30.はばたき城
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「おい!志波、いるか!」 「………なんだ」 G.W.明けの月曜日、 休み時間にズカズカ入ってきたのは針谷。 前の時間からスヤスヤ気持ち良さそうに寝ていた志波は 針谷のよくとおる(つまりデカイ)声に起こされて …かなり不機嫌だよね、あれは…。 5月の席替えで志波とは離れちゃったんだよねー。 志波は窓際一番後ろ。 私は廊下寄りの前の方だから、 授業中にコッソリ見ることもできない。 針谷楽しそうだなぁ。 休み時間に楽しくおしゃべり…か。 こういう時だけは自分が男だったらーって羨ましくなる。 「おい!!オマエも来るんだぞ!」 「はい?!」 いきなり呼ばれてビックリなんですけど? 「なんだよ、オマエ! こっち見てただろ、聞いてたんじゃねぇのかよっ!」 カムカムとジェスチャーされたので 針谷の所へ行ってみた。 「今度の日曜日、バス停に集合だかんな!遅れんなよ!」 やけに目をキラキラさせて満面の笑みで針谷は言うんだけど その横にいる志波は何故かため息ついて憂鬱そう。 「あのー、いったいどこへ?」 「オマエ知らねぇのか?今一番ホットなスポットを?!」 「どこ?」 「、少し流行も勉強した方がいいぞ、マジで。 5月オープンのスポットっていえば、 はばたき城に決まってんだろ!」 「へー」 「『へー』ってオマエ、もっと驚けよ! とにかく遅れんなよ!志波もだぞ!」 くらーい感じだけど「ああ…」って志波が言ったから 私も行くことに決定〜! 「あとは誰が行くの?」 「ああ、いつものそこらへんのメンツでいいんじゃねぇ?」 「そだね。はるひとあかりと佐伯と…」 「なあなあ、ボクも行ってもええ?」 「あ、クリスも行く?いいよね、針谷?」 「ああ、いいぞ」 「やった! ボク、日本のお城、めっちゃ興味あんねん。 楽しみやわぁ!」 「お!オマエいいセンスしてんじゃん!」 「ねえねえ、私も行っていい?」 「結花も興味あるの、お城?」 「みんなで遊びに行くのが楽しそうだなぁって思ったの」 「確かに、みんなって楽しいよね!よし、行こう、結花も!」 「わー、よかったあ! 針谷君?桐野 結花です。よろしくお願いします」 「ああ!よろしくな! ただし、結花、オレ様のことはハリーと呼べ! おい、もだぞ!」 「やーだよー。 あ、ほらほら、次の授業始まるよ。 早く自分の教室戻った方がいいんじゃなーい?」 志波と、もとい、みんなでお出かけ〜。 楽しみ! あれ?でも、志波行きたくなさそう??? 「展示コーナーと天守閣があるんだってよ。 どっちもすっげー行きてーっ!」 「うん、ボクも!ハリークン、どっち先がええかなぁ?」 「おい、クリス!クンはいらねぇんだよ、クンは。わかったか! じゃ、まずは展示コーナーから行くとすっか!」 針谷とクリスは意気投合して 先頭きってお城にずんずん進んでく。 その後ろを私達女子ははぐれないようについていく。 「ねえねえ、あかり?佐伯来ないの?」 「うん、忙しいとか人が多いからやだとか言ってた」 「なんやねん、それー」 「ゆっくり休んで欲しいとも思うんだけどね…」 「よーし、あかり!今日は女の子で遊ぼう!」 「そやそや!あたしも付き合うで!」 「?何の話してるの?」 「あ、結花、えーっと、女の子チームで盛り上がろう!って。 ね、はるひ?」 「そうやねん、結花、一緒に行くで!」 「うん!」 私達の後ろをノロノロと重い足取りでついてくる志波。 なんだかノリが悪いなあ。 