26.お花見

おっはなみっ!

午前中部活があった私は
飲み物調達係でーす!

学校の帰りがけ
烏龍茶、炭酸飲料、オレンジジュースの
大きなペットボトルを仕入れて
森林公園の集合場所へ。

おー!みんな来てる来てる。
お弁当並べてあるー!!

「はるひ〜あかり〜久し振り!」

ちゃん元気だった?」

「元気そうやな〜は」

「あ、針谷、オッス!
 佐伯もオッス!」

「ウイーッス!
 おい、
 ハリーと呼べっつってんだろ!」

さんはいつも元気だね…無駄に」

「なんか言った?佐伯ク〜ン?」

「げっ、気持ち悪いからやめろ」

「ふんっだ!」

一番挨拶したい人が
一番後回しになっちゃう。
なんて声かけようかな〜って考えちゃうから。
えっと…

「志波も、オッス…」

「ああ…」

今朝もランニングで会ったんだけど
昨日あんな事があったからなのか
あんまり喋れなかったんだよね。
むしろ、昨日の事が無かったかのように
いつも通りのテンションの低〜い志波だったというか…。

急接近!とかちょっと期待したのにな。







貴大には昨日の夜メールした。
返信は無いけど。

片思いだけど好きな人ができて
バレンタインの時に言ってくれたこと
今は考えられない、ごめんね、
って。



メールで言うような内容じゃないのに
会うのはちょっと怖くて
電話でもしっかり言える自信が無くて
送信ボタン押しちゃった。

昨日みたいな事になる前に
きちんと貴大に言っておけばよかった。
貴大の事嫌いになるわけはないけど「好き」とは違うって。

メンドクサイって思って
真面目に考える事をサボってた私のせい、全部。
本当にゴメンね、貴大。







、その後ろでチョロチョロしてるのはなんやねん?」

「ああ…、えっと…、そのぉ…」

「やや!みなさんおそろいですね!
 楽しそうだったから、つい、見に来てしまいました。
 あ、これ、飲み物でーす」

「げっ、若王子、なんで来るんだよ!」

「若ちゃん、友達いてへんの?
 花見は大人の友達同士でやればいいやん!」

「あの、なんだか、歓迎されていないようなので
 先生、これで、失礼します…」

「待ってください、若王子先生!
 よかったら一緒にどうぞ?」

「あかりはええ子やなあ」

「みんなー、ごめんね。
 部活の時にうっかりお花見の話したら
 ついていくってまとわりついてきて…」

「まとわり…って、先生は静電気じゃありませんよ、さん」

「まぁ、しゃーないな。特別やでー若ちゃん?」

「はい!よろしくお願いします。先生、嬉しいです!」

「どっちが先生なんだか…
 ところで、この豪華なお重箱、誰が作ってきたの?
 はるひ?あかり?」

「それなぁ、ハリーのなんよ。
 うちらのは、こっちのおにぎり、デザート、お菓子」

「えー?!針谷、すごいね?」

「言っとくけどな、オレ様が作ったんじゃないからな!
 オフクロに無理やり持たされちまったんだよ…」

「モグムグッ、へーそうなんだ、
 とりあえずいただいてまーす!」

、なに勝手に食べ始めてんだよっ!
 っつーか、人の話、聞けよ!!!」

「聞いてるよー、針谷のお母さ〜ん!ありがとございまーす!!」

ゴックン、あーおいし!





