08.体育祭 週明けから放課後のリレー練習が始まった。 でも、気が乗らない。 「みなさん一人で走るのは速いようですから、バトンパスの練習を中心にやりましょう」 若王子先生の指示は正しいとは思うんだけどー。 先輩達の手前、拒否するわけにもいかず、 パスワークを何度も繰り返して、 スタートダッシュ、等をこなして、 最後に本番と同じ距離を走って終了。 「はい。今日のところは良いでしょう。皆さん、お疲れ様。また明日。」 「「「「「お疲れ様でした!」」」」」 はあ、疲れた。ホント。 なんか、こう、パスしたくない、って気持ちが働いてしまって、 リレーゾーンでスピードが落ちてしまう…。 練習最後の方は志波勝己もイラついていたように見えたけど。 だって、しょーが無いじゃん。 それにしてもこんな練習をあと4日もやるのか。 気が重い。 そんなこんなでやっと金曜日。 毎日のリレー練習で精神疲労MAX。 朝のランニングなのに全然さわやかな気分になれない。 タッタッタッタッタッ 今朝も相変わらずのペースで来たよ、ヤツが。 むかつく。 「…」 うわっ、並走して話しかけてきたよっ。 「何でしょうか?」 「…お前、リレーやる気あんのか?」 「!!ありますけど?」 「オレにはそうは見えねぇ」 「なんっ……でですか?」 「陸上好きじゃねぇのか?」 「大好きですけどっ?」 「好きな事してる練習態度に見えねぇ」 「っ…」 「それだけ…、じゃ…」 タッ………… むっかーーーー! 誰のせいだとっ! 偉そうにっ! 言いたいことだけ言って「じゃ」って何よそれ?! 陸上好きじゃないわけ無いじゃない! そう思われたって事が心外。 「やれば良いんでしょ、本気で」 見てろ。 「今日は総仕上げだから、ランは軽くして、パスワークの確認をしっかりやりましょう」 相変わらずのん気な若王子先生。 そのボヤーっとした言い方でちょっとだけ力んでいた身体も楽になるよ。 でも、 でもでも! 朝、あんな事を言われて、 いや、言われたからってわけじゃないけど 真剣に練習した。 パスの相手が志波勝己だって意識しなけりゃ良いんだ。 心頭滅却すれば火もまた涼し。 禅だ、禅の心だ。 とにかくとにかく、 バトンだけに集中して 人間は無視した。 練習終わった後、 志波勝己がニヤリと笑ったような気がしたけど見ない見えない見るもんか! あなたの為に真面目に練習したのではないですからっ! そして体育祭当日! 曇空だけど、暑くも寒くも無くて良い感じ。 がんばるぞーーーー!!! 午前競技の100mと1000mは快走して1位ゲット! 気持ち良い〜! 「!あんたすごい!めっちゃかっこよかったよ!」 「ありがとう!はるひも借り物競走1位だったね! あの一緒に走ってくれた人、友達だったの?」 「ちゃうねん。「髪が立ってる人」って書いてあったから、お願いしたんや。 あの人な、D組の針谷君って言うんやて。 「ハリーって呼べ」言うてた。」 「D組…。 針谷でハリーか。 ふーん、はるひはあーゆーのがタイプかー。」 「ちょっ、何言うてんねん!違うって!」 「あはははは」 良いな良いな、なんかピンクだ〜。 午後一の応援合戦は、藤堂の学ラン姿がかっこよかった! もう副団長と言わず、団長で良いのに! あーいうさばさばした女子好き〜。 午後最初の競技は、学年別クラス対抗リレー! 8クラスが一斉に走るのだ。 うちのクラスはあかり、佐伯、私、津田の順。 う〜ワクワクする! あかりがスタートの混乱に巻き込まれてちょっと出遅れた。 でも佐伯が少し挽回。 へえ、なかなかやるじゃん。 「佐伯!こっち!」 私は3番手でバトンを受けた。 振り向いてスピードに乗ろうとした瞬間、何かに右足を乗り上げた。 グリンッ 「うあっ…」 前を走っていたクラスがミスして落としたバトンに乗り上げたっぽい。 でもそのまま行くしかない。 