14.志波誕生日


『To:真咲先輩
 今日は文化祭でした。
 疲れたよ〜。
 ところでちょっとお話したいんですけど
 明日時間もらえませんか?』

文化祭の片付けの後、
家に帰って
ご飯食べて
お風呂入って
ストレッチして
やること全部終わって
ベッドにパタンと寝転んだら、
途端に今日の事が頭によみがえって来た。

いくら考えても
どうしたら良いのか、
うう〜ん
それ以前に自分がどうしたいのか、
何に困っているのか
分からなくなって、
誰かに話を聞いて欲しくて、
真咲先輩にメールしてしまった。

それに
先輩にも話しておいた方が良いよね。
中学の時の私の気持ち。
ついこの間まで誤解していたってこと。
ちゃんと話しておきたい。
先輩には…。

ゴロン。
メール送信して、
ねっころがる。
返事来るかな?
明日なんて無理かな。
はぁ。





「俺のせいでにも嫌な思いをさせたんだな…」

そうだけど

「嫌いなら俺にかまうな…」

誤解だって分かったから

「元春に何か言われたからなのか…」

今は嫌いじゃなくて

「悪かった…」

つらそうな目

「悪かった…」

うつむいた顔

「悪かった…」

志波は悪く



「ない!
 …
 …
 はぁはぁはぁ………」

夢?

自分の寝言で起きるなんて…。

「はぁ…」

午後10時。
そんなに長くは寝てなかったのか。
後味悪い夢。
夢でまで気にしてるなんて…。
はぁ。

あ、携帯光ってる。

『To:
 今バイト終わった。
 電話出なかったからメールしたぞ。
 急にどーした?
 明日は遅番だから2時ぐらいまでなら暇だぞ。
 10時ぐらいに迎えに行くってのでどーだ?』

先輩電話してくれてたんだ!
私、寝ちゃってたのかぁ。
悪い事しちゃった…。

『To:真咲先輩
 ごめんなさい、寝てました。
 ホントすみません!
 明日、よろしくお願いします!』







海岸沿いの駐車場に車を停めて

「ちょっと待ってろー」

と言って缶コーヒーを買って来てくれた真咲先輩。

「話があるなら、静かな方が良いだろ?」

と言って、車で連れてきてくれた。
先輩は優しい。
私がどうして欲しいのか考えてくれて
すごーく気を使ってくれる。

「なんでも聞くぞ。言ってみろ?」

って言ってくれた言葉に甘えた。

中3の時から色々あって
高校入ってからも
志波の事が嫌いで
敵だって思っていたこと。

でも、
本当の事を知って
今は全然そんな風に思っていないってこと。

みーんな話した。

「噂だけで判断していた自分が恥ずかしくって…。
 先輩、ホントの事教えてくれてありがとう」

「オレはなんにもしてないぞ。
 が自分で判断できたんだろ。
 えらい、えらい」

頭をワシャワシャやられて
頭も心もくすぐったい。





「それで、その中学の時の友達君、今はどうなってんだ?」

「それが…」

昨日の文化祭の話も全部した。

貴大から突然連絡が来て久し振りに会って
それで校内で志波と遭遇しちゃって
また傷を深くするような事になっちゃったことを。

「どうしたら良いですかねぇ…。
 野球部に戻すどころか、
 遠ざかるようなことになっちゃって…。
 私、全然、先輩に協力できなくって…。
 はあ、もう私には無理かなー…」

「こらー、
 自分で『無理』って思ったら
 本当に無理になるぞー」

「…う、でもー」

「まー、確かに勝己も意地っ張りな所があるからなー。
 『俺のせいだ』とか言ってな」

「私も譲らない性格だから
 かなり難しいような…」

「んー…
 確かに、そーだよなー」

「むうっ!先輩っ!」

「はははー。
 まー意地張ってるところ攻めても難しいんなら
 他からいくしかないんじゃないか?」

「ほか?」

「そ!友達と楽しいことして嫌なことは忘れちまう、とかな」

「あ、なるほど!
 さすが先輩、年の功ですね!」

「年は余計だろー」

「さっきの仕返しです」

「お、おぬし、なかなかやるな」

「へへーん、まいりましたか?」

「ははは、まいったまいった。
 まいって腹がへりました。
 めし行くか?」

「さんせーい!
 私も沢山喋ったらお腹すきました!」



真咲先輩と話すと
本当に気持ちが楽になる。
自分も優しい気持ちになれるような気がする。
気がするだけで変わってはいないんだろうけどね。







月曜日の朝。



タッタッタッタッタッタッ



いつもなら抜かされるだけなんだけど…
うー…
このまま気まずいのは嫌!

