23.ホワイトデー
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あれから 貴大からは 連絡も来なくて 何もなかった時に戻ってしまったみたい。 春の選抜に向けて 練習が大変なんだろうけど 少し拍子抜けして 考えなきゃいけないことは 放っておいた。 3月に入った。 高校1年生もあと少しで終わり。 卒業式では陸上部の先輩達へ みんなで花をプレゼントした。 校内のあちこちで 「ボタンをください」 「写真一緒にとってください」 なんて光景が繰り広げられていた。 青春だ〜。 去年の今頃は 真咲先輩もこんな感じだったのかなぁ? あんなに優しくて素敵な先輩だから きっと沢山告白されてたんだろうなぁ。 ひな祭りはテスト前で部活も無い。 我が家にはるひとあかりを招待した。 テスト勉強という建前で、 ひな祭りの女の子パーティ! 「じゃーん!これがひな祭り限定の桃タルトー! それから、こっちがご所望のシュークリームやで」 「はるひー!ありがとう!愛してる〜! 早速紅茶入れてくる〜」 「私、お皿とフォーク用意するね」 「うん、あかり、よろしく」 「ふぉふぉふぁるふぉ、ふぉいひい〜〜〜」 「ちゃん、飲み込んでから喋った方が良いんじゃないかなぁ」 「…だって、美味しいんだもん」 「ー、慌てなくてもケーキは逃げへん」 「じゃ、シュークリームもう1個食べて良い?」 「食べすぎじゃないの?ちゃん…」 「甘いものは別腹なのー!」 「別腹にどんだけ入るん…」 「それより、ちゃんは誰に本命チョコあげたの?」 「せやせや、正月に悩んでたのは進展したん?」 「全然。今回はお友達オンリーでした」 「「なんだー」」 「なんで二人がガッカリするのよー?」 色々あったにはあったけど 自分の気持ちが進展したわけではないからね。 今日みたいな女の子パーティで コイバナが出来ないことが ちょっと寂しいちゃんです。 「の理想のタイプってどんなん?」 「そうきますか…。 えーっと、まずは、私より体力ある人でしょ」 「いきなりハードル高いね…」 「ほんま、そんな人そうそういてへんで」 「それから背が高くて 太ってなくて 顔があんまり濃くなくって 一緒にいて楽しい人」 「「楽しい?」」 「うん、あんまり喋らなくても良いから 一緒にいるだけで顔がニコニコーってなっちゃう人」 「それは、好きな人とおったら誰でもそうなるんとちゃう?」 「そうだよね。 それにしても、ちゃん、 最初の方の条件で対象がかなり狭まるよね?」 「うちらの仲良しの中だと一人しかおらんな」 「そうだね、志波君ぐらいだね」 「志波?」 志波ってそうだったっけ? 今私が言った条件に当てはまる? 出会った頃は「敵」フィルターがかかってたから そんな風に見たこと無かったな。 「せや、ぴったり当てはまるな、志波やんなら」 「一緒にいる時はどうなの?ちゃん」 「一緒にいることなんでほとんど無いから分からないよー。 あー、もう私の話は良いよ。 二人こそ、本命チョコ受け取ってもらえたんでしょ? その後進展あったの?」 「受け取ってもらえたんやけど、返事は特にないな… あ、でもな、時々やけど一緒に帰ったり、 この前はカラオケに行ったなあ」 「はるひ、それって良い感じじゃん! あかりは? あれ?そういえばあかりの相手って誰?」 「え?えーっと…」 「志波にもチョコあげてたよね?」 「志波君は違うよ。前にも言ったでしょ?」 「となると、あれか」 「せやな、あれやな」 「ちょっとー…二人とも『あれ』って…」 「で、どうなの?」 「うーん…水族館に行ったくらい、かな。 学校ではあんな感じだから一緒に帰るなんて難しいし」 「佐伯ってなんか澄ましてるよねぇ」 「それには色々事情があるみたいで」 「あかり、色々知ってるんだ。結構仲良いってことじゃん」 「そう、なのかなぁ…」 自分たちの話以外にも 若王子先生には恋人はいないのか、とか、 あの子はあの人と付き合っている、とか、 ガールズトークで盛り上がり 試験勉強なんてほんのちょびっとしかできなかった。 