21.プレ・バレンタイン


2月のはじめ。

貴大からメールが来た。

『To:
 正月ぶり。風邪ひいてないか?
 11日(日)、俺の高校、入試日で部活無いから
 遊びに行かないか?』

2月の2週目の連休は
周辺の高校のほとんどが入試日。
もちろん、はね学も。
貴大の高校も同じ日程だったんだ。

私も部活は無いし
特に予定も無いので
OKの返信をした。

貴大に対する気持ち…
前みたいに会う機会が増えれば
もしかしたら元通りになるのかもしれない、
なんて少し期待して。





2月10日(土)

放課後は明日の入試準備で部活は無し。

明日会う貴大の為に
ちょっと早いけれど
今日は準備作業です。

買い物は3つだけ!
チョコ、生クリーム、ココアパウダー!
以上!

ちょー簡単手作りトリュフが
中1から私の定番。

本当に簡単で
それでいて
今流行りの生チョコっぽい
柔らか〜い食感が好評!
だと勝手に思ってる。

14日に学校で配る分は13日に作るので
今日は貴大の分だけ。

チョコだけだと本当に簡単なので
包み紙にイラストを描くことにした。

貴大へあげるイラストは
一高のユニフォームにエースナンバー。
今年は本当にエースになっちゃうのかな?
上の学年がまだいるのに
そうなったら本当にすごい。





2月11日(日)

貴大に会う。
「ちょっと早いけど」と言ってチョコレートを渡す。
ゲーセンで遊ぶ。
二人とも体感ゲームが大好き。
カーレース、バイクレース、スノボ、自転車、etc。
とにかく勝負、勝負、勝負!

今日は冷やかす仲間もいないからなのか
貴大もフツ〜のテンションで
フツ〜にテンポ良く会話が弾んだ。

ドキドキというよりは…
中1ぐらいまで遡ってしまって
ただひたすら楽しむっていう感じだけどね。

自然に気兼ねなく会話できるって良いな〜って
なんか懐かしい〜って
そんな気分。

ゲーセンで遊んだ後は
てりうバーガーを食べた。

それから海まで行ってみた。

「さむーい!あははははは!!!」

「寒いのがそんなの楽しいかよ?」

「笑えばあったかくなるも〜ん。
 貴大もやってみたら?」

「ばーか」

「なに〜!」



「…この前、森林公園の近くで見かけた」

「え?私?」

「そう」

「えー?いつ?声かけてくれればよかったのに」

「…」

「?」

…志波と付き合ってるんだな」

「はい?なんでそうなるの?」

「手、つないでた」

「あ、あーーーーー!!!
 あれは、違うよ!
 あの時はスケートでちょっと足を痛めてそれで」

「スケートでデートか」

「ちがうって。二人じゃなくて何人かで行ったんだよ」

「本当に?」

「ホント」

「なんだ、そっか、焦った。
 俺さ、二人が歩いてるの見て
 すごくムカついた。

 文化祭に行った時も、
 俺のツレに言い寄られたり、
 俺の知らない奴等とか志波と喋ったり、
 そういうの見てたらイライラした。

 自分から手放したのに、取り返したくなって…」

「えっ…?」



???
どういう意味?

つまりー、
貴大は
中3の終わりに
私に「ごめん」したけど
私が他の人と親しげなのを見て…
…惜しくなっちゃったってこと?

逃がした魚はおっきい、みたいな?



は俺のモノって、
 それを他のヤツに分からせようと思って
 肩とか組んだけど…
 、迷惑だったよな?」



あー、それで。
文化祭の時とか、あんなだったのか。
納得、納得。

………

…って、落ち着いてどうする、自分!



「迷惑じゃないけど、
 驚いたっていうか…」

「そうだよな。
 ごめんな」

「ううん、だいじょぶ」

、本当に志波と付き合ってないんだよな?」

「うん。志波どころか誰とも…」

「なら、
 …
 俺と付き合えよ」

「えっ???」



ええーーーーーーっ!?!?
えっと、どうしよう?
え?返事?今するの?
ああああ、よく考えないと。
あれ?あれ?去年の私なら即OKなのに。
今は、どうして良いのか分からない。
パニック!!

