24.ボーリング

「うわぁーん!」

、おまえまたガーターか…」

「だってー!ボールがまっすぐ転がらないのがおかしいんですっ!」

「こら!ボールにあたるな」

………私、こんなに下手だったっけ?
良くて5本ぐらいしか倒せない。

「ククッ…、オレたちの勝ちだな」

わ、笑われた…。
もーやだー!

「勝己、結花、ちょっとの特訓させてくれー。
 そんで、その次、も1回勝負だ」

「まだやるのか…」

、頑張ってね、クスクス」

「結花〜、私、もうダメ…」

「ほら、、やるぞー」

「ううぅ…」



3月21日春分の日。
ボーリングにやってきました。

真咲先輩と志波はアナスタシアのケーキを賭けるとかで
それならペア勝負ーって事になってしまった。

男女わかれてグットッパでペアを決めて
私は真咲先輩と組む事に決定。

交互に投げるルールで始めたんだけど…。

真咲先輩はめちゃくちゃ上手で
ストライクもスペアもバンバン出しちゃう。

だけど、先輩がいくら上手くても、
その前後に投げるのが私だと
全然得点にならない。

本当に申し訳ない…。
だから特訓でもなんでも受けますよー、はい。

「もうちょっとボールを軽くすっか」

「はーい…」

「次は投げ方。
 ちょっとやってみな」

「はーい…
 えいっ!」

「あー、分かった。
 おまえ力いっぱい投げようとするから
 変に腕をひねってまっすぐ行かねぇんだな」

「だって、いっぱい倒すには
 力がいるんでしょ?」

「ある程度はなー、でも、力は良いから、
 まっすぐ投げるところからだ。
 いいかー、こうやって−−−」

せ、せ、せ、先輩?

背後から右手首をつかまれて
構えから投げるところまでの
動作を補助された。
恥ずかしい、
すっごい出来ない人みたいで恥ずかしい。

これはボーリングというスポーツのコーチなんだ。
そうだフォームを教えてもらっているだけだ。
………っでも、やっぱり恥ずかしい。

だって、さっきから
背後で志波と結花が見てるよー。
きっとあきれてる…。

「分かったかー?」

「ほえ?」

「ほえ?じゃねえよ、頼むよ、ー。
 も1回説明するから。
 こーして、こう。で、手はひねらないでまっすぐー。
 分かったか?」

「はい…」

「あと、狙う時はな、ピンじゃなくて、
 ほら、そこにある印、あれを狙うんだ。
 やってみ?」

「はーい…
 まっすぐー」

「うーん、まあまあかな」

「ほへーっ…。先輩、ちょっと休憩したい…」

「おお、じゃちょっと休憩してリベンジだ。
 勝己と結花も練習して良いぞー」

はぁ〜。
部活とは全く違う疲労感が…。
久々のボーリングで
自分が下手くそで
それで疲れるってのもあるんだけど…。

この間からのモヤモヤというか
すっきりしない気分が
なんだか増幅していて
それで気が張るというかなんというか…。





それにしても…
結花ってちょっと色っぽいかも。
学校では制服やジャージだし
バイトの格好もラフな上にエプロンだし
スケートの時は厚着してて分からなかったけど…。
今日の服、
ブーツカットのパンツに
お姉さん系のカットソー。
背も165ぐらいあるのかなぁ。
スタイルも良いなぁ。

それに比べて私ときたら
普通のジーパンだし。
ただのTシャツと
モスグリーンのパーカーだし。
いつもこんな格好なんだけどね。
動きやすいし楽だから。

飲み物を買いに来た自動販売機のところから
そんなことを考えていた。

「先輩、結花って可愛いですねぇ。
 女っぽいっていうか。
 男子ってみんなああいう感じが良いんですかね?」

「みんなかどうかは知らねえけど、
 多少はそういう方が嬉しいかもなー」

「そうですか…」

「そんな事気にするってことは…
 さては、好きなヤツでも出来たか?
 兄ちゃんに教えなさい」

「なんでそんな話につながるんですかっ?」

「みてくれが気になるって事は
 誰かに自分を良く思ってもらいたい
 ってことだろ?」



誰かに?
自分を?

誰に?



スペアをきめて笑う結花。
ほんのちょっとだけ笑い返す志波。
ハイタッチする二人。

楽しそうにしている二人を見ているのが嫌になって
手の中のペットボトルに視線を落とした。

私がぺアだったら
同じことしてくれるのかな?
笑ったり、タッチしたり…。

良いなぁ…

…って、あれ?なんで?
何これ?



ポフッ

頭に優しく乗せられる手。

「なんか悩んでるんだったらいつでも相談にのるぞ?」

「ありがとう、先輩」



その『悩み』が今一はっきりしなかったんです、先輩。
でも、もしかして、私…。





リベンジマッチの前にお手洗いタイム。
手を洗いながら結花と話をする。

「結花ってきれいだねー」

「えー?だって可愛いじゃない」

「結花、そのぉ…、
 もしかして、
 今、好きな人いる?」

「好きな人いるよ。
 なかなかうまくいかないんだけどねー。
 は?」

「私?
 好きな人………、
 いる、
 みたい」

好きな人いるってきっぱり言った結花。
だから私も、というか、
結花には言っておこうって思ったのか、
自分でもビックリしてしまう事を言ってしまった。

好き、なのか。
私、
志波を。

そう思ったら
ボワワッって顔が熱くなってきた。

わーわーわー。

、顔赤いよ、可愛いわね〜。
 そんなに思われて相手の人はきっと幸せね」

「えー?でも、私は多分片思いだし。
 それに自分の気持ちを言ったことも無いし」

というか、今、気が付いたばっかりだし。

それに、言えない、よね。
だって結花もそうなのかもしれないから。
志波も、もしかしたら…。
バレンタインの日、一緒に帰って行った二人。
あれから一ヶ月以上経ってるのだから
もしかしたら何か進展してるのかも。

