雷 |
ピカッ…ドーンゴロゴロゴロゴロ…………… 「きゃーーー!!!」 「おい、大丈夫か?」 「え?なにが?」 「だって、オマエ、今………」 ピカピカピカッ… 「わーーーーーー!!!」 「おい、怖いならこっちこい」 「ええ?」 さっきから雷が光ったり落ちたりするたびに きゃーとかわーとか言ってるわりには オレのところにこないアイツ。 いったいなにやってんだ? もうすぐ夏も終わりという時期に アイツに誘われてやってきた森林公園。 突然やってきた夕立。 屋根のある東屋へ駆け込み 雨をしのいでいたのだが…。 「ほら、こいって」 「ちょっ!なにすんのー!ブーブー!!」 強引に腕の中に閉じ込めてみたら 文句言われた。 なんなんだ?いったい? 「ちょっとー、雷見たいんだから離してー!」 「は?」 「だーかーらー、雷、見たいの」 「………オマエ、怖くてキャーキャー言ってたんじゃ?」 「そんなわけないじゃん!こんな面白いのに!」 「ハァ………オマエ少しぐらい怖がれよ」 かわいげのない、って思わずつぶやいちまったのがまずかった。 「………かわいげのある人がいいなら 私となんて遊びにこなくていいよ。 かわいいこなら学校にもいっぱいいるもんね」 すねちまった。 そうやってすねて オレを押しのけようと腕を突っぱって にらむ目や とがった唇が かわいいんだよな………。 なんて見とれるオレは相当オマエにはまってるのに オマエにはこれっぽっちも伝わっていないのか、オレの気持ち。 そりゃ、好きだと言ったことはないし言われたこともない。 だが、何回か二人で出かけて、 手つないだり、 腕組んだり、 それなりに近づいている って思ってたのはオレだけ、か? 「私も別の人と遊びに行くから。 真咲先輩ならビックリものは一緒に楽しんでくれるだろーなー。 あ、逆を突いて針谷を怖がらせるってのも面白そうかも!」 ………最悪だ。 オレの気持ちに気がつかないならまだしも、 それを言うか、今、この二人しかいない場所で。 きっとコイツはオレのことを 今口にした奴等と同じぐらいのレベルでしか 見ていないってことだろう。 アイツを閉じ込めていた手を緩めて オレは一人でベンチに座った。 最近少し良い雰囲気になって 期待感が膨らんでいたから 余計にショックだった。 「そうするといい………。 オレには楽しませたり面白がらせたりできねぇ……」 落ち込んで顔をあげることも アイツの顔を見ることもできない。 足元だけが見える。 黙ってオレを見て立ってるみたいだ。 なんとか言ったらどうなんだ? オマエの一言でオレはこんなにショックを受けてるのに。 「志波……」 謝る気になったのか? 「私……」 ? なかなか喋り始めないから気になって 顔を上げてみたら泣いてるアイツの顔が飛び込んできた。 「な…おいっ……」 「………私、絶対あやまらないからねっ!」 「ハァ?!」 「だって、だって志波が先に意地悪言ったんだもん!」 ………ああ、そうだった。 こいつの負けず嫌いと言ったら どんな嵐が来てもひっくり返らないんだった。 「きゃー雷こわいー、とか いやーお化け屋敷なんてもう絶対こないー、とか スケート滑れないから手つないでー、とか そーいう人がいいんでしょっ。 私、そーいうのと違うからっ、 ホントぜんぜんかわいくないからっ!」 「ハァ………」 「ほら、ため息なんかついて、もういいんだもん!」 「………まいった、オレが悪かった、あやまる」 座ったままアイツの手をとってあやまる。 こっちがあやまらないと一生でも口聞かない、そういうヤツだ、コイツは。 「ホントに悪いと思ってる?」 「ああ」 泣くほど怒るようなことだったのかは疑問だが 泣かれると弱い。 泣く顔も 怒った膨れっ面も どれもかわいいと思ってるなんて さすがに言えないが………。 「………じゃ、私もあやまる、ごめんなさい」 言いながらオレの隣にぴったり座ってきたオマエ。 雨で濡れた腕が触れる。 「私、志波と一緒にいるのが一番楽しくて面白いから」 「………オレは元春や針谷みたいに話できねぇぞ」 「うん、それでも、一番だから、ホントに」 「そうか………」 「うん………」 手をつなげば きゅっと握り返してくれる。 それだけで 気持ちが伝わってくる。 その小さな手のぬくもりと オレの手のひらの熱が 繋いだ部分で溶けて交わっていく。 「志波は?」 「ん?」 「その、私といて、どう?」 「………オマエだけ、一緒に出かけたりするのは」 「そうなの?」 「ああ………」 「でも………かわいくないよ、私」 「………かわいい、から……ちゃんと」 「だって、さっき………」 「さっきは………その………」 「?」 「せっかくここで二人だけだから、その、仲良し、っていうか、もう少し、その………」 意味が通じたのか耳まで赤くなったオマエ。 オレもつられて顔が熱くなってきた。 「なに言ってんだ、オレは………」 スルッと繋いだ手を離すオマエ。 やっぱり、ダメか。 そうしたいのはオレだけか。 そうだよな。 こういう感情は きっと男だけが持つものなんだろうな。 オレから逃げるように オマエはスッと立ち上がって。 だが、突然クルッと振り向いたと思ったら オレの首に抱きついて………! 「お、おいっ?!」 「な、仲良し、だから、ハグ、みたいな?」 「みたいな………って」 「だ、だめ?これじゃ?仲良しじゃない?」 なんでこんなに唐突なんだ、コイツのすることときたら……… 返事する代わりに オマエをギュッと抱き返す。 ビックリして硬直してるみたいだけど しばらく離す気ねぇからな。 「ちょっ!やっぱり恥ずかしいかもっ!」 「誰も見てねぇ………もうちょっと、このまま」 耳元でささやいてやったら くすぐったがりのオマエは ビクッと震えて 硬直して それ以上文句言わなくなった。 「そのまま雷でも見てろ」 「か、かみなり、そーだった、そうしよっと」 しどろもどろの返事がおかしくて 口元がニヤついちまう。 さっきよりひどくなっている雷と雨。 なるべく長く続いてくれと祈る。 アイツの首元に顔を埋めて オマエの体温を感じて……。 オマエと一緒なら こんな天気でも悪くないな。 (あとがき) 連日の雨模様と凄まじい雷の体験から こんなん出てきました。 私、結構雷大丈夫なんです。 (2008.09.02拍手掲載) 目次へ戻る |