デートで行った観覧車の中で



「遊園地に行かない?」と誘われた時は単純にうれしかった。
アイツとならどこに誘われてもうれしい。
二人で出かければアイツの笑顔はオレだけのものだから。



待ち合わせに遅れないよう早く起きた。
気持ちを引き締めるために軽くランニングしてシャワーも浴びた。
だけど昨日はなかなか眠れなくてかなり寝不足。
遠足前日に眠れない小学生と同じレベルだ。



待ち合わせのバス停でアイツの姿を見つけて体温が上がる。
私服のアイツは予想通りスポーティな格好だが、そのスカートは短すぎないか?
かける声が上ずらないように「悪ぃ」というだけで精一杯。



バスの狭い座席に二人並んで座る。
目的地に着く前から頭の中がジェットコースターの気分。



フリーパスを買って
まずはゴーカート。
勝負好きのアイツは本気。
それぞれ一人用のカートに乗ってジュースを賭けた。
アイツの喜ぶ顔が見たいからギリギリの所で花を持たせたら
オレの考えはすっかりばれてしまい逆に怒らせてしまった。
結局ジュースは割り勘。



昼飯はアイツが作ってきてくれた弁当。
早起きして作ってきてくれた、それだけで胸がいっぱいになる。

オレのためにかなり多い量を持ってきてくれた。
重かったはずなのに、
荷物を持ってやるなんて気遣いができず少し落ち込む。

残さず全部食って「美味かった」と言えば、
心の底から嬉しそうなその笑顔にまた体温が上がる。



午後は腹ごなしにホラーハウス。
中の空気はヒンヤリしていたが
隣を歩くアイツを思えば体温は下がることはない。
アイツが怖がってしがみついてくれればと期待もしたが
こういうのは得意らしくキャーキャー喜んでいるから苦笑するしかない。



腹ごなし第2弾はコーヒーカップ。
お互い意地になって回し過ぎて
降りた後はしばらく動けなかった。
回しながらハンドルの向こうのアイツの膝小僧を見ていたことはばれていないか?



その後は、ジェットコースター。
最前列で1回。
最後尾で1回。

コースターが最高地点に登る滑車の部分が苦手なオレ。
最高地点から落ちるときに万歳しながら大笑いするアイツ。
それを見てオレも笑う。
笑い過ぎて喉が渇いた。



弁当の礼にアイスをおごった。
オレはソーダ味のシャーベット。
アイツはチョコミント。

時折コーンの外に垂れるアイスを舐めとる姿を見て体温が上がる。

目の毒だと心で念じて自分のアイスに集中する。
集中してバクバク食ったら早く食べ終わっちまって
アイツが隣でペロペロとアイスを食べるのを
ジッと待つしかなくなった。

見ちゃダメだと思うのにその口に見入ってしまう。
パクパクと動く唇。
口の回りについたアイスを舐め取る舌。
これ以上は本当にヤバイ。

心を静めようと空を見上げれば
少しずつオレンジ色に変わりつつある。



食べ終わった頃を見計らって話しかける。

「次が最後だな。おまえ、何に乗る?」

「………観覧車、乗りたい」

「っ………」

オレが高いところダメだって知ってたはずだよな?
今日はいい気分で一日が終わろうとしていたのに、最後にそれか?
なんかの罰ゲームか?