あ、モヤモヤした気分の原因はこれだったのか…。
好きだって思った相手が
誰か別の女の子を見てるかもしれない
っていうのが嫌なんだ。





「また同じペアでやるのか?」

「なんだー勝己、を引き取ってくれるのか?」

「ちょっ先輩それ…いくら私が下手くそだからって…」

「はははー、冗談だ。
 せっかく特訓したんだからこのままやるぞー」



真咲先輩の特訓のおかげで
いきなりガーターって事はなくなったけど
なんかもう全部先輩にフォローしてもらって
それでも点差が開いてくから
本当に申し訳なくて

「先輩、ホントにすみません、下手で」

「さっきよりずっと良くなったぞー。
 もう勝負は良いから、最後楽しめ」

「はい、ありがとうございます」



相変わらずモヤモヤは消えないけど
さっき自覚したばかりの気持ちを確かめたくて
顔を上げて
志波を見る。

真剣に狙う目、かっこいいかも…。
ストライク出してちょっと笑うところも良いなぁ。
だ、だめだ…私、おかしくなってる。
顔が熱い。

今、一緒に喜ぶ相手が私じゃないのが嫌だなぁ…。
あ、もしかして志波が野球部に戻ったとしても
一緒に喜ぶ相手は私じゃないのか…。
うわーへこんできた。



「どうした?」

真咲先輩は優しいなぁ。
自分がどうしようもなくなると
気が付いて声かけてくれる。

「大丈夫ですー。
 ちょっと眠いだけ」

「お子様だなー、おまえは」

「えへへ」

こんなの私らしくないって気合入れて
一生懸命上向いて
なんとか最後まで頑張った。
負けちゃったけどね。





ボーリングの後は
ケーキを食べにアナスタシアへ移動。

私はケーキの味とか形も覚えていないほど
頭の中が大変なことになっていた。

新しい気持ちが嬉しくて急浮上したり
ネガティブな事考えて急降下したり。

そんな気持ちを落ち着けたいから
早く一人になりたいーって思ってみたり、
でも楽しんでいるみんなの時間を
壊すのは嫌だから我慢したり。

それに少しでも志波を見ていたかったから
頑張って踏みとどまっていた。





だけど、
アナスタシアを出て、
真咲先輩が全員送ってくぞー
って言ってくれた頃には、
私の頭は本当にいっぱいいっぱいで、
胸の中は
ドキドキや
モヤモヤや
チクチクや
その他色々が
グルグルしていた。

自覚した途端におかしな感覚に包まれて、
ジッとしているのがもどかしくて…

もう限界!
よく耐えた、私!

「あの!
 私、買い物してきたいので歩いて帰りますね!
 先輩、今日は楽しかったです。ありがとうございました!
 結花、志波、またねー」

みんな「?」のついた顔してたけど、
もう解散だし、良いよね。

スタスタ歩いて、
角を曲がって。

ゆっくり走り始めた。

風。

走る時に正面から来る風。
もっと欲しい。

この辺りで思いっ切り走れる所は…あそこかな。

身体をほぐすようにゆっくり走る。
頭の中や心の中もゆっくりほぐれていく。

「好き」

小さい声で言ってみる。
たった2文字の言葉なのに…すごい。
呟いただけで顔が熱くなる。
心臓がドキドキする。



夕方の海
ほとんど人はいなかった。

海岸に降りて
裸足になる。



走る

走る

走る



気持ち良い!

「ゴールっ!」

トラックと違うけから
感覚だけど、
100mを走り抜く。

振り向く。
今度は靴と荷物の所まで。

「Go!」

何回か往復して
砂の重さに
さすがにバテて
砂の上にゴロンと転がって
目をつぶった。

「はあっはあっはあっ…」

気持ち良い!

「あははははは…」

楽しい!

「好き」

顔がニヤニヤしちゃう。

志波は誰か好きな人いるのかな?
付き合ってる人とかいるのかな?

結花なのかなー。
今日は結花が来るから志波も来たのかな。
それともD組に誰かいたりして。
中学の同級生とか?

「ダメダメ!」

せっかく良い気分なんだからネガティブはダメ!
まだ何もしてないうちからマイナスに考えちゃダメ!

あーでも、これからどうしよう?
急になれなれしくするのも変だよね。
でも、今まで通りじゃつまんない。
いきなり「好きです!」とか言えないし
「好きな人はいますか?」とか聞けないし。

まず、朝は必ず「おはよう」して、
それから、もうちょっとしたら
ど、どこか誘ってみる?

「うーん………」

目をつぶったままウンウンうなっていたら

「…おい」

え?!ええーーーーー?!
色々想像していた相手の声が急に降ってきて
慌てて起き上がって目を開ける。

「海の砂でも買いに来たのか?」

「あの、どうして、ここに?」

「『ようすが変だったから見てこい』って。元春が」

「先輩が…。
 あ、あの、最初から見てた?」

「いきなり走り出したと思ったら
 転がったまま動かなくなったから焦った」

バカみたいに走ってたの見てたんだ。
声は聞こえてないよね。
さすがに。
ダイジョブだよね?
つぶやいてただけだし。

一応心配して来てくれたのかな?
真咲先輩に言われて、なのか。
でも、嬉しいかも。
今は二人だし。

ポンッ

「わっ、なに?」

「おまえ、砂だらけ」

頭や背中の砂をはらってくれる志波の手。

気持ち良い。
だけど
頭から湯気が出てるんじゃないかってぐらい
顔が熱くなってきた。

夕焼けで世界が真っ赤でよかった。






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