志波勝己誕生祭10 お題部門 投稿作品
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しあわせ







志波勝己。一流体育大学2年。硬式野球部所属。……それが、オレ。
そして……

「志波?」
「ん?」
「寒い……あっためて」
「……っ!?」

上目づかいでオレを見上げる瞳は潤んで、今にもこぼれ落ちそうだ。
頬は桃色に染まり、そして、小さくて柔らかい――それでいて弾力のある唇は艶めいて、その口元からは震えるように小さな吐息がもれる。

場所が場所ならオレの理性は少しももたないだろう。

胸の底を引っ掻きまわすような言葉、表情、仕草。
何かを狙ってるわけではなく素のままというのが厄介なんだ。

それが、。オレと同じ一流体育大学2年。陸上部所属。

「ね、志波……」
「ああ…………ほら、来い」
「ん……」

オレが上着の前を開けると、その中にが身をすりよせてくる。
その小さな身体を両手でそっと包み込んだ。

臨海公園の煉瓦道。今、オレ達がいる場所だ。
二人で並んで柵にもたれながら海を見ていた。
秋の空はよく晴れわたり、太陽は一番高い所にいる時間。
暦はまだ11月だが、朝の天気予報で予告してたとおり真冬並に冷え込んでいて、海からの風は刺すように冷たい。

が目に涙を滲ませてるのは風が強く冷たいせいだろうし、頬が赤いのもそのせいだろう。
唇がやけに艶々してるのはリップクリームかなにかを塗っているからで……。
……現実はそんなもんで、何か起こるはずもない。それだけのことだ。

「はぁ……やっぱり志波はあったかいねぇ」

オレの熱を感じながらぬくぬくと幸せそうな顔をしてるのを見ると、それはそれでこっちもイイ気分になるんだが……。

「おまえ……そんなに寒がりだったか?」
「うん。夏みたいに暑い方が好き」
「部活ん時はそんなこと言ってねぇだろ?」
「それは、だって、気合い入れてるし……」
「……気合いで片付く問題か?」
「なんとかなるんですー!」

それなら今はリラックスしてるってことか。
オレの傍でそうして自然体でいてくれるのは――自然過ぎて、もう少し考えてくれと思わなくもないが――まあ、嬉しい。

「……なあ」
「……なあに?」
「そんなに寒いなら、場所、移動するか?」
「うーん……」
「冷えて風邪でもひいたら大変だ」
「でも、やっと秋の試合シーズンが終わってゆっくりできる時間がとれたでしょ?」
「ああ、だな」
「だからね、こう、景色のいいところでのんびりするのがいいなぁって思ったんだ」
「……そうか」
「……うん」

たしかに。
春の試合シーズンと夏の激しいトレーニングの後、すぐにまた秋の試合シーズンがやってきた。
半年以上かけて蓄積した疲労。
メンタルとフィジカルの両方に相当きている。
冬はそいつらをクールダウンさせ、年が明けたら次の春に向けて徐々にあげていく。
だから、こうして心も身体もリラックスさせようというの考えは分かる。

しかし……オレが心の底からリラックスできているかどうかは微妙だ。
ざわざわとした胸の中にも気付かず、はオレの腕の中で気持ちよさそうに目を細めている。
オレの体温がに伝わり、逆にの身体がポカポカと熱を発し、それがまたオレに伝わる。
それは、とても、心地いい……が、心が休まるかと言えばそういうわけにもいかない。

どうにか気を逸らさねぇと……
それなのに、はさっきからもぞもぞと布団にもぐりこむように頭をオレの胸にこすりつけてくる。

「……寝るなよ?」
「んー……」
「おい……」
「うふふー、あったかぁい、しあわせぇ……」
「はぁ……オレはカイロでも布団でもないぞ……」

寒い日に温かい布団にくるまるのは幸せだってのはオレにもわかるが……

「んっと、そうじゃなくて……」

はオレにひっついたままクイッと顎を上げる。
オレが顔を下に向けたら……
近い……
もう少し屈めば……

「――こうやって、志波にくっついてまったりする時間がね、すごくしあわせ」
「…………」

蕩けそうな顔でそんなこと言われて、オレは硬直。
頭ん中も。近づけようとしてた顔も。
は絶句したオレの反応がおかしかったのか、すぐにクスクスと笑い始めた。

「ハァ……」

まったく……。
なんだってコイツはいつもこうなんだ……?

体育大なんていうヤロウの比率が多い場所にいるせいか、普段はサバサバした性格の
オレから仕掛けて甘ったるい雰囲気になると照れまくってジタバタとあがく。
それなのに、自分からなんかしてくるのは、なんで平気なんだ?

「あ、えっと……ごめん、ね」
「……?」
「志波は体動かしたりする方が好きだよね……ごめん」
「いや……」
「そのかわり、誕生日は志波の好きな所で遊ぼうね!」
「……」
「二十歳の記念だもんね。どこがいいかな? 遊園地で目いっぱい遊ぶ? それとも――わぁっ?!」

思いついたことをアレコレと言いながら離れていこうとするを、オレは力いっぱい抱きしめた。

――しあわせ、か。

そうだな。
こうして腕の中に閉じ込めて、温もりと柔らかさと匂いを感じて、おまえの声を聴いておまえだけを見つめる。
たしかに……

「オレも……」

幸せだと思う。

「志波も……えっと、しあわせってこと?」
「ああ……」
「……おんなじだね」
「……だな」

だが、できれば違う場所で……とか、言ったら怒られそうだ。

一緒に過ごすことが幸せだと言うのなら、ずっとこうしててやる。
そうすれば、おまえはもっと幸せになれるのか?

誕生日が来て二十歳になっても、いきなり大人になるわけじゃない。
学生ってことは変わらない。
だけど、いつか、おまえにやるから。
もっとたくさんの幸せを。
ずっと続く幸せを。
オレが。