朝のランニングで会った時も暗かったよなぁ。 「どしたの?志波、暗いよ?」 「…あれ」 志波があごでさした方向にはお城。 「うん、お城だね?で、それが?」 「天守閣…」 「あ!ああ、ああ!そっか!天守閣!高いもんねぇ!」 「はーっ………」 「ここ山の上だし、見晴らし良さそうだよねぇ」 「言うな…」 まだ見てもいないのに 想像だけでこわがってるのが なんとも言えずおかしいぞ。 ここで笑っちゃだめだだめだと思いつつ、 ほっぺの筋肉がひくついて、口元がー… ぷぷっ 「…笑うな」 「だ、だって…ぷふっ………おかしいんだもんっ」 「…っ」 「睨まないでよー。 天守閣が高いのは私のせいじゃないもん! あ、そーだ! こわいならお姉さんが手つないであげようか?」 「お姉さん…って、誰だ?」 「私に決まってるじゃん。誕生日私の方が早いし」 「………お姉さん」 「う、なによ、そのバカにしたような目は」 「どうみても姉って感じじゃないだろ」 「もういいよ、そんなに深く突っ込まなくても。 冗談なんだから」 「なんだ、手つないでくれないのか…」 「え?あの、えっと…えええ???」 「………ククッ」 「はっ!か、からかったな!なによー!!」 いきなり真面目な目でジッと見られて あんな台詞言われたから 一瞬どぎまぎしちゃったじゃないか! もう! 「それにしても、針谷のやつ、 自分の苦手が無いからって調子にのりやがって…」 「うん、確かに。 最初は展示コーナーだーって張り切ってた。 展示コーナー……… なんか針谷をこわがらすものがあるといいねぇ、うふふ」 「オマエがこわいぞ、それ」 「展示コーナーなら志波は大丈夫でしょ? ほら、行こ行こ!」 「おー!すっげぇ刀だなぁ!」 「ああっ!!!」 「わーっ!なんだよ、!!!急に大きな声だすんじゃねぇよ!」 「……あー、ゴメン…気のせい、だった、みたい。 おどろかしてごめんね、針谷」 「な、なにが『気のせい』なんだよ」 「うん…そこに飾ってある刀がね………」 「あ、ああ、刀がどうした?」 「…やっぱやめとく」 「なんだよっ!気になっちまうだろっ?!」 「言っていい?大丈夫?本当に?平気?絶対?言うよ?良い?」 「な…なんだよっ?」 「さっき…、一瞬血がたれた、ように見えたんだよね…。 やっぱり古いものには色々と………」 「わーーーーーーっ!!!!! やっぱ言うな!最後まで言うな! 次行くぞ、次!! クリス、ついてこいぃ!!」 「うっふっふっふー!大成功!!ねっ、志波!」 「…、おまえ本当に見えたのか?」 「え?見えるわけないじゃん。 針谷のニガコクのために嘘ついたの」 「成功、だな」 「?ハリーどないしたん?」 「えへへ、ちょっとおどかしちゃった。 ニガコクニガコク。 あ、はるひ、一緒に行って落ち着かせてあげれば?」 「え、あ、そうやなー、ほなちょっと行ってくる」 「行ってらっさーい」 「さてと、あかり、結花、 なるべく早くまわってさ、 お城の外に売ってたみたらし団子食べようよ」 「「さんせー!!」」 「じゃーノロノロしてる人たち急かして ドンドン行こう!」 はい。ドンドン来て天守閣。 うん、眺めいい! 想像以上! 遊園地の観覧車からもよく見えたけど あれは時間経つと終わっちゃうしね。 ココはずーっと眺めていられる〜。 ………あ、忘れてた。 想像以上ってことは さらにダメダメになっているであろう人を。 ん?いない? 建物の中に戻ってみたら 外への出入口から 出来るだーけ離れたところに志波はいた。 窓からも外の景色が見えちゃうから 出来るだけ下を向いているらしい。 