志波Side 02




入学式の朝、
またあの時の夢を見て目が覚めた。
『お前のせいだ』
という皆の声が頭の中でこだまする。
実際にそう言われたことは無かった。
だが、きっと心の中で思っていたはずだ。

「5時…」

頭の中で響いている嫌な声を振り払うために
外に飛び出した。

森林公園まで一気に走る。
ストレッチをしていない体がギシギシ悲鳴をあげる。
別に壊れてもかまわない。
いっそその方が諦めもつく。

ジョギングみたいな生温いスピードではなく
ただ我武者羅に、嫌な感触を体から振り払うように走りぬく。

桜、新緑、風、空気、香り、
そんな物を感じる感覚は全く無い。
無くなっていたと思っていた。
その時まで。

「風?」

はるか前を走る
ポニーテールの女の周りで
風が若緑色の流線型を描いているように見えた。

朝の弱い光の中
そいつの周りだけ明かりが差しているようだった。

無駄の無い動き
美しいフォーム。

「速い…」

きれいな走り方だ。

どんなヤツなのか気になって
追い抜きざまにその横顔を見てみた。

何かに挑むような瞳。

後ろで見つけたときの
あの風や光とは全く違う印象。

なんでだ?

分からなかったけど
振り向いて確かめることは出来ないから
そのまま抜き去る。



それから毎日、同じ時間、
オレはアイツの風と光が見たくて
挑むような瞳の意味を知りたくて
森林公園へ通うことにした。






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