04.理由




志波勝己…

そうだ、あの顔、間違いない。

前に見た時の憎らしい笑顔は全く見せないけど。

早朝ジョギングのムカつく相手、志波勝己は

私の大事な貴大の敵だった。







あれは、中3の夏。

野球部の県大会準々決勝

たまたま陸上部が終わってから間に合う時間だったから、
私は貴大の応援に行ったんだ。

球場に走り込んで、スコアボードを確かめる。

7回裏、1アウト、相手の攻撃中。
4対3でうちがリードしている。

ひとまずホッとする。

あ、でも1塁にランナーがいる。

貴大がボールを投げる。

「ットラー。バッター、アウッ!」

ほっ。2アウト。



先発で投げていた貴大。
3点取られているという事は調子悪いのかな。
少し心配。

「ねえねえ、貴大調子悪いの?」

近くに座っていた野球部の1年生に聞いてみた。

「いえ、鈴木先輩は絶好調っす。でも、相手の4番がすごくって。
 3点ともその4番の打点なんっす。
 あ、あの次に出てくるバッターっす」

『4番センター志波勝己君』

どこかの中学のマネージャーがやっているたどたどしいアナウンスが聞こえてきた。

「シバカツミ」

その名前を忘れないように繰り返す。

貴大から3点もとったやつ。

許せない。

(打つな、打つな、打つな、…)

黒い電波を一所懸命送った。

それから貴大に声援。

「貴大、がんばれーーー!!!」

1球目。アウトローの良いコースに決まった…

と思った球は

乾いた金属音の後、

ライトスタンドに消えていった。





あのツーランの逆転で結局うちの中学は負けた。

打たれた時の貴大の後姿、忘れられない。
がっくりうなだれて、悔しさに肩が震えていた。

球場から出てきた時の貴大の顔も忘れられない。
すごく怖い顔。
話しかけられなかった。
あの時、貴大は何かを決断していたんだろうな。





その試合から1週間後、
私達の耳に信じられない話が入ってきた。

志波勝己のいた中学が準決勝で暴力事件を起こして
試合を辞退したという。

「4番が相手のピッチャーを殴ったらしい」

4番…志波勝己。

そんな所で辞退するぐらいだったらっ!

なんでうちの中学に勝ったの?!

最初から大会に出るな!!

私達の中学の、
私の貴大の、
夏を終わりにしてしまったくせに!!!

…許せない。





貴大も同じ気持ちだったんだろうな。
そんなんで台無しにされないように
もう二度と負けないように、って
野球で有名な男子校への進路を決め、
そこに入るために勉強と野球だけを頑張り、
私と遊ぶ時間も減って
そしてあの3月の別れ…。



あいつのせいで
貴大は中3の夏を奪われた。

私は貴大との楽しい時間を奪われた。

私と貴大が離れることになった原因も
全部
全部
志波勝己のせいなんだ。

絶対に絶対に絶対に許せない。





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