09.夏のはじまり |
捻挫が治るまで部活は見学しようと思っていたら参加禁止になってしまった。 「痛めた脚でリレーに出るなんて…。 選手はもっと自分の体に責任を持たなければいけない。 きちんと治るまで部活に来ちゃダメです。」 若王子先生にいつもと違う真剣な声で言われてしまった。 「はい。すみませんでした。」 と言うしかなかった。 実を言うと、捻挫は初めて。 だから体を動かせないというのが こんなにも退屈だなんて知らなかった。 早朝ランニングも行けないし、 放課後の部活行けないし、 すごくすごく暇。 運動以外で暇つぶしって何をしたら良いんだろう? ブラブラ出歩くのは無理だし。 部屋でできることは… 雑誌を買う習慣も無いからファッションチェック〜なんて事も出来ず、音楽も…そういえば最近全く聞いてないかも。 かなり流行に疎いよね、私。 よし。 動けない間に少し流行を! 雑誌はお母さんに買ってきてもらって、金曜の夜は歌番組見て… っと、で、今は何しよう? 仕方ない。 ちょっと早いけど期末テストの勉強でもするか。 パラリと教科書やらノートやらをめくってみたけれど、 宿題以外の勉強なんて滅多にしないから調子つかめなくて続かない…。 しかも分からないところが沢山。 あーダメだ。 どーしよ。 うー … … … ポンッ わざとらしく手を打ってみたりして 携帯を引っ張り出して カチカチカチ メールを打った。 『こんにちは。 土曜日の体育祭で脚ひねった お馬鹿なちゃんです〜。 暇なので試験勉強を始めたのですが、 サッパリ分かりません。 ヘルプミー!』 よし!送信! 宛先は 「なーんかあったら先輩に相談しろよ〜。」 って言ってくれた真咲先輩! 母の日に家まで車で送ってくれた時、携帯のアドレス交換したんだよね〜。 あれから時々連絡とっていたのだ! ホントお兄ちゃんになって欲しい。 あ、電話来た! 「もしもし、真咲先輩!」 「おー!びっくりしたー。ワンコール終わる前に出ると思わなかったー。」 「あはは、すみません。暇なんですよー。」 「、怪我はどうなんだ?慌てて電話しちゃったぞー。」 「右の足首を捻挫しただけですよ〜」 「よ〜って…痛いくせに…。 あー、で、勉強な。 オレなー、直感型だから人に教えるのって出来ないんだよなー。 だからな、過去問無いか探してみっから今度の土曜で良いか?」 「やったー!真咲先輩様・様・様〜!ありがとう〜!」 「おー。じゃ、オレ配達の途中だから、もう切るな。しっかり治せよー。」 「はい、じゃ失礼しまーす!」 やった! 先輩がOBで良かった! 体育祭から1週間後の土曜日。 捻挫の痛みも大分引いた。 テーピングしていれば 普通に歩けるようになった。 放課後、電話で約束したとおり、 駅の近くのファミレスに集合して 真咲先輩から3年前のプリントをもらったり 教科書で出そうなところをチェックしてもらったりしたんだ。 「、部活もいいけど、勉強もしといたほうがいいぞー」 「はーい」 「返事だけはマルだなー」 「えへへ」 その後は、 先輩の高校生時代の話を聞いたり 若王子先生の話で盛り上がったり バイトの苦労話を聞いたり。 「…そんでよ、その有沢ってヤツが厳しくてなー、 いっつも怒るんだよなー」 「怒られるって事は、先輩が悪いんじゃ…」 「なんだとー。………まあ、半分ぐらいはそうかもなー。はは…」 「ああ、落ち込まないでくださいよ〜」 「………、はははー、冗談でしたー」 「もう!先輩!」 真咲先輩はとっても話しやすい。 自然と笑顔になっちゃう。 きっと先輩の周りにいる人はみんな笑顔なんだろうな。 それから更に1週間後、私はやっと部活に復帰した。 2週間ぶりにそ〜っと走ってみた。 シューズがトラックに絡みつくような感触が嬉しい。 しばらくはテーピングで固定して 徐々に筋力を戻して リハビリしないといけないから 思いっきり走れるまでにはまだ時間がかかるけど。 ちょうど試験1週間前だったから部活も早く終わる期間で、 試験中も部活は無いから あと2週間はゆっくりじっくり戻していける。 早朝ランニングは試験が終わってから復帰しよう。 きっとムキになってしまうから。 そしてようやく期末試験が終わった! 真咲先輩のおかげでどうにか赤点無しでクリア! しかも、 しかもだよ! 100番以内に入ってる! ビックリだよー! 絶対下の方だと思っていたから。 