25. April Fool's Day
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「私って少しは可愛い?」 ボーリングに行った日の夜、 机の上に鏡を置いてにらめっこ。 「髪型変えたら雰囲気変わるかな?」 何をしてるのかって? だって、だってさー、 明日の朝にはまたジョギングで会うんだよ〜。 べ、別にいつもと同じでも良いと思うんだけど でも、でも〜! まず手っ取り早くなんとかなりそうなのが髪型。 洋服は買い物に行かないとどうにもならないから。 運動する時邪魔にならないようにという理由で いつもポニーテールだった私。 ただおろしてるだけだと走るとき邪魔だよなー。 アキバ風に二つに結ぶとか………似合わない。 巻いてみる?…いやぁ、こないだあかりと話してた姫子先輩みたいなのはすごすぎでしょ。 はるひみたいに前髪を止めるか… うーんそれだと耳の上の髪が邪魔だな。 じゃ前髪と耳の上の髪と全部合わせて後ろでとめるか。 うん、これなら前と横は邪魔にならないぞ。 部屋の中でぴょんぴょん跳ねて確かめてみる。 うん、後ろだけサラッと弾んで良い感じ。 でも、いつもの黒ゴムじゃダメだ。 可愛いやつ…青いビーズ玉が付いてるやつ。 きれいなんだけど結ぶとき髪がからまるから使ってなかったんだよね。 よし! これでとりあえず明日の朝はOK!OK! 明日から春休みで 朝しか会えないから ちょっとは気にとめてもらえると良いなぁ。 明るく明るく。 「おはよう!!!」 「あ、ああ…」 て、テンション高すぎた?! 「その髪…いや、なんでも…」 ボソッと何か言っていた言葉が聞き取れなくて 私は「?」マークだったんだけど それから毎日、 桜咲きそうだね〜、とか 今日は良い天気〜、とか 今日は少し寒い〜、とか 昨日部活で若王子先生が〜、とか 「じゃあな」って言われるまで 何でも良いから喋るようにした。 志波は 「ああ」 「へぇ」 「だな」 ぐらいしか答えてくれないけど 聞いてくれてるみたいだし 時々「クッ…」って笑ってくれたりすると それだけで「やったー!」って思ってしまう私。 ほんのちょっとの時間だけど 1日1回声が聞けて顔が見れて 大満足の春休みが過ぎていった。 ラッキーなのは 雨が降らないこと! お天気の神様に感謝! 4月1日 今日は貴大の誕生日だなぁ。 朝のジョギングに行く準備をしながら ボンヤリ思い出した。 昨日、選抜大会の3回戦で 負けてしまった貴大の一高。 先発ピッチャーとしてマウンドに立って 7回まで1失点で頑張って交代。 交代したピッチャーも頑張ったけれど 逆転できず負けちゃった。 市内全体がテレビを見てため息をついたんだろうな。 お正月にした約束 「甲子園で投げたらお祝い」 誕生日プレゼントは一応用意したけど 昨日の今日じゃ戻ってきても忙しくて会えないよね。 ジョギングから帰ったらメールしてみようっかな? 話しておきたい事もあるし。 「おはよう!」 「おはよ…」 「桜満開だねぇ。 それに今日は昨日に比べて暑いよねぇ? あ、そういえば、 はるひが明日花見しようって言ってたんだよー」 「オレも針谷に誘われた」 「じゃあもしかして色んな人に声かけてるのかな?」 「たぶん…」 うわあ一緒にお花見だー。 嬉しい! はるひグッジョブ! あ、はるひとあかりに報告した方が良いのかなあ? 色々話聞いてもらってたしなぁ。 うーん、でも 「好きな人ができましたー」 っていうのもどうなんだろ? 「付き合うことになりましたー」 ってわけじゃないし。 ま、機会があったらでいっか。 今日も一緒に走る。 幸せ。 このままでも良いなぁ。 告白して気まずくなるのは嫌だし、 今のところ志波も良い感じに話してくれるし。 ぽーっと志波の横顔見ながら走ってたら 「…おい、あれ、の友達じゃないか?」 「あれ?貴大?」 なんで? こんな朝からこんなところに? 貴大に近付いたところで、走るのをストップした。 志波も一緒に止まってくれた。 「貴大?どうしたの?」 「に会いに。 朝は森林公園で走ってるって言ってたから」 え?会いに?って? 「い、いつ戻ってきたの?」 「昨日の夜」 「あの、甲子園お疲れ様。テレビで応援したよ」 「でも負けた」 「あ…、でも、貴大はちゃんと頑張ってたでしょ?」 