こういう告白初めてだし、
初めてだから嬉しいのかもしれないし、
相手は確かに前は好きだった貴大だし…

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。

きゅーーーーー。

思考停止…



「なに面白い顔してるんだよ?
 まあ、今は、お互い色々頑張ってる時だから
 無理なのは分かってる。
 いつか…あ!その前に確認!
 俺の事…えーっと、
 嫌い…じゃないよな?」

「嫌い…じゃないけど…?」

「よしっ」

「よし?」

「ああ。
 いつか、夢をかなえて、
 気持ちが変わってなかったら
 付き合え。
 な!」

「あの…」

「さ、暗くなってきたから帰ろ!」

「あ…」



なんだか強引に話が終了しちゃったけど、
私まだ何も言ってないよ〜。
なんて返事していいか分からないんだけどさ…



「あ、そうだ。
 選抜出場決まったから
 正月に約束したアレ、忘れるなよ」

「あああ、
 そうだた、
 しゅつじょ
 おめでと。
 お祝い、
 もちろん、
 忘れてない」

、カタコトになってるぞ、普通に喋れ」

「はぁいぃ」



えーっと、
どうゆう風に話が終わったんだっけ?
なんか、貴大一人で自己解決してなーいー?

「嫌い…じゃない」
って言ったけど
それと付き合うってのは
まだ全然結びついてなくて
逆なら「好き」って訳ではナクテ…
キモチガカワラナケレバ

キモチ
って
何?
どれ?

私、告白されたのかな?
あ、でもスキって言われて無いかも。
ツキアエ?
ってなんだろう?



家に帰ってからも
ぐるぐる考えて
本当に足りない脳みそで考えて
でも足りないからやっぱり分からなくて
力尽きた…。





2/12(月) 建国記念の日

祝日だけど、昨日の事を夢に見ちゃって、
いつもと同じぐらい早く目が覚めて、
起きたら起きたで更に昨日の事をぐるぐる考えちゃって
いてもたってもいられなくなって
いつもと同じ時間にランニングに飛び出した。

冬の朝ってとっても寒いんだけど
吸い込む空気がとってもきれいな気がして
気分が良くなるんだよね。

吸って
吐いて
吸って
吐いて

一定のリズムで呼吸して
気持ち良いスピードをキープする。

森林公園は冬の風景で
木々は裸で寒そうだけど
地面に霜柱が光っていたり
池が少しだけ凍っていたり
そういうのを見ると
心が透き通ってくるような気がする。



タッタッタッタッタッタッ



あ、志波が来た。

「おはよ〜」

「…おはよ」

「志波、休日なのに走ってんだ?」

こそ…」

「私は、なんか、ちょっと変な夢で目が覚めて」

「へぇ…を起こす夢、すごそうだな」

「なんかバカにしてない?」

「いや…くっ」

「やっぱりバカにしてる…。
 ふぅ」

「なんだ?」

「なんだ?って何が?」

「ためいき」

「ああ…私も一応悩みがあるって感じで」

「へぇ…
 おれに話せる事なら相談にのるか?」

志波と手をつないでるのを貴大に見られて
それがぐるぐる考える原因になった、なんて
言えるわけがありません。

「それほど大した事じゃないからダイジョブ」

「そうか?」

「うん」

「おれに話せないなら
 元春に聞いてもらえばいいんじゃないか」

「あ、そうだね。
 真咲先輩なら、うん」

「………ふーっ」

「何?」

「なんでも…」

「そう?
 あ、そういえば、
 この前、スケートの時、アリガトね」

「ああ、気にするな。
 じゃ、先行く」

「あ、話しかけてトレーニング邪魔してごめんねー」

「…別に邪魔じゃない」

「バイバイ!」






邪魔じゃない、か。
じゃあ、またなんかあったら話しかけちゃおうっと。

志波と会話する回数は少ないけど
最近は自然に話せるのが心地良いんだよね。
はるひみたいにきゃっきゃするのとも違うし、
針谷みたいにおちょくるのとも違うけど〜〜〜
うん、違うタイプの友達なんだ、きっと。



あれこれ考えていたのが少しすっきりしたかな。
何も解決してないんだけどね。

もうメンドクサイから考えたくないっていうのが本音。

真剣に考えないと貴大に悪いのかもしれないけど
今すぐどうこうって感じじゃないしいいよね。
とりあえずおいとこう。
とりあえず…大丈夫だよね???

今日は一日みんなへのイラスト描きで過ごそう。
ずっと描いてれば頭マッシロにできるでしょ。




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