「んじゃー、いっちょやるぜ、ニガコク対決!
 志波、おまえからだ!」

「………季節外れに満開になる桜の下には死体が…」

「うわーーっ!!」
「げっ………!!」

「最後まで話すな!
 っつーか、佐伯、おまえもか?」

「え?何のことかな?あはははー」

「よし、おまえもニガコク入れてやる」

「いいよ、僕は。
 そもそもニガコクってなんだよ、
 意味がわからない」

「苦手克服委員会、略してニガコクだ。
 おい、佐伯、このまま志波に負けてもいいのか?」

「負け………針谷、志波の苦手はなんだ?」

「知りたいか?」

「…よし、分かった。
 行くぞ、志波!
 灯台裏の断崖の縁に手をついて腕立て伏せ!!」

「うっ………」

「よっしゃ!佐伯、さすがオレ様の弟子!」





「みんな同じクラスになるといいね」

「ホンマやなぁ、あ、そうや!
 若ちゃん、知ってるんやろ?」

「だ、ダメです、言えません」

「ちょっとだけ、
 お花見混ぜてあげたやん!
 教えてえな〜!」

「ダメです〜」

「はるひちゃん、先生をいじめちゃだめよ」

「あかりはほんまに優しいなぁ…」

「いじめるんじゃなくて、
 優しく言えばいいと思うの。
 …
 ちょっとだけ教えて下さい、若王子先生、ね?」

「う、海野さん………だ、ダメです!」





ニガコク対決ってなんのためにやってるんだろう、とか
あかりのおねだり攻撃はいつ見てもすごいなぁ、とか
思いながら私はボンヤリ桜を見上げていた。

満開のピークは過ぎて
散り始めている
このタイミングの桜が大好き。

ハラハラ〜と散る花びらが
どれも同じ動きをすることなく
風に乗ったり
地面に落ちたり
そういうの見てると
本当に飽きない。

桜が1ま〜い
桜が2ま〜い
桜が3ま…ふわぁあぁぁぁ…
ポカポカで気持ちいい………







ふわっ!どんだけ寝てた?
っていうか、私、いつの間に横に?
あ、足にかけてあるの誰の上着?
あれぇ?さっきまでココにいたはずのみんながいない?!

寝ぼけた顔でオロオロしてたら
「ククッ…」
と笑い声。

「志波、いたんだ。
 あのー、みんなは?」

「飲み物とか買い足しに行った」

「志波は?」

「荷物番」

「ふーん」

「…」

「…」



き、気まずい…。
話しかけづらい。
何か話題、何か話題、何かないのー?

ダメだー、無言の時間が長すぎてタイミングがつかめない。



「桜、きれいだな」

「そ、そうだね」



「はい?」

「大丈夫か?」

「え?何が?なんで?」

「元気ない、ように見える」

「そう?いつもと同じだと思うんだけど」

「いつも…バカみたいに笑うだろ」

「バカ………って何よ!」

「そのまんま」

「むーっ!」

「クッ、すごい顔…」

「す、すごいカワイイ顔ってことでしょ!」

「…」

「そこで固まんないでーっ!」

「…ククク」

「人の顔見て笑うなんて失礼な!」

「………そういう方がっぽいな」

「はあ?」



ああ、そういえば、
気まずい雰囲気が無くなったかも。
ウダウダしてた私が元気なく見えたのかな?
昨日のことで落ち込んでるとか思われてたのかな?

私もこういう風にポンポン喋れる方が良いな。
何喋っていいか分からない〜ってなるよりは。



「やや、楽しそうですねー」

「ほんま、良かったー」
「ほんと、良かったね」

「え?何が良かったの?」

「だって、ちゃん、
 いつもよりおとなしかったからちょっと心配だったんだよ?」

「そうや、なんか眠れないことでもあったのかなあって」

「えー!全然、そんな事ないよ。
 心配かけたのなら、ごめんね。
 桜見てボーっとしてただけだよ」

「オレ様の言ったとおりだろ!
 シュンアカだって」

「シュンアカってなんだよ。
 意味わかんないよ」

「はーい!先生分かりました!
 春眠暁を覚えず、ですね?」

「でも、それ、春は眠るのが気持ちよくって
 朝になった事に気が付かないって意味でしょ?」

「「へー」」
針谷、はるひの声が重なった。

「春は眠いって意味じゃねぇのか?」

「うちもそう思うてた」

さんって意外と物知りなんだね」

「佐伯ク〜ン、意外とって何よ!」

「うっ…その呼び方…頼むからやめてくれ」

「ははは!私の勝ちー!」






こんな感じ。
こういうのが楽しいよね。
みんなでワイワイ出来る感じ。

告白して、もしダメだったら
こういう雰囲気が壊れちゃうわけだし
高校生活まだ2年もあるのに
志波とも皆ともギクシャクしちゃうのは
やっぱり嫌だ。

だから、今は、このままでいいや。

だって、ほら、志波も笑ってるし。

しばらくは、このままで。
それが一番いいよね。
このまま、このまま。






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