キスキススキ



『キス、それは化学反応の問題』



化学準備室のパソコン画面に表示されたニュースの見出し。
それを私に見せながら若王子先生は満足そうに一人頷いている。
その記事は、キスに関する研究結果発表のもので、キスをすると一連の複雑な化学反応が起き、愛のホルモンが増加するとか、キスは脳の色んなところを刺激する化学反応を引き起こすとか、そんなことが書いてあった。



「以前、僕が恋愛について『脳内物質の作用だ』と言ったものと酷似しています。この記事、時任先生はどう思います?」

「はぁ、なんというか、世界中の研究機関がこういう研究ばかりしていたら、世界が平和になって戦争なんか無くなりそうですよね」

「ああ!なるほど、そうですね…………こういう研究だったら、僕も続けていただろうか……」

「え?何か仰いましたか?」

「いえ、人を幸せにする研究が増えるといいですね、本当に」



ふふっ、なんだか楽しそうな瞳の若王子先生。
日本に戻ってきて教師になってから、もう5年以上は経つと言っていた。
でも、興味を持った事は自分で答えを導き出すまで追求しようとする、そういう事が大好きで、元来研究者気質なんだろうな。
だから、もしかすると……



「……若王子先生、もしかして、そういう研究所に行ってみたいってちょっと思ってます?」

「え?」

「こういう事を話すとき、すごくキラキラしてますよ、先生って」

「そうですね。でも、それは、話す相手がいるからです。そうでなければ、全然楽しくなんかない」

「え?」

「分からない?」

「はい、すみません」

「僕の研究はココでしかできないって事です。試してみます?」

「何をですか?」



さっきよりもっと楽しそうにニコニコしてる若王子先生が、研究ですって言いながら私をフンワリ抱きしめた。
先生に抱きしめられるのは優しい温かいものに包まれているみたいでいつでも心地良い。
とっても幸せな感情が心の底からわいてくる。

あれ?
でもこれが研究と何の関係があるんだろう?



「どうですか?化学反応の様子は?」

「え?えええっと……」



包まれている心地よさと、研究についての話がつながらないから、なんて答えて良いか分からなくてオロオロしてしまった。
そんな私を見てクスクスと楽しそうに笑い声をあげる若王子先生。
まだ分からないようだから、と今度は額にキスを落とされた。



「ほら、そろそろ、実証されそうですよ?」

「あの……」



額へキス
瞼へキス
頬へキス
唇にも……



学校の中だって事もいつの間にか忘れ、温かい腕の中と温かいキスにフワフワなってきて……。
さっき二人で食べたバレンタインのチョコの味なのか、今日のキスはとっても甘い。
好きって気持ちがいつもよりもドンドン大きくなっていくみたい。



「先生、好き」

「僕も好きですよ」



またフンワリと抱きしめられながら若王子先生が耳元で囁いてくれた。



「分かったでしょう?僕の研究はココでしか……君の傍でしか進められないんです。だからどこにも行ったりしません。ずっと君の傍にいます」







(あとがき)
2月はバレンタインデーにあわせて「Bitter & Sweet月間」です。
突如出てきた若王子先生です。
mixiニュースでそんな見出しを見つけて「これ若ちゃん?!」って思ったんですよ。
Sweet濃い目な内容ですが、「研究所」って言葉自体がBitter用語だと思ってますので許して!!

(2009.2.15)





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Photo : おしゃれ探偵