フォローしても昨日の事だし無駄かな。 試合に負けた次の日… 私が同じ立場だったらまだ立ち直れない。 ましてや貴大の負けず嫌いは私よりもスゴイ。 目が赤いのは きっと悔しくて悔しくて 眠れなかったからなんだろうな。 「…、なんで志波といるんだ?」 はい? そっち? 負けた事心配してた私は何? そっちなの?なんか不機嫌そうなのは? 「あ、朝のトレーニングでたまたま時間が一緒みたいで…」 「付き合ってないって言ってたのは嘘だったのか?!」 「嘘じゃないよ!」 「だったら…」 「きゃっ!」 いきなり腕を掴まれて引っ張られて、 その勢いで貴大にぶつかってしまった。 ぶつかったまま貴大に抱き締められた。 「ちょっ!離して!」 押し返してもビクともしない。 志波が見てる。 やだ!離してー! 「なんで泣くんだよ、。 俺の事が好きだったろ。 誕生日祝ってくれるんだろ?」 「………離し…て!」 フッと力が抜けて 離してくれると思ったら 後頭部を髪の毛と一緒に掴まれて 顔を上向きにされて… 貴大、こわい顔してる。 顔が降りてくる。 顔そむけようとしても頭を掴まれてるから動けない。 「や…だっ」 キスされちゃうって思って 目をギュッとつむった瞬間 強い力に引きはがされて 次に目を開けた時は目の前に壁があった。 「やめろ…」 この壁、志波の背中? 「おまえには関係無いだろっ。 を返せ!」 やだ、行きたくない、と思って 志波のTシャツをギュッと掴む。 「関係ある………付き合ってる」 ええ? 志波、何言ってるの? 「なに?本当なのか?!」 「ああ。 こいつ泣かせたおまえ許さない」 「…っ!!こっち来て説明しろよ!」 「やだっ………!」 「!」 「行かないっ………!」 「………っ、 分かった、もう良いっ!」 貴大の走っていく足音が遠ざかる。 安心して力が抜けた。 もっと涙が出てきた。 志波の背中にひっついたまま。 「うーっ…ひっく、うっうっうっ」 「おい…」 「う…っく…」 「1回離れろ…」 「っ…ご…ごめん、め…わく…だね」 そうだよね。 迷惑かけてる。 志波にとっては全く関係無い事だったのに。 なんとも思ってない相手にくっつかれたら嫌に決まってる。 さっきの自分と同じように。 「違う。迷惑じゃない。こっち来い」 右手をつかまれて連れて行かれた大きな木の下。 「ほら、泣くならここで泣け」 「こ………?」 「さっきの場所は人が通る」 「………うぅ…っ…えぐっ」 「背中…が良いか?」 背中? 「それとも前…いや、 さっきそれを嫌がってたしな… やっぱり背中か…」 何をブツブツ言ってるのか分からなくて、 立ったまま泣いてた。 「………うぅ…ひっ…く」 「っ………どっちでも良いか」 クイッと引っ張られて志波の胸にポスッとぶつかる。 そっと頭に手が乗ってポンポンされる。 「前で大丈夫か?」 ああ。 前…ってそういう事か。 大丈夫って聞いたのは、 さっき貴大に同じ事されて泣いたから? 大丈夫、という返事の代わりに 志波のTシャツをキュッとつかんで 額を押し付けた。 「オレは余計な事したんじゃないか? 邪魔、したとか…」 「ううん…ありがと」 「…いや。 あ…、さっきあいつに言ったこと」 「さっき?」 「ああ、付き合ってるってやつ…」 「あれ…?」 「今日は四月馬鹿だから」 「あ、そうか…」 そうか嘘だったんだ。 そうだよね。 「あいつが変な気おこさないよう 騙したままにしておけばいい」 「じゃあ、貴大にはそういうことにさせてもらうね。 ごめんね、ありがとう」 「でも、あいつ、またに会いにくるんじゃないか?」 「う…そうかも」 「もし会う事になったら一緒に行ってやるから」 「ええ?!でもこれ以上迷惑…」 「迷惑じゃない」 「じゃあ…、そうなった時にはよろしくお願いします」 「ああ、わかった」 頭のポンポン、気持ち良い。 志波の胸、あったかくて気持ち良い。 あ、心臓の音聞こえる。 一定のリズムで聞こえてくるその音が気持ち良い。 サラッ 頭ポンポンの手が 髪の毛を梳かしてる。 ああ、さっき貴大に掴まれて ぐしゃぐしゃになった所だ。 心臓の音を聞きながら 髪をさわられて 心地よくなって 涙もすっかり止まったんだけど もったいないから もちょっとこのまま…。 Next→ Prev← 目次へ戻る |