「あの!志波!」

「…なんだ」

「えっと、おはよう」

「…ああ」

文化祭の時の事をいつまでもグダグダしたくない!
スッキリさせたい!

「えーっと、
 あ、そうだ。
 お腹もうだいじょぶ?」

「ああ。晩飯は普通に食べた」

「えー?!そうなの?すごいね」

「別に…」



あー、話したいのはそんなんじゃなくって…



「先行くぞ」

「ああああ!
 待って!」

「ふー…、なんだ?」

「あの…!
 文化祭の時、
 貴大が言った事、
 謝りたくて。
 ………ごめん」

「なんでが謝る?」

「んー、
 ………だって、
 私もずっと誤解してて、
 勝手に志波を悪者にしてたから」

「それはオレのした事のせいだろ」

「違うよ!
 何も知らないで勝手に怒ってた私達が悪いの。
 志波のせいじゃない」

「『私達』………
 オレは知らない奴等にも迷惑かけてたんだな」

「だから違うって!
 みんな私みたいに誤解してるだけだよ。
 志波のせいじゃないから、
 だから、
 だから、
 その、
 この前みたいなつらそうな顔しなくていいと思う」

「つらそう…?」

「そうだよ!
 下向いて話聞いてくれなくなっちゃったでしょ」

「ああ、あれは………………」


???


「あれは?」

「…いや、気にするな」

「でも…」

「ふー…
 ………あんときは
 マジで腹がやばかった」

「へ?」

「…そういう事にしとけ」

「は?」

志波ムッとしてる?
それとも………笑ってる?

「先行くぞ」

「あ、うん」

とにかく、
あのつらそうな顔じゃなくなった。
分かってくれた、のかな?
とりあえず、普通ぐらいには戻れた?
良かった〜。







「針谷ー!おっす!」

「お、、おっす!」

「あのさ、ちょっと良い話があるんだけど」

「なんだー、お前なんか悪そーな顔してっけど」

「実は………」

「はは!それ良いな、にしてはナイスアイディアだ」

「じゃ、そっちはよろしく!
 こっちは任せて〜」

「おー、オレ様にまかせろ!」

ふふふ、作戦開始だ!





文化祭の次の週の日曜日の午後。
私はあるビルの下に来ていた。

「一番乗り〜!」

相変わらず、私って、はやく来ちゃうのよね〜。

「おっす!!」

「おっす!針谷!」

「他の奴らはまだか。
 オレ様を待たせるとは良い度胸だっつーの」

「でも、まだ、時間前だし」





〜、お待たせ〜」

「はるひ〜、大丈夫。待ってないよ〜」

「待ってたオレ様には挨拶なしかよっ」

「あ、ハリー、お待たせ…」

「はるひ、まだ時間前なんだから
 そんな恐縮しなくって良いと思うけど?」

もう可愛いんだからっ!





ちゃん!お待たせ!」

「あかり!………と佐伯?なんでいるの?」

「あ、ちゃん、私が誘ったの。
 なんか佐伯君、今日行くところ興味があるって言ってて」

「やあ、さん、西本さん、針谷君」

「針谷君って…気持ち悪いんだよ!
 ハリー様って呼べ、佐伯!
 オレ様はお前の師匠」
「あああ!
 針谷君〜?今日は何の集まりなんだっけ?」

「だから気色悪いっつーの!」

「佐伯、ここにいる皆、それ気持ち悪いって思ってるよ」

さん、何を言っているのか僕には分からないなあ」

「佐伯ピ〜ンチ!」

「何を言っているのかな?針谷君。
 ピンチじゃない。
 全然」





「待たせた」

やっと来た。
最後の一人。
本日の主役。

「志波、遅えっつーの!」

「時間ぴったしやん」

「それでもオレ様を待たせたことにはかわりない」

「あー、はいはい。じゃ、行くで!」



真咲先輩が編み出してくれた
『お友達と楽しいことして嫌な事を忘れちゃおう作戦』
開始です!