先輩の教えてくれたポイントがすごく良かったんだ、きっと。 お礼しないと! バイト中かな? でもすぐに伝えたいな。 メールしとこ。 『To:真咲先輩 おかげさまで試験100番以内に入る事ができました。 先輩ありがとう! 今度お礼させてくださいね。』 なんか、即効で返信来た。 暇なのかな? 電話すればよかったかな? 『To: おー、良かったな! 先輩も嬉しいぞ。 礼なら花火の時に出る屋台のドネルケバブサンドをおごってくれー。 去年食べたソースの味を確かめたいんだ。 どうだ?』 『To:真咲先輩 了解です。 ところでドネルケバブサンドって何ですか〜? あんまり高いのは無理です!』 『To: ドネルケバブサンドってのは、 ……… 当日のお楽しみだ。 じゃあな。』 ドネ…サンドってなんだろう? 美味しいのかな? 駅前に17時集合…って言ってたのに、真咲先輩まだ来ない。 暇だな〜。 あ、あの人の浴衣、白だ。 屋台でお好み焼きとかたこ焼きとか食べれないなーあれじゃ。 あ、アッチの人はピンクか。 浴衣にピンクってのはちょっとどうなんだろう? …やっぱり浴衣着てきた方が良かったのかな? 周りを歩いている女の人の多くは浴衣を着ている。 でも、私は、いつものカジュアル。 なんか、浮いてる? いやいや、普通の格好の人もいるよね? 浴衣が目立つだけだから多く見えるんだって。 と自分に言い聞かせて 先輩まだかなーって辺りを見回していた。 「あれ?あかり?」 ちょっと離れたところをあかりが歩いていた。 声をかけようっかな? いや、待て。 一緒に歩いているアレは 「志波勝己?」 なになに? あの二人はデートか? なんか浴衣とか着ちゃってるよ。 二人で。 「へ〜」 あかりにはすごく話しかけたいけど、 志波勝己とは話したくないから、 遠くから観察することにしてみた。 あかりがいつもの笑顔で話しているのに 志波勝己のあのムッとした表情はいつもどおり。 「ああ…」とか「いや…」しか答えていないっぽい。 あかり、楽しいのかな?あんなのとデートして。 「」 やめといた方がいいぞぉ! 「ちょっとそこのお嬢さん」 あかりにだったらもっと良い男がいるぞぉ!きっと! 「っ!!」 「わっ!びっくりした!真咲先輩?!」 「なーにひとりでブツブツ言ってたんだ? 向こうに何かあんのか?」 「いえっ!…な、なんにもないです」 あー、ビックリした。 声かけられているの気が付かなかったよ。 あ、真咲先輩もカジュアル。良かった。 「悪かったなー、遅くなっちまって。 だいぶ待たせちまったな。」 「良いんです良いんです! 人間観察して暇潰せたので、大丈夫!」 「人間観察……って、おまえ、おもしろいなー」 「ふつうですよ〜。さ、早速行きましょうよ! えーと、ドネ…???」 「ドネルケバブサンド」 「どねろけばばさど」 「ブッ。言えてねぇよ。。」 「あー、もう良いんですっ!笑わないでください。 行きましょう。どっちですか?」 「はははー。よし、行こう。 あ、そーだ。 今日は遅刻したからオレがおごるな」 「えー?大丈夫ですよ、お礼だから私のおごりで」 「じゃー、ドネルケバブサンドがオレで、 おまえはジュース。これでどうだ?」 「良いんですか?ホントに? わかりました。 行きましょう! お腹すきました!」 「よーし、こっちだ!」 ドネ……サンドはとっても美味しかった! ジュースはタピオカマンゴージュースにした。 どっちも普段はお目にかかれないし 雰囲気もプラスされてすごくすごく美味しく感じた。 「よーし!腹もふくれたし、行くか!」 「えー!もう帰るんですか?」 「なに言ってんだー? あ、、食べに来ただけって思ってたのか? 花火大会なんだから花火見に行くに決まってるだろー」 「ああ!そうだったんですね?私、屋台だけかと…」 「そんなわけあるか。さあ、行くぞ!」 「はい!」 帰りは、またまた先輩の車で家まで送ってもらっちゃった。 ショッピングモールの駐車場に停めるのに時間がかかって遅刻したって帰りの車の中で言っていた。 勉強を教えてくれたお礼のつもりが 逆に楽しませてもらって おごってもらって 送ってもらって ちょっと申し訳ないな〜とも思ったけど 先輩も楽しそうだったから良いのかな? 「また何かあったら遠慮せずに相談しろ?」 って言ってくれた先輩。 本当に優しいな。 お兄ちゃんってこんな感じなのかな? Next→ Prev← 目次へ戻る |