明日やろう、明日!! それでも期末テストは、 それなりに乗り切り それなりの位置に収まり 文武両道とまでは行かないにしても まあまあなんじゃないかな、私。 3月の女の子の祭典パート2! ホワイトデー! と言っても本命チョコをあげていない私には なんの関係も無いなぁ。 森林公園は少しずつ春らしくなっていた。 ホンワカとまとわりつく空気が 「春だな〜」 って気分を高めてくれる。 タッタッタッタッタッタッ 「…はよ」 「おはよう。 めずらしいねー、志波から挨拶って」 「…これ」 「なに?」 「礼、チョコの」 「え?良いの?ちょっとしかあげてないのに」 「良いから、受け取れ」 「ありがとう」 「じゃあな」 「あ…ちょっと待った!」 「なんだ?」 「えーっと、ちょっと一緒に走らない? あー、私とだとペース遅くてダメかな?」 「…良いぞ」 なんかちょっとムッとさせちゃった? 前に「迷惑じゃない」って言ってたし大丈夫、かな? ひな祭りのガールズトークを思い出して ちょっと志波を観察してみたくなって 呼び止めちゃった。 走りながら右横にいる志波をじっと見てみる。 気付かれないように、なるべく横目で。 うん、確かに背は高い。高すぎるぐらい。 体力は絶対私よりあるし 運動神経もかなり良いはず。 顔は… そういえばクリスマスの時は眠ってた顔を観察したな。 あのときに比べると 眉はキリッとしてるな。 目は切れ長で、 鼻はすっとしてて、 唇は厚くもなく薄くもなく、 うん、濃いっていう顔ではない。 なるほど、あの二人が志波ぐらいしかいないって 言っていたの、納得。 「おい」 「はいぃ?」 急にこっち向かれて焦る! ドキドキドキドキ 「…あんまり、見るな」 うわっ、気付かれていたのね…。 なんか最初よりムッとしてるぞ。 振り向いた顔をまたじっと見てみた。 ムッとしてるけど、 怒ってるというより困ってる感じ? 心なしかほっぺが赤いような… 照れてる、とか? まさかねぇ。 「ちゃんと前見て走れ。転ぶぞ」 「はーい」 「そろそろ行く。じゃあな」 「あ、お返しありがとねー!」 行っちゃった。 私が口にした「理想のタイプ」に近い、か。 確かに、見た目は。 でも中身は? うん、 まあ、 楽しい、 かな。 好き? 分からない。 あああ、変に意識しちゃいそうで嫌だ。 プルプルっと頭を振って 今度落ち着いて考えようっと。 あ、でも、結局私は面倒な事は 全部後回しにしているだけか。 色んなこと。 今度は本当にちゃんと考えよう…。 もらったプレゼントを見てみる。 ラッピングも何もしていないそれは、 木で出来た小さなうさぎの置物。 手に握ったまま走ってきたのか ほんのりあったかかった。 志波が自分で買ったのかな? そういうお店でウロウロしてたら目立つだろうなぁ。 あのデカイ体じゃ。 うさぎの置物に囲まれている志波を想像して ぷぷっと笑ってしまった。 面白すぎ。 何かもらえるとは思っていなかったから 少しビックリしたなー。 結花やあかりにも同じのをあげるのかな。 それとも、もっと、別のもの…? ちょっと、気になる。 校内は、バレンタインの時のような 表立った騒がしさは無いけれど いつもと違う空気がザワザワと流れている。 男の子も大変だ。 若王子先生からは頭脳アメを1粒もらった。 頭が良くなるなら期末テストの前に欲しかった。 佐伯はクッキーが3枚入った袋を配り歩いていた。 こういう律儀さが無いとプリンスにはなれないのね。 テスト明けにせっせと用意したのかな? 針谷は、のど飴を1粒投げてよこした。 自分が舐めた中でコレが一番良い、とかなんとか言ってたな。 他にも配ったチョコの分だけ 色々お返しをもらったけど 本命にはコッソリ気の利いたものをあげてるんだろうな。 それがどういう物なのかちょっと見てみたい気がする。 部活終わって帰ろうとしたら 駐車場にアンネリーの車を発見! 