外から針谷が 『早く出て来いー!志波ー!』 って呼んでる。 『もうええ加減にしときやー』 ってはるひが一応おさえてくれてるけど。 「志波どうする?手つなぐ?うぷぷっ」 「…っ」 「出てかないで針谷になんか言われ続けるのと、 手つないで『お子様かよっ!』って言われるの、 どっちが良い?」 ってどっちも嫌だよね〜。 一応手差し出しちゃったけど ま、冗談にどう反応するか見てみよう。 「頑張ったらお姉さんがご褒美にお団子買ってあげまちゅよー」 「…」 「わ、ごめん! ふざけすぎましたー! だからそんなににらまないでよー」 ジトーってにらまれちゃったから ギブッ!って手挙げたら その右手をガシッとつかまれた。 「ひえっ!」 「手つないで連れてってくれるんだろ…早くしろ」 「はい?本気?」 「ああ、こうなったら早く終わらせてやる。 …団子も買ってくれるんだな?」 「え、ええ?!」 「約束…ほら行くぞ」 おおー!志波、やれば出来るじゃん。 自分から外への出口に向かって歩いてるよ。 あーでも、手に汗かいてるよ。 本当に苦手なんだなぁ。 っていうか っていうか 手、つないじゃったー! わーわーわーわー! み、みんな見たらどう思うかな?これ? って思ったのもつかの間。 狭い天守閣、 数歩で出口に到達、 外に出た瞬間、 へにゃり と体制を崩して志波は膝をついてしまった。 「…やっぱり、無理だ。手つないでても。 これは高すぎだろ…」 「あれ?志波君どうしたの?大丈夫?貧血?」 「結花…、志波を中に戻すの手伝って…」 「え?あ、うん、どうすればいい?」 「じゃ、そっち、右手持って。私こっち」 「うん」 「ほら、志波、ちょっとだけ立って。 大丈夫大丈夫、両方ちゃんと持ってるから」 「志波君、高いところが苦手だったんだね」 「…」 「私も苦手な場所とかあるから分かるなー、その気持ち」 「おーっ!結花もニガコクやるか?今度?」 「ハリー、お願い、絶対無理。 私パニックになっちゃうタイプだから」 「ふーん、そっか。じゃ、見逃してやる。 おい、? オマエの苦手はなんなんだよ? 前も言わなかったよなー?」 「言うわけないじゃん、自分の弱点なんて」 「さっきオレ様をおどかしただろ!言え!」 「やーだよー!べっ!」 「あ!こら、待てー!!」 「はるひ、あかり、結花、行くよ! お団子お団子!!」 はいはい、終了終了! 早く降りてみたらし団子食べるぞ〜! 「ふわー、ここのお団子おいひい!出来立て?やわやわー!!」 「ほんまやわ、たまには和菓子もええな」 「美味しいね。このタレもいいわよねぇ」 「本当だね、ふー、瑛君も来れば良かったのに…」 「「てるくん〜??」」 「あ…」 「海野さんって佐伯君と仲良いんだぁ」 「き、桐野さん、うん、そう。友達なんだー、あはは」 「はるひ、あかりに遅れをとるな! 針谷のことコウちゃんとか呼んじゃえば?」 「ええ?そんなん、絶対無理やわー!!」 「じゃ、思い切ってコウとか」 「もっと無理やわ〜〜!」 「あはははは!」 あー、気のあう女の子同士って気持ちいいなー。 楽しい!! 「オレの団子は?」 「ああ、志波、やっと降りてきたの?」 「…ほっとけ」 「はい、これ、一応3本買っておいたけど?」 バクッ バクッ バクッ 「足りねぇ」 「ええーー!!食べるのはやいよ!!」 「約束だろ。あと3本追加な」 「ええええええ?!」 「はやくしろ」 ううう、変なこと言うんじゃなかった。 今度から冗談を言う時は気をつけないと…。 Next→ Prev← 目次へ戻る |