12.遊園地 |
「〜、今度の日曜日ひま?」 「はるひ〜、うん、ひまだよ。部活無いの〜」 「あのね〜、遊園地いかへん?チケットもらったんよ」 「わ〜、行く行く!」 「ほんま〜、よかった〜」 「わたしも〜、うれし〜」 な〜んか「〜」を多用したりして こういう風になにげな〜く おしゃべりで遊べちゃうのが い〜な〜、楽し〜。 で、日曜日。 遊園地の入り口で待ち合わせ。 さくさく準備して余裕を持ってバスに乗ったら一番に着いちゃった。 しかも待ち合わせ時間の30分前…。 さすがに早すぎた〜。 次のバスが到着する。 あれ? あの赤い頭の人は、 確か、 D組の針谷だったよね? ふーん、針谷も今日は遊園地か。 友達か? 彼女か? ちょっと離れて観察しちゃお。 あとではるひに報告しなくっちゃ。 また次のバスが到着する。 降りてきた人達の中に頭一つ飛び出したでかいヤツ発見…。 うげっ。 今日はD組の集まりなのか? 今バスから降りてきた志波勝己は針谷の所へ寄って行った。 真咲先輩との約束だったから、 機会があれば野球部勧誘しようと思っていたのに、 あの野球観戦の日以来、 朝は抜かされるだけだし、 学校では接点無いし、 結局話はしてないんだよね。 あれからもう1ヶ月近く経っているのに、 真咲先輩に何も報告出来ない…。 ふーん、志波勝己と針谷って仲良しなんだ。 なんか会話が盛り上がってるみたい。 あ、笑ってる。 なんか微妙な笑い方だけど。 へー、笑うんだ。 初めて見たかも。 そしてまた次のバスが到着した。 「はるひ〜!!」 待ち合わせ10分前、 到着したはるひは すんごい可愛い洋服で めちゃめちゃラブリーです! 「おはよ〜、!もう来てたん?」 「えへへ、早く着きすぎちゃった。早速行く?フリーパス?」 「あ、待って待って。えーっと、あ、いたいた!」 「へ?」 行くよ!と言いながら針谷の方へ歩いていくはるひ。 え、もしかして…? 「は、はるひ!」 とはるひを引き止めて聞く。 「もしかして、針谷を誘ったの?」 ほっぺ赤くして可愛い顔して頷くはるひ。 いや〜ん、もう頑張ってるな〜、はるひってば。 応援しちゃうよ、ホント。 でも でも 「あのー、はるひ?志波君も誘ったの?」 「志波やんはハリーが誘ったみたいやな。 うちは「誰かもう一人誘っておいて」てハリーに言っただけやねん」 私からの質問が終わったと思ったのか 再び二人のもとへ歩き出すはるひ。 カンネンしてついていく私。 今日は、はるひのために耐えよう。 協力しよう。 他は … 目をつぶろう…。 まずは色々聞き出す作戦だ! 「針谷っていつも休みの日は何してんの?」 「バンドのライブとか練習とか打ち合わせとか曲作ったり詩書いたり、んな感じ」 「ハリー、ライブやるん?行ってもええ?」 「おー、いいぜ。今度は文化祭だ」 「わ、絶対行く!楽しみやわ〜」 「っつーか、!ハリーって呼べ!」 「えー、やだよ。体育会系は苗字か名前の呼び捨てって決まってるの!」 「針谷の誕生日っていつ?」 「んだよ、そーいうお前はいつなんだよ」 「え?私?いつだったかなあ」 「なんで言わねーんだよ!」 「言ったら笑われるから…」 「はあ?言え!でないとオレ様の誕生日は教えねー」 「10月10日…」 「ぎゃははは!元祖・体育の日かよ!おまえっぽい!」 「くくっ…」 かっちーん!何故志波勝己まで笑うんだ? 「うー…、私の教えたんだから、皆も教えてよね!」 「うちは、5月15日」 「オレ様は12月19日」 「…11月21日」 うー、みんな結構普通じゃん。 あたしだけ? 