13.文化祭


文化祭の1週間前、
久し振りに貴大からメールが来た。

夏以来。
あの時は甲子園で気分が高ぶって
それでメールしてくれただけで
もう後は無いんだろうなって思っていたから
今回のメールには本当にビックリした。





『To:
 頑張ってるか?試合は出たのか?
 俺は3年が引退した後、少しずつ試合に出てる。
 秋季大会の予選でも投げさせてもらった。
 神宮まで行けなかったけどな。
 ところで来週はね学は文化祭だろ?
 友達が見たいっていうから連れて行っても良いか?』



わあ!内容もビックリだよ!

文化祭に来るって…
来るって…
ほんとに?

私が案内するってことだよね…?

お友達…が頼んだからなのかな?
一高は男子校だから共学に興味があるのかな?

「あ…」

志波の事、どうやら誤解だったらしいって
貴大に伝えておいた方が良いのかな。

校内でもしバッタリ会ったりしたら…。

うーん、でもワザワザ知らせる必要もないのかな。
「なんでワザワザ?」みたいに思われるかもしれないし。

うーん、なんでイチイチこんな事気にしてるんだ、私?

先に面倒なのが良いか
後で面倒なのが良いか

うーん…
うーん…
ううう、えーい!面倒なことは先に済ませちゃえ!

貴大に
午前中は当番だから午後からなら案内できる、ということ、
はね学に志波勝己がいた、ということ、
志波勝己の事件は誤解だったらしい、ということ、
今は野球部に入っていない、ということ、
を長々と書いて返信!

誤解については真咲先輩が言っていたとおりに書いてみた。
上手く伝わるか?

貴大からの返信は

『To:
 当日12時に校門へ行く。
 じゃあまた』

これだけ。

志波の事については何も触れていない。

気にしていないのか
気に障ったのか
分からないけど…
言うだけ言っておいたんだから、
ま、良いよね!
後は知らない!







文化祭当日。

前日までの準備は部活であまりできなかったので
当日の係は精一杯やらせていただきますっ!

私のクラスは喫茶店。
係はウェイトレス。

部活三昧だった私は一度もバイトをしたことが無い。

肉体労働ならまだしも
ウェイトレスなんってもってのほか!

そんなわけで、
手際がすごーく悪くて
今、何故か、佐伯に怒られていた。

!グズグズするな!
 2番テーブルとっととさげて次のお客さん案内しろ!」
 それから、5番のオーダーまだ?
 あ、ついでにこれ8番テーブルへ持ってけ!」

「ちょっと佐伯!そんなに一度に聞けないよ!」

「口ごたえするなっ!」

うるさいなー、ぶつぶつ…

さん?何か言った?」

うわっ!黒っ!

「いーえー、何も言っていませーん。
 やれば良いんでしょ、やれば。
 っていうか、佐伯、いつもの猫っかぶりしなくて良いの?」

「ねこ…っ!
 な、何のことかなぁ?
 ぼくには分からないなぁ。
 あははは。
 ところで、さん?
 はやくやってもらえるかなぁ?
 あ、田中さぁん!きみは、こっちをあれして…」

バカだ…佐伯…。
先生!ここにバカがいまーす!







「ふー!終わった終わったー!後は遊ぶだけだ〜!」

午後の係と交代して、約束の時間に校門へ向かった。





うわあ。
本当に貴大がいる!

ちゃんと顔をあわせて会うのは本当に本当に久し振り。
普通に話できるかな?
なんか胸がドキドキするよー。
顔があつい〜。



「貴大!いらっしゃい!」

、久し振り」

「うん、久し振りだね」

久し振りに見た貴大。
初めて見る一高の冬服姿。
学ランなんだ〜、ウン、似合うかも。

「あ、こいつら、同じ高校の野球部のやつら」

です。よろしく!」

「タカの彼女?」

「可愛いじゃん、お前一人だけ幸せもんかよ!」

「ええ?!違…」
「良いだろう!羨ましいか?」

私が違うって言う前に、貴大が肩を組んで来て言い放った。

ええ?!

