天使の梯子」なぎ様より2009年バレンタインデーアンケートで頂いてきました。
「ココロノドア」の志波視点、デイジー視点です。





+++ココロノドア+++
=志波視点=
どうして、あいつらは気づかないんだろう。
オレですら気づいてる、あいつらの気持ちに。
部活が終わったあとの帰り道。
マネージャーのコイツを家まで送り届けるのがオレの日課。
オレが野球部に復帰してからずっと続いてる。
ただ、週に2日だけオレが送らない日があった。
マネージャーのバイトの日だ。
まさか元春と同じ花屋でバイトをするとは思ってなかったな。
そしてアイツが・・・元春に惚れるってことも。
オレはずっとアイツを見ていたから、アイツの些細な変化にもすぐに気づいた。
元春とオレが幼馴染みだって知ってからは、よく元春のことが話題に出た。
そのうち元春もマネージャーのことが気になってるって気づいて。
オレの入り込む余地はないんだって、妙に簡単に納得したような気がする。
元春が踏み込めない理由。
オレには何となくわかってる。
オレが、マネージャーを好きだって気づいたから。
元春は自分の気持ちを素直に伝えられないんだろう。
さっさとくっついてくれりゃあいいのに。
うだうだ悩んでる元春の背中に、どれだけ蹴りを入れたくなったことか。
同じように、マネージャーの背中も押してやりたくなった。
折りしも今はバレンタインの季節。
他の女に便乗して、おまえもさっさと告白しちまえ。
おまえからアクション起こせば、元春だってオレに遠慮はしないだろ。




「おはよう、志波くん!」
朝っぱらから元気のいい声。
両手に紙袋を提げたマネージャーと登校途中で出逢った。
「おはよう。ずいぶんと大荷物だな」
「うん。今日はバレンタインだからね。部員のみんなと、友達にも渡そうと思って。張り切って作ったんだよ」
嬉しそうに笑うマネージャーの眼の下にクマ。
ずいぶんと遅くまで頑張って作ってたんだろうな。
「当然・・・あるんだろうな?」
「志波くんの分?もちろん!友チョコ一番乗り。はい、どうぞ」
紙袋から小ぶりのペーパーバッグを取り出してくれる。
オレが言いたかったのは、元春の分は?ってことだったんだが。
こいつらが進展しない理由。
元春の押しの弱さもそうだけど。
マネージャーの鈍さも問題あるんじゃねえかと思うぞ。
「サンキュ。大事に食う」
「結構自信作なんだー。食べたら感想聞かせてね」
「オレの批評は厳しいぞ?」
「きゃー、こわーい。お手柔らかにね」
上目遣いで見上げてくるマネージャー。
・・・心臓に悪いな、この目は。
「元春の分。準備してあるんだろ?」
「あー、うん。今日バイトだから、その時渡そうと思ってるよ」
「本命なら、本命らしい渡し方しろ。じゃないと、元春は気づかないぞ」
「・・・頑張ります」
頬を真っ赤にして俯く。
いちいち、可愛い反応をしてくれるな。
相手が誰だろうと奪って行きたくなるだろ。
本当にガラじゃないけど。
元春とマネージャーのことは応援してやりたいと思ってる。
オレもいい加減楽になりてぇしな。





部活が終わって家に帰る。
そこで元春と鉢合わせ。
大学に入ってから1人暮らしをするようになった元春。
花屋のバイトの関係で、家の近くで会うより学校で会う確率の方が高い。
家の前で会うなんて久しぶりだ。
「おっ」
「あ・・・」
車から降りた元春がオレに気づいた。
ニッと笑ってオレに近づいてくる。
「お疲れさーん。今帰りか?」
「見ての通りだ。おまえこそ何だ?珍しいな」
「オフクロが蜜柑取りに来いって。たくさん送ってきてくれたみたいだから、おまえん家にもおすそ分け行ってんじゃねぇか?」
それはラッキー。
冬はやっぱりコタツで蜜柑だよな。
元春の視線はオレが手に提げてる紙袋に向けられた。
「大漁だなー、勝己くん」
今日1日で貰ったチョコレート。
なるべく受け取らないようにしてたんだが、机の中・ロッカーの中・カバンの中。
一体いつ入れたんだ?って訊きたくなった。
「勝己くんて言うな。・・・なるべく受け取らねぇようにしてたんだけどな」
元春が反対の手を指さして。
「で、そっちのが彼女からか?一個だけ特別感満載」
「マネージャーに貰ったヤツだ。他の部員にも配ってたし、別に彼女ってわけじゃねえ」
オレにとっては特別なチョコだけど。
元春が心配するようなことはこれっぽっちも無いんだぞ。
「おまえも貰ってるんだろ?アイツに」
「あー、貰ったぞ。いつものお礼にって義理チョコ。この間メシ奢ってやったから、櫻井の分も預かってる。律儀なヤツだよな」
義理チョコ?
どんな渡し方をしたんだ、マネージャーは。
本命なら本命として渡さないと、元春は気づかないって忠告しただろうが。
まったく・・・世話のやけるヤツ。
「野球部員は2粒。アイツの中で友達ってカテゴリーに分類されるヤツは5粒。おまえは?いくつ入ってた?」
「は?何言ってんだ、急に」
「アイツからのチョコの数だ。オレが貰ったのは5粒」
早く見ろ、と顎で車を示す。
元春が後部座席のドアを開けてマネージャーから貰ったチョコを確認する。
箱を持ったまま固まるな。
確実にオレより多いはずなんだから。
「おい、訊いてんだから答えろ」
オレが返事を促すと、元春は「7粒」と素直に答えた。
たった2粒が、越えられない高い壁。
「そういうことだ。じゃあな」
オレは元春の肩をポンと叩いて家に入る。
ちょっと考えたら、すぐにわかるはずなんだけどな。
コタエは知ってるけど教えてやらねぇ。
このくらいの意地悪は、許されるだろ?