真咲先輩かな?って期待しながら しばらく車の近くで待っていたら 校舎の中から先輩が出てきた。 「真咲先輩〜!」 「おー、。部活は終わったのかー?」 「はい!先輩は配達ですか?ご苦労さまですっ!」 「はは、元気だなー、は。 あ、そーだ。ちょーど良かった。 これ、お返しな」 「わーありがとうございます。 あ、マシュマロ! この口でフワワーってとろけるのが美味しいですよねー」 「おー、食い物目の前にすっと幸せそーだなー、オマエ」 「え、あ、だって部活の後でお腹すいてたし」 「はははー、ところで、おまえ、 春分の日、暇か?」 「はい、その日は部活も休みだったと思います」 「じゃーさ、ボーリング行かねぇか?」 「わあ、行きます! あ…と、二人で?」 「実は、バイト中に結花とボーリングの話をしてたら 『今度連れてってくださいー』って言われてなー。 だから、また結花と勝己、一緒で良いか?」 「分かりました」 ガッカリしたような それでいて嬉しいような 変な気持ちになる。 真咲先輩となら 楽しく過ごせる事は分かっている。 2人でも何人でも。 野球部のこと「考えてみる」って言った志波。 それなら、きっかけとして 野球部のマネージャーである結花と 仲良くなっておいた方が 話はスムーズに行くに違いない。 だから、なるべく、 二人を仲良くさせておこう っていうのが真咲先輩の考えなんだろうな。 私もそう思う。 でも… 「じゃあ、アンネリーに戻ったら、 結花にも話しておくからな。 おまえ、勝己に言っといてくれるか?」 「え?でも、私、志波の電話番号とか知らないですよ?」 「ええ?そうなのか?」 「はあ、でも、ま、明日でよければ、 朝のジョギングの時か学校で言っておきます」 「ああ…あ、いや、教えてやるから、今日電話しといてくれ。 予定だけ確保しときてぇしな」 「はあ…いつもみたいに先輩が連絡すれば良いのに」 「男が誘っても嬉しくねぇだろ、勝己も。 それにオレは今日も労働で帰るの遅えの。 あ、勝己がなんか文句言ったらオレのせいにして良いからな。 じゃ、頼んだぞー」 のん気な感じでバイトに戻っていった先輩を見送って 自分の携帯を眺める。 赤外線でもらってしまった 志波の携帯の番号とアドレス。 本人からもらった番号じゃないと かけにくいんですけどー…。 家に帰って 迷惑にならないような時間を見計らって 自分の部屋のベッドに座って 携帯を手にした。 発信音が1回、2回… うー、ドキドキする…。 『…志波です』 うわー、なんか最初から怒ってます! 知らない番号からかかってきたら 確かに「なに?」って思うけどさぁ…。 『あ、えーっと、です』 『?どうして?』 うわー…、名乗っても不機嫌そうなんですけど…。 番号教えてないヤツから電話かかってきた、 とか思ってるに違いない。 先輩〜〜〜。 『あのー、真咲先輩に教えてもらって。 っていうか無理やり教えられて』 『元春…』 『うん、あの、ごめん、 本人から聞いてないのに電話して』 『いや、良い、気にするな。 で?』 『え?』 『何か用事があってかけてきたんだろ?』 『あ、そうだった、あのね、 先輩がボーリング行かないかって』 『………二人で行けば良いんじゃないのか?』 あああ、ドンドン声のトーンが落ちてます。 なんでボーリングに誘っただけで そんなに嫌そうな声になるのぉ? 『あのね、結花も一緒に行くんだよ。 だから4人が良いかなぁって』 『………わかった』 あれ? へぇ、素直になった。 結花って言ったから? ふーん…。 って心の中でつぶやいている自分。 チリリッて感覚が突然胸の中に湧いてきた。 そのまま電話してるのが なんだか面白くなかったし、 何か用か、って急かされてたみたいだし とにかく早く用事を済ませなきゃと思って 突然電話したことをもう一度謝り 真咲先輩に報告するから、と言って 電話を切った。 あーもーなにー!? このモヤモヤ! Next→ Prev← 目次へ戻る |