ミスしたクラスを抜かして2位にあがる。 1位のクラスまで10m。 うう、スピード出ないっ。 それでもなんとかあと少しの所まで追い上げて 「津田!お願い!」 「任せろ!」 「はあっ、はあっ。」 「ちゃん!こっち!」 「あかり!佐伯!ごめん!抜かせなかったよ」 「大丈夫だよ、ちゃん。きっと津田君が…あ、ほら!抜かしてくれたよ!」 「良かった…」 「津田君がんばれー!」 「津田、行け!」 あかりも佐伯も声援を送る。 クラスのみんなも。 「「「やったー!!!」」」 1着だ! やった! なんか陸上部の試合で勝つより嬉しいかも! みんなでなんかやるって良いなぁ! 2着G組に続いて 3着にD組の志波勝己が入ってきた。 D組第3走者の女の子が泣いている。 あー、あの子が落としたバトンを私は踏んづけたわけか。 なるほど。 さて、と。 「あかり、私、最後のリレーまでに、 ちょっと調整したいから、裏庭行ってくるね。 もし先生がなんか言ったら伝えておいてくれる?」 「分かった。私も行こうか?手伝うことある?」 「大丈夫だよ〜、それに一人で集中したいし」 「そっか。じゃ、最後のリレー頑張ってね。いっぱい応援するよ!」 「うん!任せて!」 笑ってみせたけど、 何事も無かったように歩くのもきつい。 最後の紅白対抗リレーまでは まだ他の競技で1時間弱ある。 その間に冷やすだけ冷やすか…。 とりあえず誰にも気付かれないように。 心配かけたら楽しい気分壊しちゃうし。 それに慰められるのがイヤ。 「怪我してたから仕方ないよ」って言われるのがイヤ。 途中の水道でタオルをビチャビチャにぬらして 裏庭の芝生の所に座って シューズと靴下をぬいでみたら 「ぅわっ…結構腫れてきちゃってる…」 ぬらしたタオルを右の足首に巻いて。 「後は最後のリレーだけだから、きっと何とかなる、よね。 気合でやるぞっ。」 でもちょっと足首を動かしただけでギーンッて痛みがっ…。 痛くて涙がにじむ〜〜〜。 なんか情けない。 なんでこんな日に怪我するんだろう。 サクッサクッサクッサクッ 足音に慌ててにじんでいた涙をゴシゴシこすってピッと座りなおして振り向いてみた。 げっ。 「志波っ…………君、ど、どうしたんですか?」 「…リレーのアップしに来た」 「あ、そうなんだ」 なんでワザワザ裏庭でやるのよ。 ブツブツ。 「…なんか言ったか?」 「いえいえ」 「、ちょっと足見せてみろ」 「はいっ?」 おいーっ!許可してないのに、勝手にタオルとって見るなーっ! 「さ、さわるなっ…じゃない、さわらないでください!」 「腫れてるな」 「っつ…!」 うわっ?! 人の足、勝手にテーピングし始めたよ。 って、なんで「アップしに来た」人がテーピング持ってるのよ? 「おまえ、うちのクラスのヤツが落としたバトン踏んだだろう」 「…見ていたんですか?」 「ああ。悪かったな。」 「別に、志波…君が落としたわけじゃないでしょう?」 「ああ、そうだな。 ………よし。少し圧迫しておいた方が楽だろう。 捻挫は癖になる。気をつけた方が良い。」 「…ありがとうございました」 ポイッとヒヤロンを渡されて 「出番近づいたら呼びに来る」 サクッサクッサクッサクッ 行った…。 ヒヤロンをバチンと叩いて足首に乗せる。 冷たくて気持ち良い。 リレーはなんとか白組より前で走って パトンを渡すことができた。 赤組はそのまま1着でゴールし、 赤組優勝に貢献することができた。 優勝は嬉しい。 楽しいこともあった。 でも、私は、もっとかっこよく最後まで走りたかった。 たった1週間の練習だったけれど そのどれも活かせなかった。 折角最後は真面目に練習したのに。 出来なかった自分が情けなくてイライラが止まらない。 負けたくない。 何に? 負けたくない。 誰に? 自分に? Next→ Prev← 目次へ戻る |