11月21日が志波の誕生日だから
ちょっと早いけど
この前の遊園地メンバーで
何かしたいってはるひに持ちかけたら
志波がケーキ大好きだって事を教えてくれた。

「志波やん、アナスタシアの常連さんなんよ。
 新作ケーキは必ず買ってく」

「じゃあさ、あそこ、新しく出来たケーキバイキングのお店。
 あそこに行くってのはどうかな?」

「それええな!」

「あそこなら、アレもあるし」

「アレか」

「そうそう、アレ」

「「ふふふふふ」」



そんな話で盛り上がって
今日は皆でケーキバイキング!

それにしても
このデカイ男が
目の前にケーキを山積にして
ムグムグ食べている姿、
おかしすぎるっ。

時々口直しに
サンドイッチやサラダを食べつつ
またケーキ。

自分で吟味して気に入ったのを取りに行く…
何種類も並べられたケーキの前で
真剣に選んでいる志波。
周りにいる人達も引いてる!
おかしすぎっ!

「…何笑ってる?」

「ぷふふっ。だって、志波とケーキ、似合わない」

「…っ。お前こそ、なんだ、そのシュークリームの山」

「えー、だって、シュークリーム大好きなんだもん。
 こっちのは皮がサクサクしててね、こっちのはしっとり。
 上に粉砂糖がかかっているのが可愛いのよね。
 カスタードにバニラビーンズが一番美味しいけど、
 生クリームが入ってるのもまた美味しいんだよね。
 で、こっちが抹茶クリームで、こっちがココアクリーム。
 それからこっちがキャラメルで、こっちが黒蜜。
 あ、ねえねえ、はるひ〜。
 アナスタシアのシュークリームってどんなの?」

「アナスタシアのは伝統を守って
 しっとり皮にカスタードやで」

「わー!それ!今度絶対買いに行く!」

!シュークリームだけでどんだけ語ってるんだよっ」

「…確かに」

「いーじゃん!本当に好きなんだからっ」

ちゃん、楽しそうだね?」

さんはいつも張り切っているよね。
 煩いぐらい…」

「なんか言った?佐伯?」

「いやー、何も言ってないよ。ね?海野さん?」

「え?あ、あのー」

「あかり!私より佐伯の味方するの?!」

「ええっ?あのー、えっと、
 私はちゃんの味方…です」

「佐伯の負け〜」

「「「あははははは!」」」





「さて、今日は志波の誕生日前祝いだったわけですが、
 私達からのプレゼントがもう一つあります」

「おー、そうだぞー!
 志波!行くぞっ!」

「どこへ…?」

訝しがる志波を全員で無理やり
押したり引きずっったりしてエレベータに乗せる!
ついた場所は
そう!
空中庭園!!

「ニガコクだ!志波!手すりまで行ってこい!」

「…む、無理だ」

「志波ー!早くおいでよ。海が見えるよー!」

「志波やん!ファイト!」

「…お前ら、これのどこがプレゼントなんだ」

「志波君って高いところ駄目だったの?
 じゃあ花火の時…ごめんね」

「…あの時は暗かったから」

「海野さん、花火って、何のことかな?」

「あああ、佐伯君、夕方から用事あるんじゃなかったっけ?
 私もバイトだから一緒に帰ろう、ね?」

「ごまかしたな…、あとで覚えてろ…」

「じゃ、みんな、私と佐伯君は先に帰るね!
 またね〜!」

あの二人、
前も一緒に帰らなかったっけ?
ちょっと怪しい。



「ほら、志波、行こうよ!」

「…手を引っ張るなっ!」

「ほらっ、志波っ、いこうよ!」

「…針谷、気色悪い、の真似するな!」

「志波やん〜、ファイト〜」

「…西本!押すな!!!」

「「「ははははははは!!!」」」

「…っ」



沢山食べて
沢山おしゃべりして
沢山笑って

相変わらず無口で
ちょっとしか表情を変えない志波だけど
作戦、ちょっとは成功かな?






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