変なの? 「針谷ってその髪どこで染めてんの?美容院?」 「秘密」 「お母さんにやってもらってるとか」 「ばっ!ちっげーよ!バンドの仲間とだよ!」 「慌てて否定するところがあーやーしーいー」 「おまえっ!」 「あはは、あーやーしーいー」 針谷、面白い! 乗り物に並んでいる時に 私が針谷に話題を振り、 それに答える針谷に はるひが混ざって、 3人で盛り上がる。 はるひは、もうずっとほっぺがピンクで可愛い! 志波勝己は話を聞いているのかいないのか眠そうな目。 時々笑ったりするから聞いているかしらん? で、いざ乗り物に乗るときは 針谷とはるひをペアにさせるため 私は志波勝己と乗る。乗らねば。 我慢我慢。 わざとらしくないようにするのが難しい。 「ジェットコースターは一番後ろが怖くて面白いんですよね? 志波君一緒に乗りましょう」 って、ジェットコースター乗ったり、 「あの、志波君? 真咲先輩からメールで預かっていた メッセージを見せたいので 一緒に乗りましょう?」 って言って、メリーゴーランドの馬車に乗ったり…。 実際はそんなメールもらってないんだけどね。 馬車に乗り込み、 メールを探す振りをして 実はメール作成。 ふふふ。 パシャ 写真撮って即効真咲先輩へメール!! ぎゃはは。 メリーに乗ってる志波勝己! 貴重映像! 「…なっ!」 ってちょっと怒ってたけど 知らないも〜ん! 気にしな〜い! ちょっと遅めのお昼は、 売店で焼きそばやたこ焼きなど色々買い込んで 外にあるテーブルで食べた。 はるひと針谷が買出しに行っている間、 アイツと場所取り。 「…」 「…」 無言。 はあ。 空気重い…。 仕方ない…。 「あの、野球部考えてみました?」 「むりだ、しつこい」 「真咲先輩がうるさいんだよ。 「どうだー?」とか 「だめかー?」とか」 「おせっかいなヤツ」 真咲先輩ー!私には無理ですー! って今すぐ叫びたい! 「って、なんで志波やんには敬語なん?」 「え?」 突っ込むな〜はるひ〜。 それは友達と認識したくないからです。 とは言えず、 「そう?気がつかなかったー、あはは」 と嘘笑い。 「そーいやそーだな。初対面なのに、オレ様にはなれなれしいくせしてよっ!」 「だって針谷は」 友達になれそうだし、と言うのは飲み込んで 「面白いし」 「なにー!オレ様のどこがおもしれぇっつーんだよ!」 「そうやってイチイチ反応するとこちゃう?ハリー、つっこみの才能あんなあ」 「んなわけあっか!オレ様はミュージシャンだっつーの!」 聞いてるのか聞いてないのか 気にしてるのかしてないのか サッパリ分からない表情の志波勝己。 私の中の誤解は真咲先輩に話を聞いて溶けたはずなんだけど、 それで即日「友達」になれるわけない。 友達ってお互い「信用できる」ってこと。 針谷ははるひが好きになった人、 少々ガキっぽいところがある、 反応がすぐ返ってきて面白い、 でも話をしてみて裏表無さそう、 だから友達。 志波勝己は… あれ? アイツってどんな性格だろ? 思いつかない…。 そっか、 自分で観察したことなかったな。 面倒だけど少し見てみるか…。 「おい、志波!食べ終わったらニガコクだかんな!」 「…オレだけか?」 「仕方ないだろ!夏しかお化…やってねえんだからよ」 「…あっちに心霊病棟オープンって書いてあった」 「な!」 「ニガコク、だろ」 「ちっ…順番決めっぞ! おいっ! 観覧車と、し、心霊病棟、どっちから行くか決めろ!」 「じゃあ心霊病棟」 「うっ」 「くくっ」 「「?」」 「ねえねえ、ニガコクって何?」 