後日、マネージャーから報告があった。
無事に元春と付き合うことになったって。
よかったな。
素直にそう思う。
これでやっと、オレの肩の荷も下りた。
そんな気がした。

=志波視点End=









=デイジー視点=


先輩の中で、わたしは今どれくらいの位置にいるんだろう。
高校の後輩?
同じバイト先の女の子?
幼馴染みの友達?
バイト帰りに送ってくれたり、時々遊びに連れて行ってくれるけど。
先輩は優しくて人付き合いもいいから、そのくらいはわたしじゃなくてもやってると思う。
真咲先輩の車の助手席に、わたし以外の女の子は何人座ったんだろ。
顔も知らない誰かにヤキモチをやいてる。
2年生になってから、初めてバイトを始めた。
緊張でガチガチになってたわたしに、先輩は優しく丁寧に仕事を教えてくれて。
お兄ちゃんみたいな人だなーって思ったっけ。
憧れが恋に変わるのは簡単で。
傍にいるうちにどんどん先輩のことが好きになっていった。
先輩の特別になりたいけど、今の居心地のよさを失くすのも怖くて。
わたしの思いは胸のうちをぐるぐると回ってる。
誕生日のプレゼントも、準備したけど渡せなかった。
困った顔されたらへこむもん。
でも、バレンタインデーのチョコなら受け取って貰えるかも。
いつもお世話になってますーって感じで渡すなら、気持ちがバレたりしないよね?



バレンタイン当日。
わたしの気持ちは志波くんにはバレバレ。
先輩には「本命」ってわかるような渡し方しないと気づかないって言われた。
応援してくれるのは嬉しいんだけど、気づかれたら困るんだもん。
でも、少しくらいの悪戯はしてもいいよね。
わたしはアルファベットのプリントされてるラッピング材に、ピンクの透明シールを貼り付けた。
シールの下のアルファベットを並べるとわたしの気持ちになるように。
この間のご飯のお礼として、先輩の友達の櫻井さんにもチョコを準備した。
はるひからも櫻井さんにチョコを預かってる。
いつ渡そうかな。
わたしのバッグに残ってるチョコはこの2つ。
アンネリーの休憩室で、偶然先輩と2人きりになったんだけど。
タイミングを逃して渡せなかった。
アンネリーから家まで送ってもらって、家の前でようやく渡せた。
まず櫻井さんにこの間のお礼を兼ねて、はるひとわたしから。
そして真咲先輩に。
本当は本命チョコなんだけど、やっぱり言えなくて「いつもお世話になってるお礼です」て言っちゃった。
志波くんにバレたら呆れられるな、きっと。
平静を装ってたんだけど、心臓はドキドキのバクバクで。
少しだけ触れた指先から、緊張が伝わらないか心配だった。





真咲先輩が帰った後。
わたしは1人でプチパニック状態。
まさか、真咲先輩があの悪戯メッセージに気づいてくれるなんて思わなくて。
真咲先輩がわたしを好きでいてくれたなんて信じられなくて。
部屋で枕を抱えたまま、ベッドの上でころころ転がってみる。
自分からとは言え、真咲先輩の胸に飛び込んで。
ぎゅっと抱き締めてもらって。
それから・・・キス・・・しちゃったんだよね。
夢じゃないよね?
声に出さずにきゃーきゃー言ってると、ハッと気づいたことがある。
わたし、パジャマのままだった。
は、恥ずかしい・・・。
慌てすぎだよ、わたし。
そんな感じで、1人でまたきゃーきゃー言ってたら携帯のメール。
真咲先輩からだ。
今までもメールもらってたけど、このメールは特別永久保存版。
恋人になった真咲先輩・・・元春さんからの初めてのメール。
今夜は嬉しくて、眠れないかもしれないな。

=デイジー視点End=