「あ、ごめん、志波がダメなの知ってるんだけど………」

「だったら」

「あの、隣に座って、手もつないでてあげるから。ダメ?」

「っ………」

意地悪で言ってる顔じゃない………
そんな切羽つまったような顔で頼まれたら嫌とは言えない。

「わかった………行こう」



下まで来て、ソレを見上げれば、
やはり大きくて高さもあって………



「志波、手、つなぐ?」

「いや、まだ、大丈夫だ」



15分………15分だけ我慢すればいいことだ。
コイツがそれで喜ぶなら。



夕暮れ時、家族連れは少なく、カップルがやけに多い。
これを楽しむことが出来るカップルが羨ましい。



広いゴンドラに2人で乗り込む。
約束どおり隣に座ってくれるアイツ。

オレが右側。
アイツは左側。
いつもの位置。
歩く時も
座る時も
この並び方が定着していた。



オレの左手をアイツが右手で握る。
小さな指をオレの指に絡めてきたから心臓がはねた。

その手が置かれた先はアイツの膝の上。
………というよりは、もう少し上の腿あたり。
ミニスカートだから直に肌の感触が伝わる。

絡んだアイツの右手の指。
更に上からかぶせたアイツの左手。
その下にしっとりと吸い付くような肌。



観覧車が上へじわじわと登るにつれ、
いつもは具合の悪くなるオレだが、
そんなことより今は手に意識が集中しちまう。

視界に景色が入ってくるからなるべく目を閉じていたいが
手がある場所をチラチラと見てしまう。

オレを具合が悪いと勘違いしてるのか
「大丈夫だよ」と時折キュッと絡ませた指をに力を入れるから
余計にそこに意識が集まっていく。



そういえばコイツもあまり騒がない。
ずっと前に針谷たちと来た時は
「川が見える!」「海が見える!」「見てみなよ!」
とか騒いでた。

思い切って視線を上にずらしてアイツの顔を見てみれば
アイツも外を見ずに握った手をジッと見ていた。

アイツの横顔や耳の辺りが赤く染まっている。
夕陽のせい………だけではなさそうだ。



「外、見なくていいのか?」

「うん………」

「どうした?具合悪いのか?」

「ううん………」

「やけに静かだな」

「………」

「今、何、考えてる?」

「ん…と……志波の手はおっきいなー、とか
 なんか私より熱いなー、とか………」

「………とか、後は?」

「後は………言えない」

「どうして?」

「それは、その、は、はずかし………から」

「………はずかしいことって………なんだ?」



つい困らせたくなって聞いてしまった。
それにしても「はずかしい」っておまえ………



「言えないの!」と言って急に両手を振り上げてきたから
「急に離すな!」と、とっさにその両手をキャッチした。
………この体勢は………ヤバイ。

さっきからずっと真っ赤のままのコイツの顔。
まともに正面から見てみたら
目は潤んでるし
唇が………



たまらなくなって自分の唇を押し付けた。



さっき食べたチョコミントの味がする。



つかんでいる両手や
アイツの唇が
震えている。

怖い思いをさせたいわけじゃない。

少しだけ、喋れば唇をくすぐる位の近さまで離れて
「好きだ」と伝えて
また唇を塞いだ。



アイツの両手からだんだんと力が抜けてきたから
その手はそっと離して、
キスしながら背中を抱きしめた。

抱きしめながら
髪、首、背中を撫でる。
くすぐったいのかそうじゃないのか
手を滑らすたびに喉からくぐもった声を出すアイツ。

角度を変えて何度も何度も
アイツの唇に自分のそれを重ねた。











「観覧車………おまえとなら大丈夫だな」

「んっと、それは、あのー………」

「また乗ろうな」

「うーん………でも、他の人に見られちゃったかも」

「見るヤツが損するだけだ」

「んー………でも、やっぱり恥ずかしいっ」

「気にするな、それより、おまえ、なんで観覧車乗りたかったんだ?」

「うん、あのね−−−」



観覧車を降りる時からずっとつないだままの手。

また二人でどこか行こう。
笑顔だけでなく
この手も
その唇も
オレのものだと確認したいから。















(あとがき)
11,111打ありがとうございます!

お礼企画第5弾です。
これにて終了。

主ちゃんはお友達(たぶん、はるひ)に
『観覧車の一番頂上でキスすると永遠に別れない』
ってジンクスを聞いてどうしても乗りたかったらしいです。

キスしたい欲望はこれで満たされたので
(それ以上の欲はさておいて)
なかなか関係が発展しない本編に戻ります。

ありがとうございました!





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Photo:おしゃれ探偵