いや付き合ってないし。
むしろ破局してたし。

「なんだよー見せびらかしやがって!」

ちゃーん、タカなんてやめて俺と付き合おうよー」

「お前らじゃダメダメ!シッシッ!」

ええええ?!
なんか貴大キャラ違いますけど〜?
こんな軽い感じじゃなかったと思うんだけど。
なんか変わった?
別人?
いやいや。
貴大だよね?
なんか。
ええええ?



そんなテンションで学校内をまわりはじめた。

ただでさえ学ランが目立つグループなのに
一高の野球部って誰かが気が付いて、
注目を浴びまくり。

貴大は気にすることも無く
友達とやりあいながら
私の頭をポスポスしたり
肩を組んでくる。

なんとか貴大の手を引き剥がして離れてみても
別の話題でまた肩を組まれてしまったり…。

どうしたら良いのか
嬉しいよりも
いきなりすぎて
そのテンションについていけず
頭がグルグルになっていた。



とりあえず、
自分のクラスに案内して
売り上げ貢献して
それで落ち着こう。

と思っていたけど余計注目されて落ち着かないっ!

ちょうどはるひがウェイトレス係をやっていた。

「なになにー、の友達なん?」

「うん、中学の同級生の鈴木貴大」

「あたし、西本はるひ。よろしゅーな」

「こちらこそよろしく。
 西本さんって可愛いね。
 な、お前らもそう思うだろ?」

「うんうん、声がいいな」

「関西弁がキュートだよな」

「は?あは、あはは、おおーきに。
 ちょっと、、良いかなあ?」

って裏へ引っ張って行かれて…

!鈴木君はあんたの彼氏なん?」

「ち、ちがう、かな」

「ならええけど、あんな軽い男絶対だめだよ!
 うち、鳥肌立ってしもうた…」

「わっほんとだ!
 あー、でもー、昔はあんな軽くなかったんだけど…」

「とにかく、だめだめ!」

「はあ…」

本当に貴大はどうしちゃったんだろう?




その後、お友達二人は別行動(ナンパ?)するといって
クラスの前で分かれた。

貴大と二人で中庭へ移動しようと廊下を歩きだしたら
階段の近くに志波とあかりを発見。

志波は、壁にもたれて深刻そうな顔。
あかりは、志波の前で真剣な顔。

うわぁ、なんだか近づいちゃいけないような雰囲気が…。
Uターンした方がいいかな。
でも中庭に行くには階段をおりないと。
ごちゃごちゃ考えながらノロノロスピードダウンしていたら

、階段こっちなんだろ?早く来いよ」

と、貴大に手をつかまれ引っ張られる形に。

あああ!貴大の声で二人がこっちに気が付いちゃったよ!
邪魔してごめんなさいっ!

「あ!ちゃん!ちょうどよかった」

「え、あ、あかりー?
 なーに?
 ちょうどよかった、って?」

「あのね、志波君調子悪いみたいなの。
 だけどね、私もう当番の時間だから行かないとダメで…。
 だからね、ちゃんが保健室に連れて行ってあげて。
 ね、お願い!
 じゃあね〜」

「あ、あかり〜〜〜?!」

行っちゃった…。

ああ、なんでか、あかりの「ね」は聞いちゃうんだよなぁ…。

それにしても調子悪くてあんな深刻そうにしてたのか。
紛らわしい。

まあ、放っておくわけにもいかないか…。

えーと、
とりあえず、

「た、貴大、ちょっと待っててね」

「ああ」

うわあ、なんかムスッとしてるよー。
もう、なんで、私が、こんなこと…。



「し、志波?
 えーっと、大丈夫?
 保健室行く?」

「…いや、いい。海野が大袈裟なんだ」

「そっか。まあ、志波には保健室似合わないしね。
 でも、ほんとにつらそうだけど、どうしたの?」

「…腹痛え」

「え?」

「…食い過ぎた」

「ええっ?」

食べ過ぎって言った?

コノヒトは?

