23.ホワイトデー<志波Side> |
「おーい、志波ぁ、行くぞー」 「ああ……今日はどこでやるんだ、ニガコク」 「ああ?何言ってんだ、オマエ。今日はショッピングモール行くっつっただろ?」 そういえば数日前にそんなことを言われたような気がする。 確かあの時は昼飯の後で、 丁度眠気がピークに来た頃で…… なんでショッピングモールへ行くんだったか…… ……まあ、ついて行けば分かるか。 「おまえ、さては覚えてねぇな」 オレの顔を睨みながら針谷が言う。 オレを怖いと思わないのか 針谷は入学直後からこんな調子だった。 けど、不思議と不快じゃねぇ。 良く言えば人を惹きつける力がある、 悪く言えば人を面倒に巻き込む、そんなヤツだ。 野球とは全く関係無いし 何より過去を詮索するようなヤツじゃなく ダチとして付き合うのは苦にならなない。 だから、オレもいいように巻き込まれることにしてる。 「オマエなぁ……明日はホワイトデーだろが」 「ホワイトデー……?」 「だーっ!!!2月にチョコ貰っただろ?」 「ん……ああ、貰ったな」 「……オマエ、いくつ貰ったんだよ?」 「……5個」 「げっ!結構貰ってるな、志波のくせに……あーでもハリー様に比べたらまだまだだなっ!」 「針谷はいくつ貰ったんだ?」 「フッフッフッ!両手じゃ数えらんねぇ!」 「へぇ…………」 「ンだよっ!もうちょっと悔しがれっ!」 「……で?」 「あ?ああ……だから、そのお返しをするっつーのがホワイトデーだろっ」 「それぐらい知ってる」 「ハァッ???オレ様が丁寧に説明してやってるっつーのに、知ってんなら聞くなっつーの!!!」 ホワイトデーがどういうもんかって事ぐらいはオレだって知ってる。 それが明日だって事に気付いてなかっただけだ。 自分の誕生日すら目安に過ぎないって思ってんのに それ以外の行事なんて知るか。 「どんな義理チョコにもきちんとお返しはしろよ。それが礼儀ってもんだ」 「……礼儀正しいんだな、針谷は」 「ち、ちっげーよっ!今のはホワイトデーを忘れてた志波に教えてやっただけだっつーのっ!オレ様のはファンサービスだっ!!」 「へぇ……で、何をあげればいいんだ?」 「義理なんだし普通は飴かマシュマロだな。……おい、志波、まさか本命チョコとか貰ってねぇよな???」 オレが貰ったチョコ…… オフクロ、海野、西本、桐野、それから、アイツ。 全部義理チョコだった。 あ……そういや、アイツは義理じゃなくて友チョコだって力説してたな。 義理だろうが友だろうが本命じゃねぇってことにはかわりない。 それでも…… 「志波ぁ?手になんかついてんのか?それとも数の確認か?」 「いや……」 この肉刺に気付いたアイツ。 沢山いるダチのうちの一人じゃなくて オレをオレとして見てくれてると感じたら 嬉しくなって…… 野球部のことも「考えてみる」なんて つい答えちまった。 そう言ったら、想像以上に嬉しがってたな、アイツ。 はじける様な笑顔が眩しくて直視できなかった。 照れ隠しのために冗談で誤魔化したが あの時のチョコの味は今でも覚えてる。 「……義理じゃねぇ場合は、何をあげたらいいんだ?」 「ハァ?!マジかよ?本命??志波に???」 「貰ったのは、義理だ……」 「カーーーッ!ったく、オマエの片思いかよ?……まあ、相手をイメージしたらイイんじゃねぇ?」 「イメージ……」 「相手、誰だよ?教えてくれるっつーなら具体的に考えてやるぞ?」 「……」 「ダンマリか……ま、普通の女子ならカワイイもん選べば間違いねぇよ」 「そうか……サンキュー」 「どう致しまして……って、マジでマジかよ???」 普段は絶対に入らない、いや、立ち止まることすらない雑貨屋。 店頭近くの飴のセットを4つ手にとって店の奥へと進む。 カワイイもんってなんだ? 人形とかぬいぐるみってヤツか? 店内に並べられた小物を横目で見ながら進む。 恥ずかしすぎて直視なんてしてられねぇ。 アイツのイメージ…… 足が速くて 小さくて 頭の上で跳ねる髪の束。 「あ…………」 似てる、と思った。 低い位置にある商品棚から見上げている姿が あまりにもアイツそのものに見えちまって 口許がにやけそうでやばかった。 ホワイトデーの朝、 そいつを握り締めて家を出た。 プレゼント用の包みが大げさに思えたから中身だけを持って。 目次へ戻る |