61.大晦日の兄弟喧嘩<志波Side>




クリスマスパーティーの日の
いつもの何倍も……可愛かった。
サボらずに行ってよかった。

前日に見た光景とか
ジリジリした胸ン中とか
もう、どうでも良くなった
……はずだった。



「アイツに頼まれたから、だろ?」



フワフワと揺れるイヤリングを見て
ショッピングモールでの光景がフラッシュバックした。
頭の中で何かが弾けて
制御できなくなっちまって
思わず口から出たのが
あの言葉。

自分でも驚いた。
ずっと気にしてたのか、オレは。
そんな前のことを。



今のはそうじゃねぇ、
オレに向ける笑顔は嘘じゃねぇって分かるのに……



けれど、元春の傍にいたアイツは楽しそうで……
オレにはあんな風に笑わせる事は出来ねぇと元春に嫉妬したんだ。











「おー勝己ー」

「元春……勝手に人の部屋に入るな」

「オレはK1が見たい。
 リビングは親父達が紅白見ててダメ。
 それならこの部屋しか無いだろー?」

「…………」



去年も同じようなやり取りをしたような気がする……。
大晦日、人の部屋に勝手に入ってくつろいでる元春。
今一番顔を見たくないヤツ。



「出て行け……オレは一人になりたい」

「なんでだよ?」

「うるさい。おまえには関係無いだろ」

「ふーん……勝己クン、何か言いたい事があんならはっきり言えよ」

「別に……」

「だったらそんなに睨むな」

「……」



出て行きそうも無い元春に腹がムカムカする。
コイツの顔を見てるぐらいだったら
親父やお袋達の相手をしてる方が数倍楽かもしれねぇ。
そう思って部屋から出て行こうとドアに手をかけた時
「あのさー」と声をかけられた。
オレの気分とは正反対の楽しそうな声で。



ってさー、案外カワイイとこあるよなー」

「何が言いたい……」

「ま、基本、負けず嫌いで意地っ張りで怒りんぼだけどな」

「……」

「次、何やらかすかわからなくてハラハラして目が離せないし」

「……」

「本当の妹みたいでほっとけないんだよな」

「妹……なのか?」

「ん?どーいう意味だ?」

「わかんねぇならいい」

「ははーん、女子としてどうかってことか」

「……」

「そうだなぁ、まあ、一緒にいて楽しいな。反応が面白いし」

「……」

「アイツが辛そうな時は頭なでたりもしたっけなぁ……」

「……」

「手つないで、腕組んで、抱きしめて、キスして、それから……」

「……っ!!!」



気付いたら元春の胸倉を掴んで馬乗りになっていた。



振り上げた拳が震えている。



コイツがに……



がコイツを……



「っ……」



がコイツを選んでたってんなら
殴ったとしても何も変わんねぇ。
掴んでた手を離し
元春の上からどいて
背を向けて座り込んだ。



「オレの部屋から出てけ……」



なんでコイツなんだ。
なんで他のヤツじゃねぇんだ。
子供の頃から嫌になるほど一緒にいる相手。
コイツには一度も勝てた事がねぇ。



「おい、勝己、落ち着けって!まー聞けよ」

「もういい……」

「いいから聞けって」

「……」

「さっき言ったみたいな気分にはならねーな、って続き、聞きたくなかったか?」

「あ?」



いてててと体を起こしながら元春が吐いた言葉を
理解できないでいるオレ。



「だからー、本当の妹みたいだって言っただろ、さっき。
 妹とキスしたりしねぇだろー、普通」

「あ……」

「聞いてよかっただろー?」

「ふ……ざけんな!オレは本気でっ……!!」

「あー!悪い!!からかい過ぎた!ホント、カンベン!!」

「ちっ……」

「つーか、兄貴としては妹を泣かせた野郎に制裁をだなー―――」

「誰がアイツの兄貴だ。ふざけんな」

「大変だったんだぞー」

と会ったのか」

「いんや、結花に聞いた。
 結花に『先輩のせいだ』とか責められて大変だったんだよ、
 おまえのせいなのに……」



ブツクサ言ってる元春を尻目に
オレはの事を考えていた。
泣いてた、のか……
当然だよな……
酷い態度だった、あん時のオレ……



「で、勝己はどうなんだよ?」

「は?何が?」

「女子としてをどう思うかって話。
 ……っつか、おまえの考えは丸分かりだけどなー、ははは!」

「……オレがどう思っても、の気持ちってのがあるだろ」

「はぁ?!……勝己くーん、本気でそう思ってるわけじゃねぇよな?」

「は?」

の気持ち、少しは感じてんじゃねぇの?」

「それは……」

「まったくわからねぇってーなら本気でバカのアホのマヌケだなー、オマエ」

「うるせぇ……」



良い方にとれば、そうだろうな、って思った時も確かにある。
お互いの気持ちが通じ合ってるんじゃねぇかと感じた時も。
けど、何か約束したわけじゃねぇ。
確かなモノは何も無い。

は野郎とだって友達になれるようなヤツだから、
もしも、オレが、オレの気持ちを言葉にしたとしても
そんなつもりじゃなかったって言われそうで怖いんだ。



「さー、じゃー、今年も行くか!二年参り!!」

「はぁ……行ってらっしゃい……」

「勝己も煩悩を払いに行った方がいいぞ?」

「煩悩……」

「そ!新年をすっきり迎えるためにも、さ、行くぞ!!」

「オレは……」

「甘酒も飲めるぞ?」

「甘酒………………」



元春の誘いに乗るのは癪だが……行くか。
気を引き締めるために。
情けない自分を振り払うために。

……。
今、どうしてる?
冬休みに入ってから何度か部活で見かけた。
顔を合わせないように避けちまった。
すまなかったと伝えたら、オレを許してくれるか……?







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