「お腹痛いほど食べ過ぎって、どんだけ食べたの?」

「中庭の屋台、
 校舎内の喫茶店、
 はね額饅頭、
 食い物系は全部制覇したはず…」

「ぶふっ!ぶわっ!あははははははははは!!!」

うける!

アホだ。
先生!ここにアホがいます!

笑いが止まらない。
が、我慢できないいいい!

「あはっ、あはははは、あはっ!
 ひー苦しいぃいい!」

「…笑いすぎだ」

「だ、だってー!あははは、と、止まらない、ぐふっぶふっ」

「…

「うぷ。ごめんごめん…っくふふ」

あとで真咲先輩にメールしちゃおうっと!

「…元春に教えんなよ」

げ、読まれた!
でも、教えるけどー。

「…あいつ、放っておいていいのか?」

あ、しまった。
かなり貴大がムッとしてコッチを見ている。

「貴大、お待たせっ。
 なんか大丈夫みたいだから行こ!
 じゃね、志波!」

、ちょっと待ってろ」

「え?」

つかつかと志波によっていく貴大…。
いきなり殴ったりしないよね?!

「志波…勝己だよな。俺のこと覚えてるか?」

「………、三中のピッチャー?」

「鈴木貴大。と同じ三中出身。今は一高」

「一高…」

「俺は今年甲子園行ってきた。
 控えだけどな。
 お前は気楽そうで良いな。
 俺らの中学に勝った後、大会辞退して、それで引退かよ」

「…」

「た、貴大!それ誤解だって…」

説明したじゃんって言おうとしたのを
貴大は遮って

と俺はお前のこと嫌いだったんだよ、ずっと。
 卑怯者、勝ち逃げなんて許せない、ってな!」

「…そう、なのか??」

顔をしかめながら
つらそうな目で
私を見る志波。

「ち、ちがうの。
 あの、私は、もう、
 その事は誤解だってわかったし。
 もう嫌いだなんて事はなくって…」

「悪かった…」

ふいっと視線を逸らして
うつむいてしまう志波。

「志波、だから、違うって…」

話しかけても
もうこっちを見ない。

違うんだよ?
もう、私は、ほんとに。

「…、もう行くぞ」

貴大が私の手をつかんで
歩き出した。

「あ、でも…」

下を向いたままの志波は
全然こっちを見てくれなかった。





貴大に引っ張られて外に出て
中庭の屋台のはずれで
ようやく立ち止まった。

、志波のこと、もう嫌いじゃないんだな」

「うん、そう、かも。誤解って分かったから。メールに書いたでしょ?」

「どんな理由にしろあの大会が終わったのは志波のせいだろ」

「確かにそうなんだけど…」

「俺たちの敵だって言ったじゃないか」

「うん………」

そういえば、入学した当初は「敵」って思ってた。
真咲先輩に話を聞いたから変わったのかな…。

は志波と友達になったんだな…」

「友達…?」

確かに「敵」とは思わなくなったけれど
友達として信頼できる相手かって
そこまで達しているのかな?
貴大にはそう見えたのかな?

最初のテンションとは打って変わって
むすーっとしてしまった貴大は
友達と合流してさっさと帰ってしまった。

私はクラスの後片付けをしながら
なんだか熱が冷めたみたいな感覚で
ボーっとしていた。

中学の頃の私だったら
貴大がちょっとムッとしただけで
どうしよーって焦っていたのに
今は
別に
焦っていない。

何で?

今日久し振りに会えて嬉しかった、よね?
あ、でもウキウキしていたのは会う前まで?
あれ?
その後は?
キャラの違いにアタフタしていただけ?

今日の貴大は
私に会いに来たっていうより
友達に「俺には女友達がいる」って
自慢しに来ただけなのかも…って思えてきた。
もしそうだとしたら、なんか子供っぽい。
どういうつもりで来たんだろう?

それより
つらそうな目で見ていた志波を
うつむいたままこっちを見なくなった志波を
思い出す。

どうしよう。
また、自分のせいで、とか感じて
余計に野球部から遠ざかったら。

あの目が
あの姿が
頭から離れない。

どうしよう。






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