なんでも苦手克服委員会なんだそうだ。 針谷が委員長で、志波が副委員長、顧問が若王子先生?! 二人とも苦手が遊園地にあるらしい。 どうして志波が今日遊園地に来たか不思議だったけど 針谷とどうして友達なのか不思議だったけど そういう理由があったのね。 「!おめえの苦手は何なんだよっ?」 「教えませ〜ん。 人に弱点教えられませ〜ん。 絶対言わないもんね」 「いつか暴いてやるかんな!」 新しいアトラクション「心霊病棟」の前。 入口でもたついてた針谷とはるひを放っておいて 私は志波勝己を引き連れて先に入ってみた。 うふ。 うっふっっふっふっふっ。 結構好きなのよね〜!オバケ系! それ系のテレビ番組とかよく見るし、 ホラー映画とか本とかも大好き。 しばらく進んで行ったら、後ろから聞こえる悲鳴! でも、 あれは、 はるひじゃない…。 「くくっ」 「あれ針谷だよね…情けない…」 あっけなく出口にたどり着いて、 ちょっと拍子抜けして、 私のランキングでは中の上ぐらい。 「…、平気だったのか?」 「あーいうの大好きなので…」 「へえ…元春と同じか…」 「え?そうなの?今度聞いてみようっと! あ、はるひ達来た!」 さっきまで何回も悲鳴を出していた針谷は、 はるひの背後霊みたいに はるひの後ろにぴったりくっついて出てきた。 まだまだ克服はできていないようだね。 でもはるひは嬉しそう! 「つ、次は志波の番だかんな!」 と言ってハリー先頭で連れてこられたのは観覧車。 志波の苦手が観覧車? 4人でも乗れたけど、 そんな野暮なことはできません! はるひ達を先に乗せて、 志波と次のゴンドラに乗った。 この静か〜な乗り物のどこが苦手なんだろう? スーっと青くなっていく志波。 ??? よく分からないけど 折角だから 私は外の景色を楽しむことにした。 山の下の方に広がる平野、 流れる川、 その向こうに見える海、 傾きかけた太陽の光が反射してキラキラ光ってる。 「結構遠くまで見えるんだ〜」 って感動して言ったのに 返事もしない志波。 「ねえ!見てみなよ!」 「…いや、…いい…」 なんなの? と思って見ると頭を抱えて足元を見てふるえている。 もしかして もしかして 高所恐怖症??? 「あはははははははは!」 おかしい。 おかしすぎる。 この大きな体で。 高所恐怖症! 「…笑うな」 と言いながら私の顔を睨む志波。 でも、笑いがとまらない。 いや、更に笑っちゃう。 だってその目が助けを求める子犬みたい! 笑いがとまらない私が嫌だったのか 今度は顔を覆ってうつむく志波。 そういえばコイツの頭が私の目線より下にあるのは珍しい。 つむじが見える。 とたんに可愛く思えて 子犬を撫でるみたいに頭を撫でてみた。 クシャクシャ ナデナデ ポフポフ ワシャワシャ 嫌がる様子も見せないし、 というか、 ずっと顔を覆って下を向きっぱなしだったので 嫌なのかどうなのか分からないけど、 されるがままになってた。 「間もなく地上です。お忘れ物の無いよう…」 アナウンスに我に帰り慌てて手を引っ込める。 今、私、何を? 無言のまま先に降りていく志波勝己は 夕日のせいなのか 地上に降りた安堵からなのか 少しだけ頬を赤くしていた。 一日たっぷり遊んで楽しかった〜。 無表情の時が多く、 それに比例して会話が少ない たまに喉を鳴らして笑う 高所恐怖症 志波勝己観察の収穫はそれぐらい。 分からない所だらけ…。 ま、次に話す機会があったら、 (あんまないだろうけど) 敬語ぐらいはやめておいてやるか…。 Next→ Prev← 目次へ戻る |