29.G.W.

気が重い。

でも宿題やらなきゃ。

あーでもやっぱり気が重い。

いやいや、今日は決心したんだし。

あーでもー。



「…おはよう」

「!!!」

ビ、ビックリしたー。
グルグル考えてたら、来てるの気が付かなかった!
あ!
ああーーー!!
挨拶するタイミング逃した!!!
無視してるみたいになっちゃったよー。

「…」

「…」

「あの…」「なあ…」

「な、なに?」

「ああ…、聞いてもいいか?」

「ど、どぞ」

「このまえなんで怒ったんだ?」

「それはそのー、
 私のこと『そのままでいいんじゃないか』って
 言ったから」

「………悪い、
 それのどこで怒るか分からなかった」

「だってさ、
 背が伸びなくて悩んでる
 って話してる時に、
 チビのままでいいなんて言われたら怒るよ?普通は!」

「………ふーっ、なるほど、そういうことか」

「?」

「走り方」

「え?」

「フォーム………
 …きれい、だから、
 そのままでいいんじゃないか
 って言ったつもりだった」

「背のことじゃなくて?」

「言葉、足りなくて悪かった」

「あ、ううん!
 勘違いして、怒っちゃって…
 私のほうこそごめんなさい!」



あっさり解決しちゃった…



それに、
もしかして志波って
結構私の事見てくれてるのかも
って思ったりして嬉しいかも。

早めに話できて良かった…。
それもこれも真咲先輩のおかげだ。
うーんとお礼しないとなぁ。







ゴールデンウィーク幕開けは課外授業。
集合場所は臨海公園。
臨海公園で課外授業、
っていったい何するんだろう?



「おはようございます、みんな揃いましたよね?」

「時ちゃーん!若王子先生がいませーん!」

「え?あれ?そういえば、今朝はまだ見ていませんねぇ」

「時ちゃん、次から生徒の出席だけじゃなくて、
 若王子先生もチェックした方がいいぞー!」

「「「そうだそうだ!あははは!」」」

「うふふ、分かりました。次からちゃんとチェックすることにしますね」



「やや!みなさん早いですね?感心感心」

「若王子先生!遅刻ですよ。生徒にしめしがつきません」

「…すみません」

「もう!本当にしっかりしてくださいね」

「はぁい…
 ………では!行きましょうか!遊覧船!!」

「「「えー!」」」

「若王子先生!
 勝手に決めちゃダメですよ。
 今日は授業なんですから、
 生徒の自主性も尊重しないと」

「でも…ボクは遊覧船が…」

「あーもうっ…多数決とりましょうね、ね?」



「結局、遊覧船になるなら最初からそうすればよかったんです」

「たまたま多数決で決まっただけじゃないですか」

「いえ、ボクには分かっていたから」

「ええ?若王子先生って第六感みたいなものがあるんですか?」

「いいえ、ありません」

「はい?」

「ボクが乗りたいと思った。だから乗ることになるのは当然なんです」

「…つまり、なんの根拠も無いんですね?」

「うーん、根拠はありませんが…、
 時任先生、いいですか?
 物事には必然と偶然というものがありまして−−−」

「あの!…難しい話は後にして、
 とりあえず課外授業のテーマを生徒たちに伝えませんか?」

「ああ、それは時任先生にお任せします」

「えー?!もう………
 分かりました。
 はーい、みんな、聞いて下さい−−−」



時ちゃん先生、
すっかり若王子先生の扱い方に慣れてきてるなー。
見てて面白いや。

そういえば部活の時に若王子先生が
チラッと言ってたけど
本当かなぁ?

『時任先生のお酒の強さは超人的だ。あ、これは内緒ですよ』

あんな素敵お姉さん系なのに…想像つかない。
確か、あの日の若王子先生は二日酔いだとか言ってったっけ。
きっと酔いすぎて幻でも見たんじゃないかなぁ。

大人の世界は分からない。





それにしても海って見てて飽きないな〜。
このビミョーな揺れさえなければ…
あー、でも、風、気持ちいい!

あ、志波、はっけ〜ん。

「志波って課外授業とか来る人だったんだ?」

「1年の時は行かなかったな」

「どうして今年は来ることにしたの?」

「………」

「なに?」

「…いや、まあ、若王子先生だから、だな」

相変わらずコノヒトの思考が時々分からない。
なんでそれが理由なんだろ?
若王子先生ファンとか………?

ちゃん、志波クンも、ここにいたんや」

「クリスが課外授業来るなんてちょっと意外ー」

「あんな、ボク、いっつも赤点なんよ。
 そやから、授業だけはきちんとしとこ思うて」

「そうなんだ、偉いねぇ」

「偉い?
 偉いかなぁボク?
 ほんなら、ちゃん、ええこええこして?」

「あははは!面白い、クリス!オッケーオッケー!」

なでなでなでなで

「あーなんや元気でるなー」

「こんなんで良ければいつでもするよ?」

「ほんまにー?うれしいなぁ…あ!」

「どうしたの?」

「志波クンの目ぇから…」

「志波?」

クルリと振り向いてみたけど
スイッと横を向いてしまって
クリスが何を言っていたのか分からない。

「クリス、志波がどうかしたの?」

「気のせい…、やったんかなぁ………
 ボク、ちょっと船室で休憩してくる」

???
クリス、船に酔ったのかな?
弱そうだもんなぁ…。

「クリス大丈夫かな?」

「平気だろ」

「あ、なんか冷たい感じ。友達なのに」

「……、それより、来週行くのか?」

「もちろん!
 先輩達と遊びに行くのボーリング以来?
 楽しみ〜!!」

「ホントに嬉しそうだな」

「うん!あれ?志波も行くよね?」

「…ああ」



良かったー。
テンション低いから行かないのかと思った。
二人でデートなんて夢のまた夢だけど
一緒に遊びに行けるというのが
本当に嬉しい。楽しみ。
早く来週にならないかなー。







そしてゴールデンウィーク最後の日曜日は
真咲先輩と志波、結花、4人でお出かけ。

私と結花の部活がなくて
真咲先輩と結花のアルバイトが無い日
それが今日だったのだ。



真咲先輩の車に乗り込みいざ出発!

