2.教室




朝練を終えて教室に戻るとの声が聞こえてきた。
修学旅行の写真を桐野たちと見せあっているらしい。
普段通りの笑い声が聞こえてホッとする。

オレが自分の席につくと、それに気付き、にこにこしながら寄ってくる様子は本当にいつもと変わりが無い。
今朝の事をもう気にしてないのか、それとも気にしないようにしているのか……



「朝練お疲れ! これ、志波が写ってる写真」
「ああ、サンキュ」
「私のおすすめはね、これ!」



何枚かある中からが見せてくれたのやつには、鹿に囲まれたオレと若王子先生が写っていた。
いつのまにこんなのを撮ったんだか……

何枚かめくっていくがオレの顔は眠そうだったり無表情だったり……見てもおもしろくもなんともない。
自分のことながらプリントの手間をかけさせたことに申し訳なくなってくる。



「あ……」
「あ、これ、なかなかよく撮れてるでしょー」



笑いながらが指さすその1枚、団子を食いながらなんとも言えないような甘ったるい顔してるオレがいた。
こんな顔をしていたのか、オレはあの時……なんか、こそばゆい、な。



「よっぽどあのお団子気に入ったんだね」
「は? いや……」
「え? おいしくなかったの?」
「あ、いや、うまかった」
「だよねー!」



あの顔は団子のせいじゃねぇんだが……
あの時、目の前にいたのはこいつ。
が目の前にいるときはいつもあんな顔してるのか、オレ?



「志波……、あの……えと……」
「ん? なんだ?」



顔をあげたらこっちを窺うようにしていたの視線にぶつかった。
何か言い出すのかと待ってみたが、今度は視線を泳がせて「あの」とか「その」とか言い淀んでいる。
しばらくさまよってた瞳が次にこっちを見た途端、最後は慌てたように視線をはずされた。



「えっと、なんでもない! あはは」



がごまかして笑ったのと同時に始業の鐘が鳴った。
じゃあねと自分の席に逃げて行く を見送りながらオレは何もできない自分に苛立った。



(なんでもねぇってことは無い、な……)



いつも通りの会話のテンポに今朝見た光景をすっかり忘れそうになっていた。
が言いたかったこと――それは、きっと、今朝のこと、だよな。
何を言おうとしてたのか……



……それとも、オレが何か言うのを待ってたのか?



だとしたら、何を言ったら正解なんだ。
こういう時の言葉をオレは何も持っていない。



下駄箱に入っていた真っ白な封筒。
それを見て動揺していた――オレに見られてさらに焦ってた。
はあれをもう読んだんだろう。
そして、今は、何かを言おうと、いや、聞こうとしていた。



……



…………そっち方面の相談なら、それこそ水島や海野にでも聞けばいいはず。



オレに何を聞く?
……わからねぇ。
から言ってくるのを待った方がいいのか、そうでないのか、それもわからねぇ。



……考えてもわかんねぇなら、いっそ聞くか、オレから。



だが、その後、いつもより目は合うのに合った瞬間に逸らされるの繰り返し。
休み時間もあいつが誰かと喋ってたりで、話を聞く隙もなかった。









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