03.敵 |
「男子の部、志波勝己」 「はい」 「女子の部、」 「…はい」 何故か最悪なヤツと一緒に朝礼台の上に呼ばれて並んでいる。 朝のランニングで私を抜かしていくむかつくヤツ。 こいつだったのか。 志波勝己… その名前を私は知っていた。 貴大の敵の名前だ。 貴大の敵は私の敵。 中3の夏を思い出してしまう…。 4月4日の入学式。 同じクラスで早速仲良くなったのは ノリの良いはるひ。 誰とでも仲良くなっちゃうんだろうな。 好き嫌いの激しい私にはちょっとまぶしい。 私って、体育会系なのか、サバサバしすぎているのか、 女の子仲良しグループ〜みたいなのは、どーも合わなくて。 はるひだったら、本音でビシビシおしゃべりできそうだから 上手くやれそう。 クラス担任は若王子貴文先生。 陸上部の顧問だって。 あんなボンヤリが運動なんて指導出来るのか、かなり不安。 ホームルーム終わった後、早速入部届けを出しに行った。 「若王子先生!陸上部入りますのでよろしくお願いします!」 「やや、さん、こちらこそよろしくお願いします。 部活で一緒に青春しましょう!」 なんて言われた。 やるからにはインターハイ目指したい私は、 こんな顧問でかなり不安なんですけど。 入学式の翌日は 学校案内と 身体測定。 そしてその翌日は 新入生のスポーツ測定。 「スポーツ」ときたら燃えるしかない。 昨日の身体測定で身長があまり伸びていなくて 気分がクサクサしていたから 思いっきり発散してやる〜! ある程度リーチが長くならないと不利なんだよね。 一応去年より3cm伸びて155cmになったけれど、 160cmは欲しいな〜。 なんて、身長の事を考えていたら 今朝の事を思い出した。 むかっ。 あのでかいヤツ。 今日も抜かされたんだよ。 うううう、全部発散してやる〜! はね学はスポーツ推薦があるからか、 スポーツ測定も順位発表があるんだって。 期末テストの順位発表は絶対目も当てられないだろうから 私が首位を取れるとしたら今日しかない!! 瞬発力で勝負の 反復横飛び 走り幅跳び は、もちろん、 100m走はぶっちぎりで 学年首位。 長距離、女子は1000m。 これはちょっと危なかった。 最後までずーっとデッドヒートを続けて ゴール前50mでダッシュをかけて なんとか優勝。 んー!こういう勝負って感じの久し振り!楽しい。 「私、!良い勝負ができて楽しかった!」 「ああ、あんた速いね。1位おめでとう。藤堂竜子。よろしく」 「藤堂もすごく速かった!陸上部入るの?」 「いや、あたしは帰宅部。は?」 「うん、私は入るよ。インターハイ目指しているの」 「そうか。しっかりやんな!」 「ありがと!」 藤堂、カッコイイ! 同じ学年とは思えないほど。 背も高くてすらっとしていて素敵だ〜。 性格も私の大好きなサバサバ系。 「男子も始まったみたいだね。」 藤堂の言葉でトラックを振り返ったら 男子の1500mが始まったところだった。 スタート直後、先頭に踊りだしたヤツ。 「あ…、あ い つ は ? !」 他をぐいっっと引き離していくその走り方、 「まちがいない」 朝のランニングで私を抜かしたヤツだ。 あんな背高いくせに同じ学年だったのか。 同じ学年のヤツに抜かされた、 そう思うとまた腹が立つ。 「あんた、志波を知っているのかい?」 「えっ?シバ?」 「どうかした?」 「あ、ううん。志波…君は、陸上部なのかな?」 確かめたいことがあって 声が震えないように 聞いてみた。 「あいつは野球…、いや、部活には入らないだろうね。」 野球…シバ… 「シバカツミ…」 「、やっぱり知っているのかい?」 「ちょっと、名前だけ」 そんなやり取りをしている間に ぶっちぎりで志波勝己はゴールしていた。 思う存分発散して女子1位が取れたのに 最後に最悪なヤツの名前が判明して どうにも気分がスカッとしない。 しかも、ヤツも記録が良かったみたいで 男子1位になったらしい。 こんなんだったらワザワザ表彰してくれなくて良いのに… 男女それぞれ1位は名前を呼ばれて朝礼台に揃ってあがることに…。 朝のランニングで私を抜かしていくむかつくヤツ。 志波勝己。 その名前を私は知っていた。 Next→ Prev← 目次へ戻る |