19.スケート(後編) |
「結花、おまえスケートできんのか?」 「それが全然ダメなんです」 「そうか。よし! おーい、勝己! 結花に教えてやってくれー」 「なんで、おれが…」 「いいから、いいから。 オレは久し振りに思いっきり滑りたいの! 、おまえスケートは?」 「聞いて驚いてください、先輩! 私、小学校までフィギュアスケート習ってたんです。 だからかなりすごいですよ。 自分で言うのもなんですが」 「おー、じゃあお手並み拝見! じゃあな!勝己、結花! 疲れたら適当にスナックコーナーに集合な!」 「いきなり二人にして、結花たち会話できますかねぇ?」 「勝己はともかく、結花が話題ふってくれるだろ」 「それもそうですね。 だけど先輩もどうしてこんな時にこんな作戦…ぶつぶつ」 「ん?どうした?」 「いえ、別に」 せっかく今日はちゃんの恋を探そう作戦だったのに それが志波を野球部に戻そう作戦になるなんて…。 先輩のバカー! 「先輩、結花に志波のこと話したんですか?」 「いや、昔のことは、ぜんぜん」 「そっか。でも大丈夫そうなんだ」 「ああ。結花はマネージャーを地で行く性格だから大丈夫だろ。 人を見るのが得意で よく気が付くって感じだな。 噂話を詮索するようなヤツじゃあなさそうだ」 「ふーん、なるほど」 「勝己が中学で野球やってたってことと 今は訳があって部活に入ってないってことだけ 話しておいた」 「そっか。じゃあ、私はお役御免ですね」 「いや、からも頼む! 色々知ってるのはだけだしなー」 「んー、だって、結花の方が気が利くんでしょ」 「なんだー、、拗ねてんのか?」 「私、他人に気なんて利かせられないし」 「こらぁ、にはの良いところがあるんだぞ?」 「どこに…。 だいたい!先輩がいけないんですっ。 今日、志波や結花が来ること、 どうして言ってくれなかったんですか?」 「あー…、スマン。そうだよなぁ…」 「ああ、落ち込まないでください。 分かりましたから、協力しますから!」 先輩と何周も滑っている間、 志波と結花を何回も抜かす。 つい目がいっちゃうんだけど… 手つないで教えてるシーンに。 見ちゃうとドキッとする。 ヨロヨロの結花を 転ばないように支えてるだけなんだろうけど。 ドキッとするのは 友達同士が手つないでるのを見るのが恥ずかしいから? …私も下手くそだったら手つないでくれたかな。 あ、なんか、テンション下がってきた。 も、盛り上げなければ!!! 「先輩、競争しましょう、競争!」 「お、良いぞぉ」 「じゃ、行きますよぉ。 よーい、どん!」 スピード上げて滑れば 周りを見なくて済む。 人にぶつからないように アンテナだけピンとはって スイッとよけていく。 「はぁ、はぁ、はぁ…、マジで上手いなぁ」 「先輩、息あがってますよ。休憩しましょうか?」 「ああ…はははーなさけねー…」 スナックコーナーで 先輩とホットココアをすすっていたら 志波と結花もあがってきた。 結花は大分疲れたようでヨロヨロしてる。 志波も疲れたのかムスッとしていた。 「元春、交代…」 「なんだー?勝己、休憩しないのか?」 「滑り足りない」 「志波君、ゴメンね… 私が下手くそだったから…」 「桐野のせいじゃない。 行ってくる」 「あ、待って、志波! 滑るなら、私と競争しようよ」 そうだ、そうだ。 ふふふ、スケートなら絶対勝てる! 日ごろの鬱憤を晴らしてやる〜。 「…競争、良いぞ」 「勝利!」 先にゴールしてクルッとターンして 後ろ向きに滑りながらガッツポーズ! ううう、気持ち良い! やった! 参ったか! だけど追い付いて来た志波は全然悔しそうじゃなくて… 「なんで負けたのに悔しそうじゃないの?」 「…そうか?」 「そうだよ、もっと悔しがんなよ」 「の方が悔しそうだな」 「なんか納得いかない〜!」 クルッと前向きになってブツクサ滑っていたら すぐ後ろから 「なんならもう1回勝負するか?」 って聞いてくる志波。 でもその言い方が、 ムッとしている私を楽しんでいるようで さらに腹が立ってきた。 「ククッ…」 笑ってるし。 