツらに呼び出されることが何回かあった。 いきなり手紙を渡されたり 手作りの菓子を渡されたり ………コイツがそれを気にするというのは それは、つまり……… 「志波が悪いわけでも無いし、 女子の気持ちも分かるし、 でも、なんか知らないけど、私はイライラするのっ」 「それは………」 「ね?志波にはどうにもできないでしょ?」 「そうでも無いぞ」 やきもち………と捉えていいんだろうな。 自分で分かってねぇのか。 草むしりばかりしてこっちを見ないコイツをふわりと包んでみた。 「ふぇっ!な、なにすんの?」 「少し黙ってろ」 包みながら頭をなでたり 髪を梳いたりを繰り返す。 始めは抵抗しようとジタバタしていたコイツも だんだんおとなしくなってきた。 「落ち着いたか?」 コクリと頷くおまえ。 「オレじゃ役に立たないか?」 フルフルと首をふる。 オレの腕の中で。 「いつでもこうしてやるから」 「ん………」 「なぁ………」 「ん?」 こっちを向かせたくて呼びかければ 素直に顔をあげるおまえ。 照れくさそうに見上げる顔がたまらなくなって 風と同じ速さで唇にふれてみた。 「ちょっ………!昼間!公園!」 「誰も気にしてねぇだろ?」 「うううぅぅぅ………」 納得いかないって顔してても 可愛いと思ったんだからしかたねぇ。 「うう………仕返し!コチョコチョー!」 「なんだ、それは?」 「必殺ネコジャラシー!」 「………前にくすぐりは強いって教えたよな?」 「う………でも、耳ならどうっ?!」 「………ああ、少しこそばゆいな」 「うわ、なんかくやしー!」 「じゃ、今度はオレが仕返しな」 「えっ!………それは、ちょっと、遠慮………」 「ほら、ネコジャラシ」 「ひゃあ!や、やめてー、くすぐったい!あはははははー」 身を捩じらせて笑い転げるコイツを見てるのは面白いが 少し………ヤバイ。 「ちょっ、もっ、やめー、苦し!あはははははー!」 これ以上は自分もヤバイからとりあえず自粛。 「はぁぁぁぁぁ………笑いすぎて死ぬかと思った」 笑いすぎで 涙が目尻に滲んで 頬が紅潮していて 唇が潤んでいる。 それすらも、なんというか……… 「可愛いな………」 今日2回目のキスを落とせば 「ま、また!」と焦るおまえ。 「もう1回、仕返しするか?」 「………仕返しの仕返しされるのがやだからしないっ!」 「ククッ………」 「なんか悔しいー!」 あれ位のことでやきもち焼いてくれるおまえが可愛くてたまらない、 なんて言ったらおまえは怒るだろうな。 けど、ずっとそういう気持ちでいて欲しいと思う。 オレもずっと変わらない。 迷ったらまた一緒に来よう。 二人の思い出を増やしに。 (あとがき) 11,111打ありがとうございます! お礼企画第4弾です。 うちの志波と主の思い出の場所と言ったら森林公園なんですよ。 ここ以外有り得ないという設定でスミマセン。 最初の方の会話が分からないという方は 是非本編をご覧になってくださいね! 昼、夕方、夜、と続いたのであえて昼にしてみましたが、 なんだかインパクトに欠ける? 夜の森林公園も考えてみたのですが 暴走しそうなのでそれはまた今度いつか……… 目次へ戻る Photo:フリー写真素材集様 |