「ごめんな、後ろのお二人さん、狭いだろー?」

「大丈夫大丈夫、私達細いから、ねー結花?」

「ふふっ、そうそう。心配いりませんよ、先輩」

「なんでオレが助手席なんだ…」

「勝己の図体じゃ後ろには入れないだろー?」

「…それでも………」

「ん、勝己?なんか言ったかー?」



行き先は動物園!

小学生の時以来かもしれない。
動物園なんて。



「お!ふれあいコーナーだ!懐かしいなぁ、な、勝己?」

「別に…」

、結花、
 うさぎとかモルモットとか、好きか?」

「私、大好きなんですー!
 家でハムスター5匹飼ってるんですよ。
 もーちっちゃい動物見るとドキドキしちゃうんです!」

「へー、結花ってハムスター飼ってるの?
 うちは何もいないからちょっと羨ましい。
 犬飼いたいなー、犬」

「よーし!じゃ、まずはふれあいコーナーだ!」

「「はーい」」

「…はーっ」

志波、テンション低…。
動物嫌いなのかな?
っていうか恐がられる、とか。
ありえる。
ぷぷっ…

「なに笑ってるんだ?」

「え、ううん、なんでもー」



しかーし、私の予想は大きく外れたのだ!
ありえない!
おかしいでしょ、どう見ても。
だって志波がうさぎ達に取り囲まれてる!!

ぷはっ!あははははは!!

取り囲まれて困った顔面白い!!
写真、写真…

「先輩、撮れたよ!志波の面白写真!!」

「おー、、後で勝己に殺されるなよ…」

「う、内緒って事でよろしくお願いします」



「志波君、すごい!すごすぎる!」

「…はぁっ」

「やあん!可愛い、白ちゃん、黒ちゃん、抱っこしたい!
 あーピーターラビット君もいる!!」

うわあ、結花大喜びしてる。

「あ、ねえねえ、あっちにハムスターコーナーもあるって。
 お願い!一緒に来てみて!ね?」

「…ああ」

「おーい!先輩もも行ってみようよ!」

「はーい」
「おー行くか」



結花のテンションうなぎ登り。
本当に小動物好きなんだな。

志波、手の上にあんなにハムスター乗せて。
それを覗き込む結花…うう、絵になるかも。

「「はあ…」」

「え?真咲先輩、どうしたの?」

「おまえこそ、ため息ついてどうした?また悩み事か?」

「うーん…どうなんでしょう?」

「どうなんでしょう?って逆に聞かれてもなぁ…」

「先輩こそ、ため息なんて珍しい」

「オレにだって悩みぐらいあるぞー」

「じゃ、こないだ助けてもらったから、
 今度はちゃんが先輩の相談にのってあげます。
 さ、どーぞ!」

「ははは!頼もしいなー。
 ま、今はまだ大丈夫だから、
 そのうちお願いします、ってな」

「いつでもどーぞどーぞ!あはははは」

「おー、頼んだぞ。
 お…勝己クンが睨んでるな」

さっきまで困ってても楽しそうだったのに
疲労してるようなイライラしてるような
そんな目でこっちを見ていた。
動物相手にして疲れたのかな?

「よーし!メシにしよう。
 おーい、勝己、結花、移動するぞ!」





広場でお弁当。
私も結花もそれぞれ作ってきたんだけど…
真咲先輩のお弁当が一番美味しい!!

志波は、私のも結花のも先輩のも、
黙々と食べてくれて
それが均等に食べなきゃっていう優しさなのか
それとも単に食い意地がはってるのか
分からなかったけど
沢山食べるのを見てるのは気持ちいい。



「そうそう、今度、うちの野球部一高と練習試合するんだよ」

「え?」

「すごいでしょー。
 甲子園出場校がはね学に来るなんて。
 ねね、も見に来なよ?」

「うん…、たぶんその日は陸上部も練習日だから学校にはいるはず」

「じゃあ絶対来てよー。野球部のみんな張り切ってるんだー」

「じゃ、応援も頑張らないと、だね」

「そういえば、一高の今年のエースって2年生なんだって」

「へー………」

「鈴木君っていうらしいんだけど―――」

貴大、
あれから返信も無くて、
やっぱり怒ってる、よね。
嘘ついた事とか色々…。

志波が「付き合ってる」って
嘘ついてくれたけど、
結局騙しておくのは嫌で
メールには「片思い」って
書いたんだよなぁ。

顔、合わせ辛いなぁ………



ボスッ!

頭の上に乗った大きな手のひらが、
私を結花との会話から引き離してくれた。

「オレも行ってもいいか、桐野?」

「え!志波君来てくれるの?本当に?大歓迎だよ〜!」

「おい、

「はい?」

「一緒に行くぞ」

「あ…うん」

そっか。
あの日の言ってくれたこと覚えてたんだ。
志波と一緒なら
何かあっても大丈夫、だよね。

…よろしくお願いします。






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