私が勝ったのに!なんでー?!ムカつくー! ドンッ 「うわっ!」 後ろで何かがぶつかった音と志波の声?? ドサッ 後ろから志波が転びながら 抱き付いてきた〜!? 「ひゃー!!!」 な、なにー? っていうか、支えられない〜! ベチョッ 転ぶというか膝をつく形につぶれてしまった私。 その背後にのしかかる志波。 志波の右手がガッシリ私の身体に巻きついて 左手は氷の上で倒れきらないように支えていた。 志波の顔が私の左肩に乗っかってる?! 「わ、悪ぃ…ぶつかられた…」 ビクーーーーーッ!!! 耳元で喋るなー!!! 気色悪いー!!! わーわー!!! ゾワゾワするー!!! 鳥肌がぁぁぁぁぁ!!! 「そ、そんなことより重いからサッサとどいてーっ!」 「あ、悪ぃ…」 やっとどいてくれて 重みが無くなって一安心。 ああ、でもまだ鳥肌が…。 「いたたた…」 立ち上がろうとして、呟いたら 「足を痛めたのか?! どっちだ? 前に捻挫した方かっ?」 慌てて足を触ってきた。 そんだけ大きいヤツに潰されたら 怪我しなくても普通に痛いでしょ。 でもその慌てっぷりがおかしくて、しばらく放っておいた。 「立てるか?」 「うーん?」 「手、貸せ」 「はい」 「リンクサイドまで行けるか?」 「うーん?」 「引っ張って行くからつかまってろ」 「うん」 「…いや、かついだ方が良いか?」 「だ、大丈夫!引っ張ってくれれば!」 「…そうか?」 「ベンチまで歩けるか? つかまってて良いぞ」 なんか、「全然大丈夫!」って切り出すタイミングを失ってしまって… どうしよ…。 「あのー、あんまり痛くないみたいだから もう1回滑ろうか?」 「捻挫は癖になると大変なんだ。 じっとしてろ」 「はあ…。 あ、じゃあ、結花と滑ってくれば?」 「元春が一緒だろ」 「まあ、結花も真咲先輩の方が良いか。 優しく教えてくれそうだし。 こんなムッとしている人に教えてもらうより…」 「…ムッとなんてしてない」 「さっきしてたじゃん、結花と戻ってきた時」 「してない」 「してるじゃん、今も」 「それはおまえがしつこいからだ」 「むーっ!あ、じゃあ、私はここで座ってるから 3人で滑ってくれば? 滑り足りないんでしょ?」 「もう足りた」 1回私と競争しただけで? よく分からないヤツだなー本当に。 「!オマエ怪我したのか!大丈夫かぁ…?」 「えっと、大丈夫だと思うんですけど…」 「帰り送ってやるからな」 「わーい!」 「おれが送る。おれのせいだから…」 「おーそっかー?じゃあ、勝己クンよろしく!」 「ええ?!真咲先輩の車がよかったなぁ…」 「勝己なら歩けなくなってもかついでくれるから大丈夫だろ。 じゃあ、オレは結花送ってくな」 「わ、良いんですか、先輩。 えーっと、、ごめんね?」 「別に結花が謝ることじゃないよ…」 「大丈夫だよ」って何度も言ってるのに 「黙ってろ」とか言っちゃって 転ぶと危ないからって 家までずーっと手を繋がされて歩いた。 ほぼ会話無し。 私は私で どんな理由にしろ どんな相手だとしても 男子と手を繋いで歩くなんて 初めての経験なので どういう反応をしたら良いのか分からなくて…。 しかも、足、そんなに痛くないし…。 志波は時々 「歩くの早くねぇか?」とか 「痛むか?」とか 「おぶった方がよくないか?」とか 「もっと体重預けて良いぞ?」とか 言う以外は なんだか難しそうな顔をして ひたすら前を向いて歩いているだけ。 ギスギスした空気も無いけれど ホッとするような空気でも無くて 体験したことの無い感覚。 なんなんだ?これは? それにしても 今日の志波は ムッとしたり 楽しそうになったり オロオロしたりで かなり面白かったかも。 手つないじゃったし。 相手が真咲先輩じゃなかったのが 計算違いというかなんというか。 まあ、でも、嫌な感じはしなかったし、 それにある事に気が付いたから…。 だけど、だけどさあ! 最初の目的が達成できていないじゃないか、私! こんなんで 私の恋は いつか始まるのでしょうか? ふう…。 Next→ Prev← 目次へ戻る |